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魔導書製造者  作者: 樹
再会から戦争へ
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想外

 スレイク王国は相変わらずさびれていた。


「見張りね…」

「耳と尻尾さえ隠せれば人間だからなあたしは」


 僕と勇也とルーは裏路地を歩く。岡浦を起こし回復したことでヒュガス防衛の心配はないだろう。美月はまだ起きていないタマモと谷川を起こすためにルグルスに残った。正直心配ではあるがディスベルの判断ならば仕方がない。

 スレイクの裏路地は貧民街よりもひどく、腐臭が漂い誰の者かも分からない血が落ちている。

 …獣人族って嗅覚も人間より鋭いんだよな…大丈夫か?

 そう思ってルーのほうを見てみると案の定鼻を押さえていた。


「大丈夫か?」

「…何とかこらえている…」

「臭い…燈義は大丈夫なのか?」

「ま、一応な」


 研究所でいろいろな薬品の匂いを嗅いでいたからなのかあまり臭いと感じなかった。

 裏路地を抜けるともうほとんど修復された一等地が見える。


「相変わらず綺麗な場所だな」

「そうだね…すぐそこは地獄みたいな場所なのに」


 勇也が不満そうな目をする。そして僕たちは一等地を抜け城門の前までたどり着いた。

 高い外壁を見上げる。


「作戦を確認しよう」

「まぁ作戦と言っても引きこもってる愚王に会って話を聞き出すだけだろ?」

「それでも余計は戦闘は避けなければいけない。事前の準備は大切だ。どうやらここには魔力阻害のための結界もあるし、侵入は困難…」

「いや別に困難じゃないが」


 僕は手早く結界の一部を崩し勇也が外壁を斬った。もうすぐ以上に気が付いた奴らが集まってきそうなので素早く中に入り斬った部分を塞いだ。

 切れ味がよすぎて塞ぎやすかった。


「侵入成功だな」

「いや…この結界は一応上級魔法なんだが……もういいや。そうだよな。お前らってそう言うやつだもんな」

「いえそんな…」


 ルーの呟きと勇也の謙遜をききつつ僕たちは城内を歩く。無駄な魔力を使いたくはないが一応隠密魔法である『サイレント』を使っておいた。これで体の一部が誰かに触れない限り見えることはない。


「で、愚王はどこにいるんだ?」

「普通なら寝室とか?」

「あるいは後宮かもな」

「後宮か…ありえない話ではないな」

「そんな場所はいりたくないんだけど…」

「でも探しても見つからないのなら入ることもあるだろ」


 僕も入りたくないからその場合はルーに任せることになるけれど。

 小声でそんなことを話しながら探していると前から大臣らしき老人が数人ほど歩いてきた。廊下の端まで広がっているのでこのままでは見つかってしまう。

 無駄脂肪の塊め…


「仕方がない…戻るか」


 来た道を戻り曲がり角のところで大臣が通り過ぎるまで待った。その時話し声が聞こえてくる。


「準備は進んでいるのだろうな…」

「万事抜かりはない。明日にはあの愚王も崩御するだろう」

「そうなれば世界規模で起きている戦争に乗じて他国を侵略できる…あの愚王め。変なところで慎重になりおって」

「まぁ明日までの辛抱だ。明日からは我々の国になるのだからな…」


 小声でそんなことを話しつつ大臣たちは通り過ぎていく。


「今のって…」

「クーデターの打ち合わせだろうな…なんで廊下でしてんだよバカか」

「多分城の中には王の味方がいないのだろう。クーデターも黙認されるほどに」

「絶望的だな。今日会いに来てよかった。早く探そう」


 大臣たちが通った道を歩く。しかし勇也だけは通り過ぎて行った大臣を見ていた。


「…愚王を助けようとか思うなよ」

「…分かってるさ」


 勇也は少し寂しそうな顔でそう言った。

 そして前を向いて踏み出そうとしたところで、勇也は肩を掴まれた。


「な!?」


 勇也が驚いて後ろを見る。僕たちもそれに反応して後ろを見た。


「久しいの。勇者」

「王様……」


 僕たちの探していた愚王が、そこにいた。



 愚王に案内されるまま愚王の寝室へとはいる。寝室は王宮と違って質素なものだった。必要最低限のものしかおいてない。


「飲むかね?」

「ワインのんでる場合じゃないんだよ……なんなんだお前」

「もう少し驚いたほうがよかったかの?……おぉ!?裏切り者めが!なぜここにおる!」


 愚王はワインの瓶を片手に驚くような演技をした。そしてカラカラと笑う。僕たちはその光景に呆然としていた。


「王様…あなたは…」

「愚王、じゃよ。ただ踊らされ目先の欲にしがみつき、そして破滅する。そんなどうしようもない愚王じゃよ」


 愚王は寂しそうに笑った。そしてワインをグラスに注ぎ少しずつ飲む。


「…王様、あなたは明日殺されますよ」


 勇也がそんな愚王をみて呟くようにそう言った。しかし愚王は優しく笑うだけだった。まるで全て知っているかのように。


「知っておるよ。明日が命日。最後の晩餐にいい客人が来てくれたのぉ」

「晩餐には早いけどな…なぁ、愚王。あんた一体何者なんだ」

「何者、か。わしは一貫してわしじゃよ。百年も前から、戦う力もなく異世界の住人に頼るしかない無能な老人じゃ」

「百年前!?おい愚王!お前確変前の戦争を覚えているのか!?」

「勿論。誰がお主らを呼んだと思っておる」


 当たり前のことを言うように愚王は首肯した。


「わしの目的は負けて負けてさらに負けて、そして戦争から外れることじゃからの」

「戦争から外れた…わざと負けたってのか?」

「あぁ…おかげで気が付かんじゃったろう?まさか人間のこそが鍵だとは思いもしなかったはずじゃ」

「あぁ…想定外だぞ愚王…お前なにを考えてやがった」

「そう焦らずともすべて話そう。だがしかし、ひとつ約束してほしい」

「内容は」

「言えん。だが不利なことではない…どうかね?」

「いいですよ」


 僕が相談する前に勇也が答えていた、愚王―――王はその答えに満足したのか一つ頷いた。


「さて…まずはどこから話したものかのぉ」


 王はまるで友人と語るように、楽しげに笑いグラスの中のワインを飲んだ。

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