表裏
外に出て土屋たちと合流する。
「もう少し遅く見つけてくれよ」
「役に立ったのに怒られた!」
土屋の解析で見つけたんだろう。もう少しかかると思ったんだが意外に早かった。
「悪いが先に帰る。お前は女王様と会っとけ」
「へ?どうして?」
「悪神問題解決に関わる」
「うん。分かった」
土屋とネイスと別れ家に戻り、トーレイの部屋へと向かった。部屋は質素で何もない。
知られたくはないだろうが容赦はしない。探させてもらおう。
「さて、まずは引き出し……」
「待て」
机の引き出しに手をかけたところで制止の声がかかった。振り向いてみるとやはりトーレイがいる。
「出て行ってくれるか?」
「断る。お前には同情するが譲っていいとこじゃない」
僕の言葉を聞いてトーレイが部屋に入り、扉に魔法をかけた。
「音を遮断に出入り禁止魔法か」
「あぁ。お前は知りすぎた」
「やっぱり知っていたわけだ。ネイスの両親を殺した真犯人を」
「真犯人も何も、絶対に勝てない相手としか言っていない」
そうだったな。ネイスの両親の実力をよく知っているこいつなら犯人についていろいろ調べて知っていてもおかしくはないとは思ったが、ビンゴか。
トーレイは剣を抜き、僕に向ける。
「いいのか?ネイスが悲しむぞ」
「わたしにはわたしの掟がある。それに従うだけだ」
「権力者に媚びましょうか?」
「守りたいものは外道になっても守れ。だ」
成程。見習いたいとは思わないがいい心がけだ。
はぁ、にしてもこんなに早く見せることになるとは。
「違う」
「なに?」
「違うんだよ。脅すのはお前じゃない」
僕は顔から一切の表情を消した。
「中途半端に冷たくて巻き込まれればいやいやながらに解決してくれる使い勝手のいい駒、そして武器のことも詳しくなく魔法も武器も知らないバカで強いスキルを持ってるから言いくるめれば戦力になる。僕をそう思ってるんだろ?」
「なっ!?」
「図星か」
トーレイが驚愕を浮かべる。僕は構うことなく続ける。
「お前、僕がどれだけ爆弾もってるか知ってるか?」
「爆弾…?」
「爆弾。要するにネイスの両親のことだが」
「まさか…!?」
そう。そのまさかだ。
「言ったろ。脅すのはこっちなんだよトーレイ。ネイスに真実をばらされたくなかったら僕に協力しろ」
「だがお前がここで死ねば!」
「土屋がいる。あと五分で僕が戻らなかったら全部ばらすように言ってきた」
トーレイの顔がみるみる青くなっていく。
「僕たちをうまく利用してネイスを守ろうとしたようだが甘いな。集落に来る前にしっかり宣言しておいただろ」
「宣言だと?」
「そう。お前が妙な事をしたら殺すといった後、僕はそっちこそ、って言っただろ
」
僕はどう見ても子供だ。子供のくだらない脅しだとでもとったのだろうがそんな意味のない脅しをするほど馬鹿じゃない。
「僕の掟を教えてやるよ」
「…なんだ」
「人を信じるな。だ」
僕はずっとそうやって生きてきた。研究者たちを見て覚えた嘘を駆使して人に取り入りやすい人格を作り出した。適度に冷たく面倒ぐさがりながらも問題を解決してくれる子供。
「そうやって爆弾を手に入れるんだ。誰かと協力するのは癪だがこの際そんなこと言ってられないからな」
「お前、人間か……?」
「人間だよ。自分のために他人を切り捨てる史上最低の害獣さ。だからお前も毛嫌いしているんだろう?」
「あぁそうだ。だからお前らを利用したんだ」
トーレイは観念したように天を仰いだ。
「ミツキすらもだましているとはな…」
「あいつのスキルは魅力的だからな。協力さえしていれば僕の有利に働く」
「……いつから不審に思っていた?」
「最初から。協力的すぎたんだよ。嘘をつくならもっと現実感をだせ」
「わたしたちに協力的にさせたのもお前の演技か?」
「武器のことに詳しくないことか?当たり前だろ。お前らが僕たちを利用するっていうのなら僕や土屋を見殺しにするはずないからな。僕が槍よりリーチに短い剣を選んだ時点で近づけさせないように魔法を使ってくれると思ったのさ。おかげで魔法量も増えたしお前らの協力も得られた」
「くっ……!」
「さて教えてもらおうか。ネイスの両親を殺した奴を」
「……王都の大臣の一人だ。元は集落の長だったが急に昇進した。だがもうこの世にいない」
「用済みになって消されたか」
「間違いないだろうな。森で血の付いた遺品が発見された」
「偽物の可能性は?」
「否定はできない。が、黒幕にとって邪魔以外の何物でもなかったからな。殺したのだろうよ」
どこか諦めたようなトーレイを無視して扉に手をかける。
「出してくれないか?」
「……解除した」
扉は普通に開いた。僕は外に出て扉を閉めようとする。
「待て」
「なんだ?」
「二つ質問がある。答えてくれ。なんでお前は悪神問題に関わろうとする。お前には関係のないことだろう」
「関係はあるさ。見返りで要求する権力は魅力的だ。それに」
「それに?」
「僕は自分が知らないことが嫌なんだよ。未知が恐いんだ」
「恐い?そんな理由で……?」
「十分だろ。もう一つは何だ?」
「時折お前が見せた感情は、なんだ?」
「演技だ。ただ自分の心をだましていただけにすぎない」
まるで化け物を見るような目で僕を見るトーレイを無視して扉を閉める。
もいいいだろう。十分我慢した。僕はフルで能力を使わせてもらう。
さぁ切り替えよう。適度に冷たく結局助けてしまう僕に切り替えて悪神問題を
解決しよう。その先にある僕の目的のために。




