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魔導書製造者  作者: 樹
再会から戦争へ
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悪夢

 全員に向けて放たれた魔法は美月の情報操作と谷川の防御でなんとか回避した。しかしロキは表情を崩すことなく、僕たちに興味を失ったように僕たちの横を通り過ぎまだ消えかけていたフェンリルに触れた。


 そして、フェンリルの元に光が戻り、フェンリルを再構成していく。一分後には半分も消えていたフェンリルの体は完全に元に戻り立ち上がった。そしてロキを満足そうにそれをみて笑う。


「おい…冗談だろ…」


 枯れた声がいつの間にか自分の口から洩れていた。そしてそれはその場にいる全員に伝達する。

 命を懸けて、全力で倒したはずの敵が蘇る。こんな理不尽があるか。


「いや、この世にフェンリルを殺せる人間がいるなんて思わなかったから驚いた。素直に賞賛するよ」

「それを蘇らせるかよ…」

「戦力だからね。理不尽こそ人生だよ……さて、わたしは今君たちを殺せる状況にあるのだが…どうするべきだと思う?」

「見逃すってのは…なしか?」

「あはは、面白い冗談だねなしに決まっているじゃないか……そうだ。いいこと思いついた」


 ロキはいたずらを思いついたような無邪気な笑顔を浮かべ、そして地面に魔法陣を展開する。


「君たち未来のある若者に未来を奪う権利をあげよう」


 そういってロキは魔法を発動させた。地面が暗くなり、そして僕たちはそこに落ちた。


「君たちの覚悟、見せてもらうよ」


 最後に見たのは悪魔のような笑みを浮かべるロキだった。



 目が覚めると、森にいた。


「ここは…」


 周りに誰もいないことを確認して森の中を歩く。そしてある一軒家にたどり着いた。


「ここは…」


 見たことがない、木の家だ。玄関をノックしてみるが返事がない。ドアノブを握ると玄関が開いた。

 そこにいたのは、エプロン姿の美月だった。


「…これは、なんだ?」

「どうかしたの?」

「いや…なんだこの幻覚は」

「幻覚?何言ってるの?」


 美月は不思議そうに聞いてくる。


「さっきまでロキと闘っていただろうが」

「ロキ?…誰?」

「いやだから……………あれ?」


 僕は、何を思い違いしていた?ロキは北欧神話の神だが、そんなものと闘った覚えはない。

 そもそもこの世界には王国の不手際で召喚されて、なんの力もないからこの一軒家をもらって暮らしているんじゃないか。


 何を疑っていたんだ?僕は。


「ご飯にしよう」

「そうだな」


 僕たちは夕食を食べる。



 目覚めると、戦場にいた。目の前で仲間が死んでいる。


「…なんだこれ…」

「何だって戦争だろぎゃ!?」


 目の前で叱咤を飛ばした兵士もまた、頭を撃ち抜かれて死んだ。


「悠子…美鈴…べリアちゃん…!」


 名前を呼んでも返してくれる人間はおらず、僕の周りには血の川ができていた。

 そして敵…魔獣が彼女たちの体を引きちぎり、噛みきり、捕食している。


「うっ…!」


 今更のように吐き気がこみあげてきて俺は剣を落とし口を押える。そうしている間にも敵は押し寄せてきて俺は必死で剣を拾い振るう。

 恐怖と怒りが混じった戦いは、永遠とも呼べるほど続いた。そして戦いは終わり後に残ったのは言い表しそうもない虚無感………


 などと思っていると風景は巻き戻り、目の前で美鈴が殺された。


「そん…な…」


 この戦いに終わりはない。その絶望を打ち払うために俺は剣を振るう。



 幸せだ。と僕は思う。幸せすぎる。

 僕は森で狩りをしつつ空を見上げる。雲もない綺麗な空だ。


「あー…クソ。本当に馴染んでしまいそうじゃないか」


 まだ残っている記憶をつなぎ合わせてこのふざけた空間に抵抗をしている。初めてここに来た時はうっかり忘れかけたが何とか思い出せた。

 絶対記録様様だ。


「で、どうするべきかなぁ…」


 魔導書はなく、初級魔法が少し使える程度。勇也たちとも連絡が取れずフェルは行方不明。

 打つ手がない。


「クソッタレ…!」


 僕は悪態をつきつつ森を歩く。



 そして、風景がまがった。僕が驚いている間に風景は変化し、再構成される。そこは真っ暗で何もなかった。


「今度はなん……ぐっ!?」


 急に襲ってきた頭痛に頭を押さえる。すると記憶が、入ってきた。その記憶は勇也が泣き叫んで敵を斬っていた。

 フェルが幸せそうに両親らしき人物と笑っていた。美月が楽しそうに料理していた。岡浦が空しそうに滅んだ世界で佇んでいた。谷川が何かに引きずり込まれて消えようとしていた。タマモが目の前で仲間をヤマタノオロチにただ殺されるのを見ていた。


 全員の記憶が、僕の中に入ってくる。そして僕の、記憶が、塗りつぶされる…


「やめろ…やめろ!」


 僕が叫んでも記憶は入り続ける。ディスベルの、フォンの、フォーラスの、べリアの記憶までもが入ってくる。

 消える。記憶が、古い記憶が塗りつぶされ……この世界を受け入れ……


 そんな限界の状態になったとき、暗い空間が壊れた。差し込んできた光に目を向ける。


「燈義くん!」


 必死に叫んで手を伸ばしているのは、美月だった。僕は塗りつぶされる前に、必死でその手を取った。



 そして目を覚ました。


「驚いた。まさか君がこの魔法を打ち消すなんて」

「解析と介入は得意だから…」


 まだ朦朧とする意識を無理やり押し上げて僕はロキを睨む。ロキは僕の方を見て、笑ったまま一礼しフェンリル共にどこかへ行ってしまった。

 美月の荒い息を聞きつつ僕は立ち上がり、まだ倒れている仲間に目を向ける。


「まだ燈義くんはあの世界に矛盾を感じていたけどみんなは…」

「大丈夫だ…美月、今のまだできるか」

「勿論…でもみんなの魔法を解くのは簡単じゃないよ」

「僕が行く…僕が介入してあいつらの目を覚ます」


 こうして僕は、仲間たちの夢へと旅立つことになった。

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