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魔導書製造者  作者: 樹
再会から戦争へ
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帰還

 いきなり出現した闇と呼ばれる黒い人型の何かとと勇也くんが戦っている。私は指示を出しつつさっき私の中にいる私に言われたことを考える。

 確かに燈義くんはイレギュラーなんだろうけど、だったら私は何なんだろう。勇也くんたちは百年前も勇者として呼ばれて、そして燈義くんと私は偶然巻き込まれて呼ばれてしまった。

 そして確変後の世界に燈義くんが呼ばれたのは分かる。この世界で目的を果たすためには絶対に欠かせない存在なのだろう。


 だったら私は、なぜ呼ばれたのだろうか。


 百年前の燈義くんなら、私を失って絶望した燈義くんたちならこの新しい世界に考えなしに私を呼ぶとは思えない。またあの絶望を味わいたくないはずだから。


 だったら彼女の言っていたことは…


「どうした?」

「ううん。何でもない」


 悠子ちゃんに話しかけられ目の前に視線を戻す。

 そうだ。今はそんなことを考えている場合じゃない。早く燈義くんを連れ戻して説教しないと。



「まさかこの空間に干渉してくるとはな…あの女は何者なのだ?いや生物なのか?」

「…アペピか…」

「随分と憔悴しているではないか少年。もう限界か?」

「バカいえ…無断で来たんだから帰らないとどんな目にあわされるか……」


 暗闇の中関心と驚き交じりに話しかけてきたアペピに反論しつつ僕は自分の腕を見る。


 両腕とも、もうひじのあたりまで無くなっていた。


「あー…くそ…マジでまずいなこれ……」

「乗り込んできたと思ったら何の策もなくピンチに陥るって君らしくもないね」

「仕方がないだろ…これをやるのに予想以上に時間がかかったんだから…!」

「これ?まさか少年――!?」

「悪いな。正攻法で行く気はさらさらないんだ」


 そして僕の両手が復活しその手には一冊の本が握られている。

 太陽の書。言わずと知れたラーの魔導書である。


「あいつらが闇と闘ってくれててよかったよ…!」

「少年…!」

「受け入れられない力なら受け入れられるほど削ってしまえばいい」


 アペピの文句が聞こえるが知ったことではない。光はどんどん大きくなり僕は暗い空間から吐き出された。

 ひときわ小さくなったアペピは僕を恨めしそうに睨む。


「メモリーに話を通しておいたんだ。あいつも僕が消えたら困るらしいしな」

「一体彼女は…いや、それももういい。どうであったにせよ少年の勝ちだ…だが少年、この衰弱しきった我の力を手に入れてなんとする」

「神の力はいらないよ」

「…少年は、神の力を授かるためにここに来たのではないのかね?」

「違う。僕は神の力を使いに来たんだ」


 神の力なんて人間には重すぎる。それにうまく使えるかも分からない。

 神のことは神で対処する。


「ルグルス一体にあいつらの学習能力を効かないようにしてくれ」

「ふむ…その程度のならできるが。それでいいのかね?尖兵をどうにかできてもフェンリルはどうにもならぬ」

「そっちも考えてあるさ…頼んだぞ」

「承知した…さて少年、向こうにもどそう」

「あぁ…頼む」


 おそらく怒られるだろうが、まぁ仕方がないだろう。

 そんなことを思いながら僕は世界に帰った。



 闇の出現が止まった。結構苦戦したけれどこれで終わり…?


「あ…」


 美月小さく声を上げた。そして光の粒子があつまり人の形を形成していく。

 それが完全に出現する前の美月は走り出し、そして彼が出現した瞬間に殴りかかった。彼はいきなりのことで抵抗もできず後ろに倒れた。


「燈義…!」


 怒りよりも喜びがこみあがってくる。


「…悪い」

「バカ…!バカバカバカ…!!」


 燈義は謝ったものの美月は燈義に馬乗りになり涙ながらに叩き続ける。燈義はただ謝ってそれを受け入れていた。

 五分ほどで美月も泣き止み燈義の上からどき、燈義は立ち上がって俺たちを見る。

 俺は悠子と美鈴に目を合わせる。やれやれと悠子は頷きは美鈴はそっぽを向いた。


「全く…」


 俺はため息をつきつつ燈義の前まで行って立ち上がった燈義を思いっきり殴った。燈義は吹き飛び倒れる。


「どれだけ心配をかけたと…!」

「……すまん…」

「謝っても済みません!」


 突然背後から怒鳴り声がしたと思うとフェルちゃんが叫んでいた。涙交じりの声で叫んだフェルちゃんに俺たちは驚く。

 しかし燈義は特に驚くことなく起き上がってフェルの前に歩き謝った。


 そして俺たちのほうを向いて頭を下げた。


「ごめんなさい」


 燈義の初めての謝罪に俺はため息をつき、美月は少し笑ってフェルは無表情に戻った。


「それで、なにか収穫はあったんだよね」

「勿論。とりあえず尖兵は問題ない…なぁ」


 燈義は俺たち全員に話しかけた。


「僕たちだけでフェンリルを倒すって言ったら、ついてきてくれるか?」


 その言葉に俺たちは合図することなく頷いた。


「倒せるんだよね…フェンリルを」

「倒せる」


 燈義は自信をもって首肯した。俺たちは燈義の作戦を聞くためにルグルスに戻った。

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