差異
「つまり…燈義は創造主と同じじゃないってこと!?」
『違いますね。同じではありませんでしたが、同じになりました』
「…意味が分からないんだけど」
燈義の意外な出征の秘密を知った俺たちは驚きを隠せず困惑する頭を必死に整理しつつメモリーに質問する。
というか、絶対記憶能力ってスキルだったんだ…いや、スキルだとしてもおかしくはないけどさ。
「それで、同じになったっていうのは?」
『体は魂の入れ物である。なんてこの世界では思われがちですがしかしながらそれは真逆なのです。体があるからこそ魂があり、魂は体に合わせて変化していくものなのです』
「体に合わせて、変化?」
『はい。それまでの生活と経験などにより少しずつ魂は変化し、一個人となります。故に浅守燈義の体に入った魂は体に合わせるために浅守燈義と成るのです』
「理解しがたい話だけど…つまり燈義の体に入った誰かは地球で生まれなおしたときに燈義と同じような生活を送ったから燈義と同じになったってこと?」
なんて複雑な…いや、でもそれが一体どうしたというのだろう。別に燈義が誰であろうが今まで一緒に戦ってきたのは燈義なんだからそんなに支障はないと思うけど…
『あなた方に支障がなくともこちらにはあるのです』
「心の中読まないでくれます?というか支障ってなんですか」
『先ほどのあなたの要約は間違いなのです。絶対記録というスキルを受け継いで転生したので創造主とは全く別の人生を歩んでいるのですよ』
「別の人生…?」
『その通り。創造主には絶対記録などというスキルはなく、地球での人生はもっと変わったものでした。故に百年前の彼はすぐに勇者と協力できたのです』
「いやでもそんなこと今更関係ないでしょ。百年前の戦いは終わってこの世界があるんだから」
『終わってはいませんよ』
「え?」
『この世界は百年前の戦争の延長線上にあるのです。世界を創りなおすという願いはまだ叶い続けているのです』
叶い続けている?確かにこの世界は不完全なところがあるのかもしれなけど…それも含めてまだ願いの途中ってこと?
『あなたたちが創造主を倒した場合願いは破棄され元の世界に戻ります。新しく呼ばれた人間を、つまりは勇者たちや土屋美月をその世界で生かすことは可能です。そしてその世界で生き残った凪川勇也もその世界で生きることは可能でしょう。しかし浅守燈義は全くの別人。体も魂も同じであってもやはりズレが生じるのです』
「そのズレがあれば、どうなるんですか…」
『元の世界の戻るときに、異常と判断され外されます』
は、外され…?それってまさか…!
『浅守燈義は消え、何かしらの代役が立てられるでしょう』
メモリーのふざけた話は僕にも聞こえた。どうやら脳内に直接話しかけているみたいだ。
成程そいつは理不尽だ。僕だって消えたくない。
「で、僕はどうすればいいんだ?放っておいても何も問題ないのならお前が出てきたりしないだろ」
あの記憶の旅から戻ってきた僕はまた暗い空間に閉じ込められた。とりあえずメモリーの目的を聞くために話しかける。
『困ったことに世界を創りなおすなんて願いのおかげで地球とこの世界がつながってしまいまして。このままじゃ穴が広がって対消滅します』
「で?」
『向こうの世界とこちらの世界は今つながっている状態になります。だからこそ勇者やあなたが呼べたわけです。そしてつながっているからこそ存在が消えたと認識されず地球に代役が立てられなかったというわけです』
「いや穴の成り立ちとかどうでもいいから。僕たちは何をすればいいんだ?」
『簡単です。浅守燈義』
メモリーは僕に向かって言った。
『新しい世界を創ってはいただけませんか?』
つまりは、創造主になれと。
いやそれしか方法がないんだったらそれに頼るしかないが…その場合は僕、今の創造主と同じ状況に、つまりはこの世界に干渉できなくなるんじゃないか?
「ただ消えるよりましでしょう?」
「マシなもんか」
メモリーの最後の言葉は直接耳に聞こえてきた。僕は即座に反論するがその反論を聞き入れることなくその場から消えた。
つーか…まさかそんなことになっているとはな…でもこの程度のことも織り込み済みじゃないのかあいつ。
結局は自分を信じられるかって話になるわけだ。
創造主は一連のやり取りを見て深くため息をついた。
僕がもう一人いることは知っていたがまさかそんな理由だったとはな…本当に驚いた。
「で、どうするのさ」
「別に…今まで通り進んでいくだけだ」
話しかけてきた勇者にそう返しつつ創造主は上空の穴を睨む。
もう時間がない。が、戦争も最終局面だ。
僕ですらわからない戦争の行方。その最後の敵として立ちはだかる日もそう遠くないだろう。
「俺は君を信じているけど…」
「あぁ…僕も僕を信じているよ」
たとえ本質が違おうと僕は僕だしな。
創造主は魔導書を開きそれを出現させる。
「頼むぞ…願望機器」
光をまとったそれをしまい創造主は立ち上がる。最後の仕上げをするために。
携帯から手を離した勇也くんをみて私燈義君を助けるための方法を必死で考えていた。
何かできるはずだ…何も出来なかったらなんでここにいるのか…!!
『聞える?聞こえてる?』
不意に、私の脳内に誰かが語り掛けてきた。
『聞えているのなら頷いて』
私は一つ頷いた。声はノイズがかかっていて聞き取りずらい。
でも…これは…!
『もう一人のイレギュラー…私なら何とかできる。作戦、聞いてくれる?』
百年前の私が、嬉しそうに話しかけてきた。