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魔導書製造者  作者: 樹
再会から戦争へ
183/258

昇天

 神々の尖兵は、闘うごとに強さを増していった。まるで戦い方を学習していっているように。使える魔法も増えているし腕力も速度も増している。

 ループ…じゃないな。これはまるで、学習だ。


「一体一体倒していたら埒が明かない!最上級魔法で一気に仕留めろ!」


 命令を誰かが出し、そしてその命令に従って数人のエルフが魔法を繰り出した。


「やめろバカ!!」


 フォンの制止も聞かず魔法は放たれた。

 数人分の魔力を込めた炎魔法『ゼロマテリアル』が尖兵たちに迫る。そして尖兵たちを飲み込み、大量の光を発生させた。

 三十体は死んだか…まぁ、それもこれ以上効かなくなるんだろうな。


「最上級魔法か……」

「トーギは使えるのか?」

「使えるが今使ってどうする。あいつら…」


 舌打ちをして最上級魔法で尖兵を屠って喜ぶエルフを見る。

 こうしてフォンとと会話している間にもじりじりと、そしてはっきりと僕たちは不利になっていた。


「もう最上級魔法以外効かないな…」


 エルフが最上級魔法を撃った時点でもう次の作戦を練り始めていた僕はすぐに指示を出す。


「魔法部隊は後方支援だけにしろ。前衛の奴らは武器に対して絶対魔法を使うな弾かれる」

「亜音速砲のチャージできました!」

「撃て」

「ですがまだ味方が!」

「大丈夫だ。僕が何とかする」


 僕はすかさず転送魔法を使って弾道上の味方を転送し、そのすぐ後を亜音速砲が駆け抜ける。

 戦いが始まって三時間弱。分かったことは学習をすること。そして現時点において最上級魔法かそれに匹敵する威力以外の魔法は弾かれてダメージを与えられないということ。


「せめて発生源さえわかればな…!」

「連中は遥か上空から飛んできた。発生源があるとしても現時点での対処法はない」


 僕の苛立った声にフォンがダメ出しを入れる。

 そう。対処法がない。こちらがどれだけ強い攻撃を繰り出そうが魔法ならば弾かれ物理攻撃でもいづれ追いつかれ、追い抜かれる。

 必要なんだ。圧倒的な力が。


 神の、力が。


「トーギ?」

「…何でもない」

「ならばいいが…美月がこちらに来る。わたしは行くぞ」

「死ぬなよ」

「君こそ」


 フォンが僕の隣から立ち去り入れ替わりに美月が僕の隣に並ぶ。


「フェルちゃんと一緒に亜音速砲の警備してたけどしばらくは使えないらしいから応援に来たよ」

「助かる…で、お前から見てどうなんだこれは」

「どうって言われても…圧倒的だよね敵が。このままじゃ…」

「そう、だよな」


 負ける。確実に。それを打開するには…


「美月」

「何?」

「悪いが、もしものことがあったら、勇也を頼れ」

「燈義くん…?」


 いつもの僕じゃない雰囲気を察したのか美月は不安そうな顔をする。僕は美月の頭をなで、その場を離れた。


「燈義くん…どこいくの?」

「…ちょっと、な」


 僕は作り笑いを浮かべ、転送魔法を使って誰もいない場所に移動した。

 美月は、焦っているだろうか。…怒られるだろうな。


「アペピ」

『覚悟はできているかね?少年』

「あぁ…頼む。お前の力を、くれ」


 そして僕は言ってはいけない言葉を口にしてしまった。


 意識が溶け、目を閉じる。脳裏に浮かぶのはこの世界に来てからの日々。


「走馬灯ってやつか…」


 僕の体がなくなっていく感覚がした。何とか保っている意識で僕は自分の右手を見る。

 右手はもう、光になってなくなっていた。


「燈義…くん?」


 美月の声が聞こえる。なんだ、もうばれたのか。


「悪い、ちょっと逝ってくる」


 はたしてこの言葉は聞こえただろうか。

 僕の体は光になり、昇天した。



 嫌な予感が全身を駆け巡る。


「虫の知らせってやつか…」


 なんだ…なんだこの嫌な予感は。冷や汗が止まらない。

 何が…何が起きた!?


『勇也くん!勇也くん!!』

「美月…!?どうしたの!?」


 一応持っておいた水晶から美月の泣き声が聞こえた。


『燈義くんが…燈義くんがぁ…!』

「燈義がどうした!?まさかまたケガ!?」

『死んじゃったの!!』


 ―――――――――――――――は?


「な、何をばか…な。そんなわけ……」


 震える手を必死で止めようとする。冗談だ。冗談に決まっている。


 だが、美月はこんな冗談を言うか?この戦争と言う人が当たり前のように死んでいく状況で、そんなふざけた冗談を。


「冗談に決まってる!」


 俺は力任せに剣を振るいその不安を吹き飛ばすように敵を倒した。


「勇也!力を使いすぎるなっていったでしょ!?」


 美鈴の声が聞こえた時にはもう敵はいなかった。上空を見ると一斉に尖兵が空にあがっていく。俺はしばらく荒い呼吸を繰り返しそして燈義を探すために走った。

 負傷している兵士、介護している兵士、作戦を立てているフォンさんたち。


 だが、いない。どこにも、燈義がいない!


「こんな忙しいときにどこに行ってるんだあいつは!」


 不安をかき消すために大声をだしルグルスを駆け回る。

 そしてある裏路地で美月が泣いているのを見つけた。


「美月!今すぐ解析で燈義を探すんだ!美月のスキルならすぐに!」

「無理だよ…」

「無理って…そんなはず…」


 美月は無言で俺にそれを差し出した。

 携帯電話…燈義の…


「そこに、落ちてたの……」


 携帯を受け取り俺は美月の指さした場所を見る。


 ………嘘だろ………


 そして美月が泣き崩れ、俺が何も考えられずボーっとしているその時、携帯が鳴った。俺は急いで電話にでる。


「もしもし!?燈義!?」

『違います』


 違った。相手は女性だった。

 いや…でもなんで燈義の番号を…


『浅守燈義は、死にました』

「な…!?何を言って―――」

『しかし消滅したわけではありません』


 その言葉に俺は口をつぐみ美月は泣き止んだ。全神経が携帯の声に集中する。


『浅守燈義を救いたければ、皆さんにも協力していただきます』

「あんた、誰だ」

『そうですね…では以前使った名前で、メモリーと名乗りましょうか』

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