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魔導書製造者  作者: 樹
再会から戦争へ
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尖兵

 ディスベルが帰ってきたその日の真夜中、僕は美月とともに救済の中にいた。救済はかなりの痛手を負っており早く修理しなければこれから先の戦闘に多大な支障をきたす。なので美月と僕が駆り出された。

 そしてもう修理は終わり、今はしっかりと起動するか確認している。


「つーかあの噛まれた跡はシャレにならないな。動きの遅かったヤマタノオロチは大人数でかかればよかったが動きが俊敏となると大群じゃかえって不利だ」

「でも少数精鋭で戦ったとしてもすぐにやられちゃうかもよ」

「そうなんだよな…とはいえ無視しているわけにもいかない。早く対策を立てなくちゃいけないんだが…」

「そう簡単にできないよね…」


 しかもフェンリルは救済の主砲を喰らっても無傷だったという。救済の主砲は亜音速砲よりは威力が劣るものの上級魔法をぶつけるくらいの威力はある。

 上級魔法をぶつけて無傷とか、魔法耐性でもあるのか?いや砲弾の物理攻撃も効かなかったからヤマタノオロチと同じでどこかから魔力補給を受けて防御力でもアップしてるのか。


 それとも特殊な条件下でしか倒せない相手なのか。


「フェンリルってさ、北欧神話の狼だよね。最後はどうなったの?」

「主神であるオーディンを飲み込んだ後にオーディンの息子であるヴィーザルって神に口を裂かれて死ぬんだ」

「へー…オーディンって飲み込まれちゃうんだ」


 案外そこに攻略の鍵か隠されているのかもしれないが、今のところは何とも言えない。ただ、フェンリルが動いているのなら動かしているのはその父親に当たるロキと考えるべきだろう。

 そして直感ではあるがあの光海とともにいる黒い影は、おそらくロキ…


「燈義くん?どうかしたの?」

「いや別に…救済の起動確認は終わったか?」

「うん。問題なし。HPも回復した…でも驚いたねー。まさか救済が電脳種になるなんて」

「そうだな…あいつのスキルも便利なもんだ」


 キトルはディスベルとともにすでに休んでいる。

 救済の点検を終えた僕たちは救済から降りて休むために自室に向かう。もうフェルは休んでいる。僕たちも早く休んで明日に備えないと…


『少年』

「…何の用だアペピ」


 いきなり脳内に話しかけてきた。


『フェンリルが攻めてきたらしいな』

「何で知ってるんだ…」

『神は神の事情に詳しいものなのだ…ところで、少年。困ってはいないかね』

「困ってるよ。どう対策すればいいか分からないからな」

『対策はできぬよ。あやつはこの戦争の中心部にいる存在だ。人間が対策したところで鼻で笑って踏みつぶされるだけだ』

「じゃぁどうしろって…」

『対策もなにもない。ただ対抗すればいい』

「…つまり?」

『神の力に興味はないかね?少年』


 その言葉は僕の心にしみ、そして重く溶けていった。



 美鈴とともに牢屋で一夜を明かし、俺は戦争のためにその場を離れようかどうか迷っていた。


「美鈴…俺は…」

「もういいよ…行ってよ。勇也の力が必要なんでしょ?」

「そうなんだろうけどね…でも美鈴も放っておけないんだよ」

「相変わらずね…敵なら放っておけばいいのに」

「敵じゃないから放っておけないんだよ」

「敵よ…勇也の敵じゃなくても、世界の敵よ」


 そう言って美鈴はふさぎ込んでしまった。


「…燈義」

『いいのか?』

「敵はいるんでしょ?」

『いるな。やるぞ?』

「よろしく」


 燈義に連絡を済ませ、そして作戦を実行した。床が光り魔法陣が現れる。


「行くよ」

「へ?どこに―――」


 美鈴の質問を済ませる前に魔法が発動した。


 そして、目の前の戦場が広がる。


「なに…これ…」

「神々の尖兵。俺たちの次の敵」

「敵って…」

「戦ってよ」


 そう言って俺は美鈴に槍を渡した。


「…なんのつもり」

「美鈴が世界に認められるための儀式。かな」

「どういうこと?」

「別に何でもないよ。ただ美鈴は神に操られているってことになってるから」

「…だからこいつらを倒せって?」

「そう」


 美鈴は尖兵、槍を持った天使を指さした。俺は襲い掛かってくる尖兵を倒し美鈴に笑いかける。


「美鈴の力が必要なんだ」

「裏切ったら、どうするの?味方してくれる?」

「勿論」


 俺は即答した。

 最初からその質問は予想していたし、答えも決まっていた。俺は宣言通り美鈴もべリアちゃんも守る。そして恵梨香さんも、きっと。


「ねぇ勇也」

「なに?」

「アタシ、勇也と一緒に闘っていい?」

「そのために呼ばれたんだよ」


 俺はにっこりと笑いかける。美鈴は槍を持って立ち上がり、尖兵の一体を刺し貫いた。


「じゃぁ、協力してあげる」

「ありがとう」


 その上から目線な物言いに懐かしさと安堵を覚え、俺は剣を構えた。



 岡浦はもう回復したようだ。

 つーか単純だなあいつも。それよりもあの…アペピが言った言葉は…


「燈義くん?」

「…何でもない」


 僕は美月にそう返し、敵に目を向ける。

 神の力。確かにそんな力があれば戦争を有利に運べるだろう。


 だが、そうなったら僕は僕でいられるのか?

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