隠蔽
王女は懐から水晶をだしてそれを割った。割れた水晶から煙が吹き出し部屋を満たした。
「なんだこれ」
「追憶水晶。この部屋の記憶を見るのさ。まぁ十五分しか使えないし、一番強烈な記憶しか見えないけど」
煙が晴れ、窓から太陽の光が入り込む。周りは綺麗になっている。
この部屋の記憶か……
「これで何を探すんだ?」
「悪神についての情報さ。この集落には三十年前にも悪神が現れたという報告があるからね」
「だからわざわざこの集落に来たのか」
「そういうことだ。まぁこの部屋自体は五年前にできたものだから証拠があるかどうかは分からないけど、やってみる価値はある」
三十年前……悪神の通り道っていうのは決まっているのだろうか。それにしても、なぜその時は王都を襲わなかったんだろう。いや、そもそもなんでこの集落に情報があって王都にないんだ?
「トーギも見てくれ。追憶水晶はあんまり持ってきていないんだ。見落としたら困る」
「分かった」
部屋はできたばかりのようで、たくさんのエルフたちが石版や古書を運んでいる。
『この石版はこっちでいいか?』
『こっちの古書も入れておいてくれ』
『おい!運んだものは報告してくれ!』
沢山のエルフが行きかう中、一組の男女が入ってきた。
『あぁ!長!』
『長はやめてくれ。俺はそんながらじゃないよ』
『あら、格好いいじゃない』
夫婦だろうか。仲睦まじく笑っている。
『そういえば、長の娘さんはどうですかい?』
『元気だよ。今はトーレイに預かってもらってるんだがね』
「トーレイ……?」
トーレイって、あのトーレイ……だよな。だったらこいつらがネイスの両親か。
『長!大変だ!』
『長じゃねぇ!で、どうした?』
『王都から来客だ!』
「何?」
フォンが疑問の声を上げる。
「どういうことだ……王都の記録にそんなものはないぞ」
「記録がない?」
しばらくして扉から豪華な着物を着た男たちが入ってきた。
「見覚えは?」
「ない……」
フォンは混乱しているようで食い入るように見ている。
『……何してんだ?』
『王都の役人さ』
『へぇ、昇進したもんだ』
ネイスの父親と男は互いに握手し、出て行った。同時に煙が充満して元の部屋に戻った。
「誰なんだあいつは……」
混乱しているフォンを無視して魔導書を取り出した。
「下がってろフォン」
「え?なに―――」
フォンが言い終わる前にオーバーパワーを発動し、椅子を掴んで壁に思いっきりぶつけた。椅子が砕け壁に大きな穴が開く。その向こうには埃にまみれた部屋があった。
「フォン、追憶水晶はまだあるか?」
「あるが……使う?」
「使え」
フォンは懐もう一つ追憶水晶を取り出して割った。煙が晴れ見えたのは血にまみれた床と壁。血まみれの人々。血まみれの兵士とその後ろにいるあの男。
「これは……」
「確かに強烈だな」
これ以上ないくらいに。
「一体これはどういう……」
「殺されたんだよ。あの男にな」
「なんで?」
「邪魔だったんだろ」
部屋に入り倒れている男女を見る。言うまでもなくネイスの両親だ。
『森に捨てに行くぞ』
『ハッ!』
兵士が死体を担ぎ出ていく。部屋には男だけが残った。
『ぼくにたてつくからだよ。屑が』
嘲笑い、男は出て行った。煙がでて元に戻る。
「エルフの国もくだらないな……本質は人間と同じか」
「言い返す言葉もない……」
さすがのフォンも肩を落としている。僕は部屋に入りネイスの両親が寝ていたところに触れる。
「床が変えられてる。壁も変えられてるか……」
「探して何か見つかるのか?」
「何もないことが証拠になることだってある」
「どういうこと?」
「答える義理はない」
探しているとガヤガヤと沢山のエルフが入ってきた。あぁ捜索隊の奴らか。
「王女様!」
「あぁ!おいこの部屋「直しておいてくれ」
フォンの言葉を遮りフォンを睨む。フォンは僕の意図を察して黙った。トーレイがため息をつきつつこっちに来た。
「悪い。壁が老朽化していてぶつかったら崩れた。危ないから直しておいてくれ」
「分かったが……見つけたなら報告してくれ」
「悪い。石版に夢中になってたんだ。そういえばこの部屋ってなんで隠されてたんだ?」
トーレイはこ部屋を見て「さぁ?」と言った。
「構造上で問題でもあったんじゃないか?」
「そうか」
今はこれでいい。少なくともトーレイはシロだ。トーレイが犯人ならネイスを生かしておく理由がない。むしろネイスの両親がネイスになにか託していたら厄介だと思って殺すはずだ。
それになにより、トーレイはネイスのことを本気で大切に思っているしネイスの両親の死を本気で悔やんでいた。
色々引っかかることがあるが悪神問題を解決するうえで解決してやる。
「くだらないもん見せやがって」
人間の本質を見たようでイライラした。