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魔導書製造者  作者: 樹
再会から戦争へ
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解析

 突入した部隊から絶えず送られてくる報告を聞きつつオレは施設の見取り図を描く。

 まるで迷路のようなその施設はどうもこの数年じゃ魔法を使ってもたてられないほどの規模を誇っている。もしかしたらヒュガス全土の地下に広がっているのかもしれない。


「広すぎるだろおかしいだろ!」

「多分昔堀った洞窟をつなげたんだろうね。ヒュガスは地下資源が豊富だから」

「成程…で、このバカ広い空間の中からどうやって現況を見つけるんだ?さすがの電脳種の機械でも無理だろ」

「そうだね。これだけ大きいと数日かかるね」


 これを数日で解析するのかよすごいな。

 だが今のオレ達にそんな余裕はない。兵の疲労や無限に湧き続ける砂のゴーレム、そしてまだ姿を見せていない敵。


「なんかないか…最悪ルグルスそのものを焦土にしなくちゃいけなくなるんだが」

「そんなことしたら恨まれるよ」

「恨まれる程度ならどうでもいい。最悪戦争だ」


 今オレ達の間で戦争とかしている暇ないんだよ。

 でも他に手なんか…


「…おいキトル」

「なんだい」

「何か案はないのか」

「出ないねぇ…彼らがいれば何とかなるんだろうけど」

「あのなぁ…確かにミツキの解析能力ならなんとか……」

「なんだいその沈黙は」

「なぁキトル。お前の解析ってさ、つまり電波による解析だよな」

「勿論」

「だったら、電波を反響させられたらすぐに解析できるか」

「それはできるけど…反響ってどうやるの?」

「手はある」


 そう。あの手さえあればできるはずだ。


「トーギにつないでくれ。それと準備を」

「了解」


 すぐに通信はつながり、トーギの声が聞こえた。


『なんだ?問題か?』

「あぁ…お前、叫鳴と熱探査とかいう魔法が使えたよな」

『まぁな。で、なんに使うんだ?』

「二つ同時に、混ざることなく魔法を使うことはできるか?」

『初級から中級の一部にかけてならなんとか。この二つなら使える』

「分かった。ちょっと全力でやってくれないか」

『分かったが…いいのか?通信越しで』

「まさか、そっちに予備の船があるだろ。そこに救済とのつながりがある。そこでやってくれ」

『了解。フェル、行くぞ』


 通信は切れ、数分後また向こうから通信が来た。

 準備は整ったか。…よし、やるか。


『それじゃ、行くぞ』

「分かった!準備は!」

「できてるよ」

『それじゃ、熱探査、叫鳴!』


 予備の船から発せられた電波は救済に届き、救済から準備された解析機材へと通じた。そして電波は機材を犠牲にしつつ迷宮の半分までを映し出した。


「すっげ…」

「これなら調査が楽になるね。あと少しだ」

「あぁ…!全体!指示に従って進め!」


 この戦いも、終わりが近い。



 一仕事終えた後岡浦が目覚めたという報告を聞き、フェルたちと面会に向かった。槍はないのでこちらが魔法を使えなくても問題はないだろう。

 あるとすれば、これだけの罪を重ねたこいつを他の奴らが受け入れられるかと言うことだ。


「ここが牢獄か…」


 魔法で強化された鉱石で造られた牢獄は地下にあり、その最奥に岡浦は投獄されていた。監視役についてきてもらいそこまで案内してもらう。


「任せていいな」

「あぁ、任せてくれ」


 勇也に確認すると力強くうなずき、そして最奥の牢屋に着いた。

 戦ったときのままで投獄されていた岡浦は狂気ではなく虚脱した虚ろな目でこちらを見ている。


「おはよう美鈴」

「…」


 岡浦は答えない。勇也はエクスカリバーとデュランダルを抜き、僕に差し出した。


「持ってて」

「分かった」


 エクスカリバーとデュランダルを受け取り勇也は檻の前まで行って檻を殴った。


 そして檻は壊れ、大きな穴が開いた。


「ちょ!?何してるんですか!?」


 監視役のエルフが驚いた声を上げる。しかし勇也は答えることなく檻の仮名へと入って行った。


「元気…じゃないよね」

「…どうしたの…」

「どうしたって、話に来ただけだよ。前みたいにね」

「…できるわけないじゃない」

「別に反応してくれなくてもいいよ。一方的に話すから。喧嘩し時とかこんな感じだったし」

「今回は、喧嘩とかそういうのじゃ…」

「喧嘩と同じだよ……規模が大きすぎただけで」


 それがダメなんじゃないか。と思ったが口には出さない。全員が勇也の話に聞き入っている。

 どう説得するのだろうか。


「原因は、俺なんだよね」


 岡浦は答えず、下を向いた。


「ごめん…あの時はいろいろあってイライラしてたんだ」

「……別に……」

「いや俺が悪い。全面的に俺が悪い。だから殴ってくれていい。怒ってくれていい。殺す以外のことなら何してくれてもいいし、なんでもする」

「……いいわよ…別に」

「じゃぁ許してくれる?一緒に戦ってくれる?」

「無理よ!」


 岡浦が声を荒げる。その声は牢屋中に反響した。


「あたしが自分勝手に!どれだけの罪を犯したと思ってるの!?もう無理よ!この世界で居場所なんてない!」

「そんなことない!」


 勇也も声を荒げた。


「居場所ならある!ここに!俺が、居場所になる!」

「そんなありきたりなセリフ…そうね!勇也ならそうしてくれるわよ知ってる!でもそんなんじゃないのよ!ここで甘えたら、ここで許してもらえたって思ったら今まで傷つけてきた人に申し訳ないじゃない!」


 そんなこと思ってるのか!とエルフの監視役が驚愕していた。だが僕たちにとっては特に驚くべきことじゃない。

 だって、岡浦美鈴がどういう人物なのかを勇也からこんこんと聞かされているからだ。


「だったら、償えばいい」

「無理よ!」

「無理じゃない!」

「無理よもう帰って!帰ってよ!」

「嫌だ!」


 そして勇也はその場に座り込んだ。


「頷いてくれるまで、俺はここにいる!」

「もう好きにしなさいよ!」


 岡浦は牢屋の奥の方へ引っ込んでしまった。勇也は座ったまま息を吸う。


 そして、言った。


「俺は!俺に好意を向けてくれる美鈴も、べリアちゃんも!全員を等しく幸せにしてみせる!」


 その言葉がこの数分で一番衝撃的だった。

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