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魔導書製造者  作者: 樹
再会から戦争へ
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交代

 美月は一命を取り留めたものの闘える状態ではなく、そして僕もまた戦いに参加できる状態ではなかった。勇也もまだ目覚めていないし岡浦も槍を取り上げられ結界の中で眠っている。唯一動けるのは谷川だが谷川も負傷兵の回復などで疲労が否めない。

 常に全力で挑んでしまったつけがここで回ってきた。


「というわけで、お前ら休め」


 と、診療所に入ってきたなり僕にディスベルがそう言った。今回ばかりは僕も反論の余地がない。

 だが、不安はある。


「とりあえず作戦指揮だけでもする。魔法が使えなかろうが指揮なら…」

「お前の具合悪そうな顔で指揮をしてほしくない」

「だが…」

「くどい。今のお前はただの足でまといだ。戦場に出るな」


 そう言ってディスベルは診療所を出て行った。

 …返す言葉もない…無理して突っ込んだ挙句に傷を負って、美月まで傷つけてしまったんだ。今の僕には…戦う気力がない。


「クソッタレ…!」


 僕は自分に向けた悪口をつぶやき、唇をかんだ。



 オレたちは兵士を集め破壊の勇者の残党狩りをした後に会議を開き、そしてヒュガスの奪還を決めた。向かうのは電脳種と魔族だ。エルフと獣人族はここに残ってユウヤたちの警備に当たってもらう。

 あいつらが中心で回っている戦争だ。破壊の勇者の脅威がなくなったとしても次の脅威が襲ってくる可能性は高い。現場の指揮はオレが取ることになった。

 ……クソッタレ。何をしているんだオレたちは…!


「全員集まったな」


 戦艦に兵を乗せオレは全員に聞こえるように救済の甲板でマイクに向かって話す。


「もう感づいている奴もいると思うが…今回ユウヤたちは不参加だ。あいつらは戦いすぎた」


 兵のあちこちから落胆するざわつきが聞こえる。

 まぁ、そうだろうな…あいつらは頼りになりすぎて、オレたちは頼りすぎた。


 で、この結果だ。


「お前らさぁ…ほんとふざけんなよ」


 オレの怒気のこもった声に全員がだまった。


「あいつらはさぁ…異世界人なんだよ。本来この世界とは関係ないんだ。で、だ」


 息を吸い込んだ。


「その異世界人が中心で戦争して、オレたちがそれに頼るとかさ……不愉快だろ!」


 オレの感情をすべて吐き出す。


「この世界を守ってきたのはな、オレたちなんだよ!あいつらが来る前からずっとそうだったんだよ!悪神の襲撃も!災害も戦争も魔獣の大量発生も!全部オレたちがやってきて、回してきた世界だ!そしてこの体たらくだ!!」


 本当に、反吐が出るほど不愉快だ!


「てめぇら全員気合を入れろ!いつから他人に甘えるようなガキになった!いつからこの世界をあいつらに預けた!いつから……自分の誇りを失った!!」


 オレたちの存在理由。この世界を守ること。

 世界の謎?運命?百年前の英雄?知ったことかそんなもん!ここはオアツトクで、オレたちの世界だ!


「行くぞお前ら!オレたちのことをガン無視して戦争をしている奴らに思い知らせてやる!オレたちこそ、この世界の中心だ!」


 船が一斉に発射する。兵士たちは互いに自分たちを鼓舞し、そして叫び声をあげた。

 そうだ。これが正しい姿だ。


「見てろよクソ神…!その横っ面ぶんなぐってやる!」


 そして船はヒュガスへ向かう。千人を超える勇者を乗せて。



 取り残された僕はフェルの監視下の元ルグルスを歩いていた。残党狩りは終わり静けさを取り戻したルグルスの街並みはもう、すっかり様変わりしてしまった。

 これが…戦争か…


 初めて大切な人をを失うかもしれないという恐怖を味わい、そしてその恐怖はいまだに消えない。


「こんな気持ちを、あいつは味わってきたんだよな…」


 凪川勇也。この世界に来て負け続け、そしてすべてを失いかけたあいつの気持ちが今ようやく理解できた。そしてこの世界で全てを失ったと錯覚し、世界すらも壊そうとした岡浦美鈴の気持ちも今なら少し理解できる。


 僕だってきっと、美月を失って取り戻す方法があるのならこの世界だって犠牲にしてしまうだろうから。


「フェル…」

「はい」


 僕はフェルの背を向けたまま質問した。


「お前は僕や美月が死んだら、どうする?」

「分かりません。ですが…おそらく後を追うと思います。わたしの世界はお二人ですので」

「そうか…」


 フェルも、同じか。


「なぁフェル」

「はい」

「今回、怖かったか?」

「…」


 フェルは答えない。僕はフェルに背を向けたまま同じ質問を繰り返す。


「怖かったか?」

「…はい」


 少し涙交じりの声で、フェルは肯定した。

 振り返るとフェルは泣いていた。


「怖かったです……お二人が死んでしまったら…わたしは…」


 こぼれる涙が頬を伝う。


「もう、無茶しないでください…」


 僕は無言で首肯した。



 診療所に戻ると美月が起きていた。


「美月…」

「おはよう燈義くん」


 そう言って美月はにっこりと笑った。


「…すまない」

「私こそ、言いつけを守れなくてゴメンなさい」

「僕のせいだ!僕の……」


 僕は胸の奥からこみあげる感情をこらえつつ話した。


「ごめん……もう無茶はしない」

「うん…」


 美月も首肯し、そして笑った。

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