突撃
傷ついた獣人族の兵士たちとタマモを診療所に寝かせて僕たちはタマモ抜きの会議を始めた。
ルグルスが戦場になっているのでこの会議の議長はタマモになっていたが…
「と言うわけで議長はお前だ。頑張れよトーギ」
「いきなり発表があるとか言われたが……いいのかそれで」
「あなたはこの世界について我々の知らないことを知っている。だったらトーギがやるのが一番いい」
「とはいってもフォン、今回の戦いは甚大すぎる被害が出たんだぞ。だったら戦術的に詳しいお前らの誰かがやった方がいいと思うが」
僕に絶対記録があってこの世界での戦術が立てやすいとしても戦争はそう簡単なものではない。少なくとも戦争初心者である僕に議長を任せるのはどうかと思うが。
「まぁそう言うな。これはお前らを見極める決定でもある」
「見極める?」
「この戦争が今までオレたちが経験した戦争ならお前を議長になんてしない。でもこの戦争…というかここ一年で起こった戦争はどれもおかしい。悪神襲来に破壊の勇者に魔王に革命、そしてこの戦争。この一年で起こった戦いは従来とは違いすぎる。そしてそれはお前らが来てから始まった」
そう言ってディスベルは僕を指さした。
「悪いがな、オレは何も知らずに死ぬなんざゴメンだ。だったらお前らを見極めてこの戦争の目的を知るしかないだろ」
「成程…でも僕の戦術は基本犠牲覚悟の特攻だぞ?」
「そうするしかないのは我々の実力不足だろう?安心していい」
「なんで」
「色々と来たんだ」
そう言ってフォンは上を指さした。外に出て上を見てみると…
「救済…」
空中要塞である救済がそこのあった。
「久しぶり」
「お疲れキトル。で、どうだ?」
「性能テストついでにいろんなところ行って素材を取ってきた。これで魔導具に関しては充分だともうけど…よかったのかい?戦艦以外の船を工房にしてしまって」
「いいんだよ。救済じゃなければ資源調達なんてできないからな…戦艦の性能は?」
「かなり向上したけど燃料が心配だね。フル活動で二時間が限界」
「充分。ありがとよ」
「どういたしまして。それじゃ資材運ぶから僕はこれで」
キトルはそう言って去って行った。
「資材か…」
亜音速砲もそうだが魔導具にはかなり期待している。フォーラスがいれば基本の何倍もの威力になるだろうし…戦局を左右する場合だってある。慎重に使わなければ…
「燈義くん」
「美月か。勇也たちはどうだった?」
「まだ寝てる……攻めてこないね」
「ヤマタノオロチが死んだからな。そろそろあいつが来てもいいころだが…」
「あいつって…美鈴ちゃん?」
「あぁ…いくら武器があっても兵隊がいなければ意味ないしな」
「そう…戦わなくちゃいけないんだね」
「戦うのは勇也たちだろうがな…それより、勇也が見た光海を操ってるやつのほうが気になるな。曰くヤマタノオロチ並らしいし」
「あんなのがまだいるの…?今回はギリギリ勝てたけどそれもあんなに犠牲を出して…」
「あぁ…そうなんだよな」
今回はルースのスキルがたまたまうまい具合に作用してくれたもののあんな幸運は今後ないと考えていい。それに…創造主と闘うときは僕たちの純粋な実力勝負になるんだろうし…
「不安?」
「そりゃな」
「大丈夫だよ。燈義くんだもん」
「なんだその理由」
「あの…イチャイチャしているところよろしいでしょか」
…してないぞ。
振り返ってみるとフェルがいた。相変わらずの無表情でこちらを見ている。
「どうした?」
「この魔導具をミツキさんに渡すように言われたもので」
そう言ってフェルは美月に一丁の銃を渡した。
「これって…」
「えぇ、殺傷能力のある魔弾銃です」
「魔弾銃…」
「ミツキさんが情報操作を行って生成した弾丸を撃ちます。毒効果や麻痺効果が使えるミツキさんには最適の銃。とのこと」
「でもそういう魔法は悠子ちゃんが…」
「彼女は回復に徹してもらわなくちゃいけないから。とのことです」
さすがだキトル。確かにあいつの回復能力くらいでしか対抗できないからな。
「…どうしても嫌ならわたしが持ちますが」
「ううん。私が持つ。それが一番なんでしょ?」
「そうだな…」
今まで美月は魔獣以外を殺したことがない。今だ地球の常識が美月を邪魔しているのだろう。でも今まではそれでよかった。
今は、それじゃダメだ。
「頑張れよ」
「うん」
美月は頷き、銃をしまった。
美月が射撃の練習をしている間僕は工房を見て回ることにした。そこでは戦火から逃れた小妖精が武器や魔導具を造っている。
「まだ続くんだよな…」
嫌になる。と呟いた。ヤマタノオロチを倒したのならもう終わってもいいだろうと思う。
だが、敵は待ってくれない。
破壊の勇者に関しては岡浦だけを警戒していればいい…当面の問題は得体のしれない敵だが、一番可能性が高いのはやっぱりロキとかそこらへんか…
「はぁ…」
思わずため息が漏れる。そして工房を後にしようとしたその時、
外から轟音が響いた。
「なんだ!?」
急いで外に出ると、そこにはクレーターがあった。
「おいおい…何の冗談だこれは!?」
いきなりの襲撃に戸惑っていると、そのクレーターの中心で何かが動いた。どうやら何かが降ってきたらしい。
クレーターができるほどの高さから落下って…
慎重に近づいてみるとそこいたのは…槍を持った少女。
「…冗談だろ?」
僕は後ろと前に防壁をは工房の放棄を呼びかけつつ作業員の避難を誘導させる。
「フラグってやつかこれ…」
なんつーご都合主義。と僕は何度目か分からないため息をついた。
「岡浦美鈴…破壊の勇者!」
「あぁ、あんたか」
岡浦美鈴は怒りを宿した目で僕を睨んだ。