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魔導書製造者  作者: 樹
再会から戦争へ
171/258

解放

 半透明のルースは僕を見てにっこりと笑った。しかしもう再生が始まっている。谷川の大道魔法の効果が消えかけているのだろう。

 でもいい。これで託せる。


「受け取れ!」


 僕は護光でルースを照らした。そしてルースの色彩が濃くなっていく。

 そして再生が終わりルースは再びヤマタノオロチの中に閉じ込められる。そして谷川の大道魔術がなくなり僕は振り落とされた。

 僕にあの黒い影が迫ってくる。


「エアボム!」


 目の前でエアボムを爆発させて後ろに逃げるがすぐに第二射が来た。


「やらせないよ!」


 美月の情報操作で大地が盛り上がり僕は後ろに倒れ目の前に影が突き刺さった。

 あ、危な…!


「トーギさん!」

「自分のことに集中しろ!僕はもう大丈夫だ!」


 フェルのところにもかなりの攻撃がきている。僕は立ち上がり魔法で防ぐものの何本かは防ぎきれず僕の肩や足を抉った。しかし動けないほどではない。

 というか魔法無効ってさすがにチートすぎるだろこいつ!


「勇也!」

「生きてるよ…!でも!」


 勇也の声が聞こえる。あれほど攻撃していたのに防戦一方になっている。もう獣人族の兵も半分以上死んでしまった。

 あークソ!さすがにこれは予想外過ぎるぞ!


「美月!」

「大丈夫!でも悠子ちゃんが!」

「大丈夫…!一人くらいなら…!」


 谷川もギリギリか…!もう長くはもたないぞ!


「はぁぁぁ!」


 いきなり空が光り雷が落ちる。見てみるとタマモが草薙の剣を構えていた。


「魂を扱えるものが、お前だけだと思うな!」


 バチィ!と草薙の剣が光る。そして信じられないほど強力な魔力が蓄積されていく。

 そうか…!極楽に昇った獣人族の魂を…!


「わたしたちの覚悟を!なめるなぁぁぁぁぁぁ!!!」


 轟音と共に光は天空へとあがり、太陽が現れた。

 空を操る魔術…!夜すらもかえるのか!?


「我が主神天照大御神!天に昇った我らが同胞の声を聞け!喜びを、希望を、願いの声を聞いてわたしに力をよこせ!」


 晴れ渡った空から無数の光がヤマタノオロチに降り注ぐ。するとヤマタノオロチは苦しみだした。


「天義!光流斬!!」


 巨大な光の剣となった草薙の剣を振り下ろす。それはヤマタノオロチを真っ二つに切り裂いた。


「ざまぁ…みろ!」


 タマモが笑う。獣人族の奴らはその光景を見て、その神々しさに涙を浮かべ戦いの終りを感じてその場に座り込んだ……


「まだ気を抜くなぁぁぁ!」


 勇也の叫びが響く。しかし獣人族の兵士たちが立ち上がるには遅すぎた。


 無数の黒い影が獣人族の兵士たちを貫く。


「うそ…だろ…!?」


 その光景に僕たちは絶望し、そして呆然としていた。


 ヤマタノオロチ、健在。傷は癒え悠然とこちらを見下ろしている。


 絶対的な悪は、倒れるとこはなかった。


「ここまでやっても…!」


 タマモが悔しそうな声を出す。しかし僕たちは諦めていなかった。

 絶望的な光景に呆然としたものの、既に何度も絶望を目にしてきた僕たちからすればまだ本当に絶望するわけにはいかない。


 この戦争を起こしてまで僕たちを救おうとしている奴らに、顔向けできない!


「勇也!」

「あぁ、分かっている」


 僕たちが突撃をしかけようとしたところで、急にヤマタノオロチの動きが止まった。



 暗い、場所にいた。ユウヤさんを守って死んだ事は覚えている。

 ここは、どこだろう。


「   」


 声が出ない。苦しい。そんなことを思っていると急に意識が覚醒し周りの声が聞こえ始めた。そして感情が流れ込んでくる。


「    !!」


 そして自分は声にならなない叫び声をあげる。しかし声は終わらない。誰の者かもわからない感情が押し寄せてくる。

 耳を塞ごうとした…でも手がなかった。足もない。体がない…自分が、ない。

 それなのに意識はあって、叫び声をあげている。


 怖い怖い怖い怖い!助けて助けて助け……!!!

 そんなことを思っていると自分が溶けていく感覚に襲われた。

 ひぃ…!と叫び声をあげそうになった。しかしもう叫び声をあげている気にもなれない…もう終わり…


 …………自分の、人生は…………


「ぁ    」


 少しだけ、声が出た。


「ぉ…   」


 声が出る。


「まだぁぁぁ……………!」


 声が、出た!出る!まだ出るいける!

 絶望なんてしている場合じゃない!自分の人生を、自分の生きてきた証を、今残さないでどうする!

 騎士に憧れ、でも心が弱すぎて騎士になれなかった、万年臆病兵士!


 でも、騎士として死ぬ!


「絶望なんて…する必要がない…です…!」


 騎士として死ねる喜びを、この怪物を倒し世界を救える喜びを糧に自分は立ち上がる。ないはずの足が、手が、体が、顔が全力で抗う!


「女王様…!」


 あなたのために死ねることを、誇りに思います。


「ルーーーーース!」


 突然声が聞こえて、トーギさんが姿を現した。自分をみて少し安堵をうかべ光をくれた。


「ありがとう…トーギさん!」


 その力をかりて、自分は全身全霊をかけてスキルを発動させた。


 見せるのは、ヤマタノオロチに取り込まれた魂が持っている、美しい記憶。楽しかった思い出や幸福な時間の数々を魂に見せる。

 最後まで絶望せずに抗えた自分だからこそできる、ヤマタノオロチを倒す切り札!


「あはははははははははは!!!」


 自分の幸福な笑い声が木霊して、魂たちが光りはじめた。




 ヤマタノオロチが苦しみ始めた。これまでの戦闘で一番の苦しみだ。

 やりやがったな…!ルース!!


「勇也ぁぁ!」

「あぁ…!!!」


 無駄にしてはいけない…!あいつの最後の攻撃を、ヤマタノオロチを倒すことができる最後のチャンスを!


 憎しみで存在を構築しているヤマタノオロチを倒す方法。それは元になっている取り込まれた魂たちを幸福にすること。

 ルースのスキルなら、魂に刻まれた幸福な記憶を呼び起こせる!


「存在そのものが揺らいだ気分はどうだよ…化け物!」


 ヤマタノオロチの動きが止まる。そして体が崩れ始める。

 不利を悟ったヤマタノオロチが逃げようとするが、逃がすはずがないだろう!


「エクストラバインド!!」


 ヤマタノオロチを拘束する。しかし今だにありえないほどの力で振りほどかれそうになる。


 フェルがスキルであちこちを破壊する。美月が情報操作で地面を操作しヤマタノオロチの行動を阻害する。獣人族の兵士たちが最後の力を振り絞って攻撃する!


 最後は任せたぞ!勇者!


「はぁぁぁぁ!」


 勇也がヤマタノオロチに斬りかかる。全てをかけた勇也の攻撃は見事ヤマタノオロチの心臓部をとらえた。


「絶天光斬!」


 ヤマタノオロチは、悲鳴を上げることなく消え去った。


 そして魂たちが解放されていく…


「ルース!」


 僕が叫ぶと、一つの魂が反応した。その魂は嬉しそうに戦場を飛び回り満足したように空へと昇って逝った。

 綺麗だな…


 残存兵力十数名…全滅の危機を乗り越えた僕たちは夜明けとともに帰還した。

遅くなって、すみません

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