王女
図書館は木でできている。場所によっては年輪が丸見えだ。図書館の奥には石版とかあるらしい。だが今は王女の捜索に人員をまわしているので誰もいない。
「バカか…」
図書館の奥に進み、古びた木のドアを開ける。月明かりが差し込み部屋全体を照らしている。
「悪神のこと調べに来て古い文献探さないわけないだろ…」
奥の奥、部屋の最奥に彼女はいた。片手に古い本を持ち、月明かりに照らされた彼女はただ美しかった。
整った顔立ち、理想的な体系、赤い目に長く尖った耳。
「あんたが王女か?」
「おや、ようやく見つかった」
凛とした声が響く。
「遅かったね」
「まぁ、他の奴らは森に向かったみたいだし」
「森になんていかないよ。何かあるとしたらココだろう?」
「まぁ、そうだろうな……」
近くの石版を取って見てみる。石版は所々欠けていて読み取ることは難しい。
「ん?君は、人間…?」
「そうだよ。訳あってここにいる」
王女は「へぇ」と言っただけで本に目を戻す。どうも王女は人間に対して特に何も思っていないようだ。それとも実力に自信があるのか……どちらにせよ警戒されるよりましだな。
「なんか書いてあったか?」
「全く。情報なしだ」
だろうな。あればとっくに対策ができているだろう。
「人間を毛嫌いしないんだな」
「まぁ私には人間の友人がいるからね」
「友人?」
「エルフは魔族と貿易しているからね。魔族は亡命してきた人間を受け入れているのさ」
「へぇ」
ダメダメじゃねぇか人間。勇者呼んだところで何とかなるのかよ。
「君、名前は?」
「浅守燈義。あんたは?」
「フェルイ=フォン」
「よしじゃぁフォン。僕の質問に答えろ」
フォンがキョトンとしてしまった。何か変なこと言ったか?
「初対面でフォンと呼んだのは君が初めてだよ。君は態度がでかいな」
「こういう性格でな。気に障るならやめるが」
「いやいい。交渉は対等な立場で行うべきだ」
そう言ってフォンは笑った。こいつ王族にしては人間のように偉ぶってないな。
「悪神のことは国の機密事項だ。そう簡単に教えるわけにはいかない」
「悪神問題を進展させればいいんだろ?」
「そういうことだ。質問があるのならある程度の予想はできているのだろう?ぜひ聞かせてくれ」
フォンは近くの椅子をとり座った。僕も近くの椅子を取り座る。
「まずは、あの悪神の名前だが、アペピでいいか?」
「!?へぇ…」
フォンは一瞬驚いたもののすぐにうっすらと笑いを浮かべる。まるで値踏みするように僕を見る。
「正解なのか?」
「正解だよ」
即答した。そうか、アペピなのか…だったら聞きたいことは結構減った。
「エルフは太陽を信仰しているのか?」
「あぁ。エルフは自然とともに生きる種族だからな。木々や草花に光を与える太陽を崇拝している」
「で、王都は太陽神によって守られてるとか?」
「よく分かったな」
「そろそろ日食が近い?」
「あぁ。王都は大忙しさ。というか本当によく分かるね」
分かるさ。神話通りだからな。しかしなんで地球の神話に沿った状況が異世界で展開されてるんだ?カッサンドラの紙片に書いてあったマヤ文字にしろ、ここには地球に残っているものが多すぎる。
「どうした?質問は終わりか?」
「いやもう一つ」
考えるのをいったん止め、フォンの顔を見る。
「悪神問題を解決したら大図書館の本を読んでいいか?」
僕の質問にフォンは再びキョトンとし、豪快に笑った。
「いいだろう!私が許可する!」
「よしっ!」
小さくガッツポーズ。やる気が出てきた。
次回複雑化します。