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魔導書製造者  作者: 樹
再会から戦争へ
169/258

開戦

 スレイク王国。憎悪と悪意で満ちているヤマタノオロチの食糧庫。おそらくそこにヤマタノオロチはいる。

 時間は十二時過ぎ。HPもMPも回復した。


「で、どうだ美月」

「…いる」


 一応美月に見てもらっているが、いるらしい。美月曰く「暗黒すぎて見えないから確実にいる」そうだ。


「でも軍を率いてスレイクに入るわけにいかないでしょ。さすがに攻撃してくるよ」

「あぁ、だからまずはおびき出す。勇也」

「準備はできてるよ」


 おびき出すためには囮役として勇也と獣人族の精鋭数人を向かわせることにした。勇也ほどの光魔法の使い手ならば確実に反応してくれるだろう。後はスレイクの外におびき出せれば何の遠慮もなく攻撃できる


「ねぇ、人間が信仰している神様は何でヤマタノオロチを侵入させてるの?」

「さぁな。人間に嫌気がさしたのか最初から無関心だったのか…どちらにせよヤマタノオロチはいるんだ。ここで倒す」

「…そうだね」


 そろそろ作戦開始時間か…


「谷川。準備は?」

「もうできとるよ」

「そうか…」


 僕はその場に集まった全員を見回し、静かに告げた。


「作戦開始」


 勇也と十人ほどの獣人がヤマタノオロチを誘い出すために出発した。



 スレイクへの侵入は簡単だった。なにせフードなどで獣耳と尻尾を隠せばいいのだから。そして屋根の上や路地裏などを走る。

 光魔法を宿しているからヤマタノオロチの居場所はだいたい分かる。近づけば近づくほど嫌な気配が増してくる。ここから先に進んではいけないと感覚が告げている。

 でも、進まないわけにはいかない。


「ここかぁ…よりによって」


 そしてたどり着いたのは、あの遺跡だった。

 ここの奥に、いる。最悪が、憎悪の塊が。


「ユウヤ殿…」

「殿とか言わなくていいよ。今は俺も一兵士なんだから」


 そう言って俺は十人の兵士とともに遺跡に入る。

 あの時計は…もう十二時まで八分か…世界の終りが確実に近づいているってことだよね…でも、ここでヤマタノオロチを倒せばきっと世界の終りは延長される!


「行こう…」


 俺は慎重に遺跡を進んでいく。そして最奥の、あの壁画のある部屋の一歩手前。



 俺たちは吹き飛ばされた。しかし俺はかばわれ地面に転がるだけに終わった。


「ぐ…!」


 いきなり!?と思ったときにはもう遅い。すでに三人が致命傷を負い、それでも武器を持って奥に突撃していく。


「行きましょうユウヤさん!あなたが死んだらなんの意味もなくなってしまう!」

「分かってますよ!」


 そして七人になった兵士とともに俺は壁画に背を向け全力で走り出した。後ろで邪悪すぎる気配がドンドンと膨らんでいるのが分かる。

 そして遺跡自体が崩れ始めた。


「ヤマタノオロチが大きくなってる…!?」

「今までが小さかったんだ!いいから走って!」


 やがて遺跡の天井が落ち始めた。そして後ろからあの黒が俺たちを狙って追ってきている…!早い!追いつかれる!


「はは…」


 獣人族の一人が笑いをもらした。何事かと思ってみると刀を抜いている。

 そして立ち止まり、追ってくる黒に向かって斬りかかった。


「上等だ!守るために死んでやる!」


 後ろで爆発が起き天井が崩れ、落ちてきた瓦礫で後ろは塞がれてもあの兵士の嬉しそうな笑い声は聞こえていた。

 残り六人…!


 遺跡を出てそのまま街のほうを通らず森の中を抜けて外に出る。そして森に向かって走り出した時、遺跡が崩れてヤマタノオロチが姿を現した。


「前よりも大きくなってますよ!」

「いいじゃないか!狙える場所が増えて!」


 そう言ってさらに二人が離れる。


「後は頼みましたよ!」

「へこたれるなよ勇者!」


 一人は羽を広げて夜空へと飛び、一人はものすごい速さで突進していく。俺は振り返ることなく走った。


「かはは…ただでは死なないんだよ…!」


 しばらくしてから声が聞こえ、空中で何かが爆発した。それに続いて地上でも何かが爆発する。

 …残り、四人!



 木々をなぎ倒しながら進んでくるヤマタノオロチに追われつつももう森を抜けそうだ。合図である光が見える。


「皆さん!あと少しですよ!」


 しかし、現実は甘くなかった。ヤマタノオロチが口を開けるとそこから黒い人型の何かが出てきた。そう、まるで一年前の死者がよみがえったあの時のような…


「喰った魂を…吐き出して…」


 漂ってきたあまりの悪臭に鼻をふさぐ。その光景をみた獣人族の三人は互いに見て、頷いた。


「ここは僕たちが凌ぐんで、行ってください!」

「森に火をつければ何とかなるでしょうし」

「地面を割って落としてやる!」

「そんな…でも!」

「今まで死んでいった奴らのこと、犬死にする気ですか」


 そう言って三人は攻めてくる人型に向き合い、森に火を放った。風を操作し森がどんどん火の海になる。

 三人はそれぞれの武器を持ち、黒い人型に立ち向かっていった。その顔に後悔はない。あるのはただ、笑顔だけ。

 残り、一人…!


 そしてたどり着いた。燈義がいる場所に。遺跡は崩れ森は燃え、そして九人もの精鋭を失っても作戦は成功した。


「燈義…!」

「あぁ、もういい。我慢するな。何の遠慮もするな」


 燈義は向かってくるヤマタノオロチを見据え、命令した。


「全武装の使用許可!何をしても何をやっても、禁則魔法だろうがなんだろうが全部使って!確実に敵を葬り去れ!ここが正念場だ行くぞ!」


『おおおおおおおおぉおおおおおおおおお!!!!』


 千五百人もの獣人が死ぬ気で、粉骨砕身の心意気で突撃していく。


 そして戦争の行方を左右する、歴史的決戦が始まった。

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