武士
ヤマタノオロチの居場所の見当はついている。問題は戦力だ。
生半可な戦力で勝てるはずがない。陽動や遠距離攻撃部隊や支援部隊…そして主戦力となる軍そのもので確実にアペピの時よりも人数がいる。しかもヤマタノオロチの弱点さえ定かではないし、なによりルグルスの守りを手薄になってしまう。
そして、時間もない。
と言うわけで緊急会議の場を設けたわけなんだが…
「とはいえ無理に動かせるだけの戦力じゃないよねこれ…」
「だから困ってるんだろ。確かに僕たちにはチート能力があるけど敵はチートとかそう言う次元じゃない。完全にバグだ」
「討伐不可能のバグか…」
「修正できればいいんだがな…」
まぁ神々自体バクキャラかと思うくらい強いしな。アペピに勝てたのだって弱点を知っていてしかも大量の兵士を投入できたからだし。
一騎当千の精鋭が何人いてもあいつには敵わないだろう。
「だとしてもあいつを討伐しないことには確実に負ける。ユウヤが見たっていう人影も確実に敵だと言っていたしな」
「直感でヤマタノオロチと同レベルの敵だろ?考えられるのはロキとかそこらへんか…」
「どちらにせよ一気に攻められれば終わりだ。これ以上被害が出るのは避けたいしな」
会議はまとまらない。この決定が兵士の生死を分けるだけに簡単には決められない。
スレイクに侵入した時とは大違いだな…
「あのさ、ひとつ言っていい?」
「なんだタマモ」
珍しくタマモが断りを入れてから発言した。
「ユウヤとトーギ一向にわたし、あと獣人族の軍だけでヤマタノオロチを討伐するわ」
「おい…バカを言うな。獣人族はただでさえ前線に投入されて数が減ってるんだぞ!これ以上死なせるわけにいかないだろ!」
ディスベルの反論にタマモはしれっと答えた。
「ここで死ぬより賭けて死んだ方がいい。このままいけばルグルスは落ちる。だったらわたしも、兵士も国のために死ぬ」
「人がいてこその国だろうが!その決断こそ愚王だ!兵士だって国のためとか言って簡単に死ねるか!まずはどう被害を出さずに最大限の結果をあげる方法をだな――」
「…わたしたちはね、あなたたちと考え方が根本的に違うのよ」
ディスベルの言葉を遮りタマモは締め切ってあった扉を開けた。
そこには完全武装した獣人族がいた。
「わたしたちは国のために死ぬことが名誉。わたしたちが死んでもまだ死んでない人たちが国を動かすわ。その礎に成れるのなら本望よ」
「いつの間に…」
「一時間前、作戦を全部話したわ。家族との別れも済んでる。いつでも死ねる」
「冗談では、なさそうですね」
フォンが揃っている兵士たちを見て言った。
そう。冗談ではない。こいつらは全員、国のために死ぬつもりだ。
「武士道か…」
「ブシドウ?何それ」
「僕たちの世界の言葉だよ。今まさにお前らが抱いている信念だ…どうする?こいつらなら多分、反対されても出撃するぞ」
僕の言葉に全員がだまった。
「沈黙は是。トーギ、ユウヤの様子は?」
「今は治療の最終段階だが…あいつなら無理してでも行くだろ」
「そう…いきなりで悪いけど、わたしたちの命はあなたに預けるわ」
「本当にいきなりだな…」
僕は苦笑いをする。
総勢千五百人ってところか…いや重すぎるだろ…
「…ヤマタノオロチを倒せる確率は、普通にやればコンマ以下だ」
「だが今の状況なら?」
「…もし僕の考えとあいつの根性が生きてるのなら、百パーセント勝てる」
「上等だ!なぁ!」
『おおぉぉおおおおおおおぉおおお!!!』
地鳴りかと思うくらいの声が響く。
これではもう反対意見も出ないだろう。
「それじゃ、あいつらに知らせてくる。ルグルスのことは任せたぞ」
「トーギ」
「なんだフォン」
「お前らが死ねば、この戦争は我々の負けだろう」
「ヤマタノオロチを倒せなけりゃどちらにせよ負けだ」
「あぁ…だから言っておく」
「お前らの身には獣人族じゃない。この世界の命運がかかってる。前のような無茶は絶対にするな」
アペピの時か…確かにあの時はかなり無茶したな。
「確約はできない…でもまぁ、生き残るさ」
「頼むぞ」
フォンの言葉に僕は頷き返し会議場を後にする。
「と、言うわけで討伐に行くことになった」
「やっぱりそう言う方向に落ち着いたんだね」
美月たちを集めて会議での話をすると、もう予想はついていたようで全員が準備を終えた後だった。
「言っておくが僕は死ぬつもりも死なせるつもりもない。誰か一人でも欠けたらその時点で負けだ」
「負け…」
勇也が負けという単語に少し反応し、唇をかむ。ルースのことを気にしているのだろう。
ずっと負け続け、ホーメウスでようやく勝てたと思ったら今回は負け。ホーメウスでも大切な人を失ったとか言っていた。
「一人でやれば負けは確定だが全員でやれば勝てる。全員、それは十分わかっているだろ?」
その場にいる全員が頷いた。
そう。いくらチート能力があったとしても僕たちの戦いに協力なしで価値はあり得なかった。一人で勝てたことなんて一度もない。
助けて助けられて、そうやって勝ってきたんだ。
「それじゃ、反撃だ」
そして僕たちは、圧倒的な災厄に立ち向かう。勝つために、戦い抜く。