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魔導書製造者  作者: 樹
再会から戦争へ
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撃返

 三日目、フェルが戦場に復帰した。とはいえ喜べることではない。と感じるのはやはり弱気になっているからなのだろうか。

 ヤマタノオロチ。ルースを貫いたあの槍を感知できた者はいなかった。常に魔法を展開していたエルフも、異常な五感を持つ獣人族も、魔導具を使って敵を監視している電脳種も、そして解析のスキルでさえも。


 つまりヤマタノオロチと僕たちの間にあるのは、努力などでは決して覆せないような力の差。生まれた瞬間から決まってしまっていた弱者と強者の関係だ。


「そんな敵にどうやって勝てと…」


 勝つ方法どころか勝つイメージすら浮かばない。そんな状態が昨夜から続いている。


 三日目はなぜか敵が攻めてこなかった。魔獣を出し切ったのかそれともあちらもヤマタノオロチを警戒しているのか…どちらにせよ警戒は怠れないものの会議ができるというのはいいことだ。

 それに、もうすぐキトルが合流する。あいつには戦闘能力がないから救済の改良を頼んでいた。


「で、草薙の剣を調べに来た。と」

「それしかないだろ。お前の持ってく草薙の剣は元々ヤマタノオロチの体内にあったものなんだから」

「確かにそうだけど…かといって古い英雄が使った手は使えないわよ」

「分かってる。でもその剣を調べたら何か分かるかもしれないだろ」


 美月に草薙の剣を調べてもらっている。

 草薙の剣というタマモが保有しているスキルはやはり空に関係するものだった。ある種の光魔法だが純粋な光魔法ではなく、光魔法の亜種のようなものだ。当然これだけでヤマタノオロチを倒すことは不可能。しかし有効活用できないわけではないはずだ。


「で、どうだ?何か分かったか?」

「…ゴメン…さすがに神様が創った武器は解析できないや…」

「そうか…いやいい。大丈夫だ」


 本当は大丈夫じゃない。とは言えない。正直かなり期待していた。

 でもできないか…仕方がいない、な。うん。仕方ない。


「悪いなタマモ…」

「別に…大丈夫?」

「かなりヤバい…が、大丈夫だ。うん」


 そう言い聞かせて僕は美月と一緒にタマモと別れた。



 三十分後、僕は美月とともに勇也の訓練を眺めつつ対策を頭の中で考えていた。というか何か考えていないとプレッシャーに押しつぶされそうだ。


「こんな時に神の力をかりられたらいいんだけどな…」


 初日に出現した神々はもう僕たちに見えていない。今どこにいるのかも分からない状態だ。

 できるかぎり地上に介入しない。確かに神々とも戦うことになったらもう世界なんて滅んでいるだろうが。


「悪意の塊、か…」


 人間のあの惨状を見たらあの悪意も納得できてしまう。しかし倒さなくてはいけないことに変わりはない。

 そういえば、スレイク王国はどうなっているのだろうか。全く人間のことを知らないのだが。


「何かチャンスがあればなぁ…」

『ありますよ』


 突然そんな声が聞こえた。驚いて周りを見ても僕以外は特に変な反応をしていない。

 今のは…


「燈義くん!」

「!?どうした!?」

「敵だよ!!」


 敵と言う言葉に全員が息をのみすぐさま戦闘態勢に入る。


「どこからくる!数は!」

「真上から一人…これは!」

「どうした!?」

「勇者…恵梨香さん…?」


 その言葉を発した直後に僕たちの目の前が爆発した。


 もくもくと上がる土煙を魔法で払いつつ僕は何が起きたのかを確認する。

 そして、絶句した。


「おいおい…冗談だろ…?」


 立っているのは勇也と僕たちだけ。訓練していた兵士たちのほとんどが戦闘不能状態。何人かは死んでしまっている。


「危なかった…」

「大丈夫ですか?」

「なんとか、な」


 美月の忠告を聞いてからすぐに防御魔法を展開しなんとか間に合ったものの本当にギリギリだった。いくら僕とはいえ勇者の攻撃をまともにくらったらただじゃ済まなかっただろう。


「勇也!」

「大丈夫!」

「歩ける奴は自分で歩け!できるなら倒れている奴らも連れて行ってくれ!」

「俺はどうすればいい?」

「亜音速砲の防御をしてくれ!」


 勇也は頷いて走っていく。

 全く、嫌なアクションだよ本当に!



 亜音速砲はすでにチャージ段階に入っていた。

 とはいえ、これで撃ったら死ぬんじゃないか?という心配が頭をよぎる。なにせ恵梨香さんの実力は誰も知らない。


『第二攻撃来るよ!』


 水晶の向こうで美月の声が聞こえる。どうやら目標はこっちじゃないらしい。

 完成した亜音速砲は二つ。心もとないが仕方がない。


「亜音速砲、いけます」

「了解……燈義!」

『敵が未知数なのが心配だが…いい!発射!』


 燈義の掛け声とともに亜音速砲が発射された。

 結果は…


「敵、未だに健在……受け止め…いえ、吸収されました!」

『冗談だろ…全員最大級の防御をしろ!撃ち返される!』


 その言葉の直後にものすごい衝撃が城に落ちた。城は瓦解し兵士たちの戸惑う声が聞こえる。

 吸収…それが恵梨香さんの大道魔法ですか…!


 水晶が衝撃で壊れている。燈義もかなり混乱しているはずだ。

 だったら、僕がやるしかない。どうも恵梨香さんは僕を避るように攻撃している。


「皆さん!サポートを任せてもいいですか!」

「了解!座標開始!魔法攻撃はするな吸収されるぞ!」


 …さぁ、行こう。元に戻すための第一歩だ!

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