捕食
勇也の様子がおかしい。とべリアから相談された。とはいえ僕には分からない。いつも通りのお人よし勇者に見える。でもべリアがいう事なのだから本当なのだろう。
だがなぜそうなった。一体昨日の夜に何があった。
「で、お前からも聞き出せないのか」
「うん…」
美月と谷川に聞かせてみたが話してくれなかったらしい。とはいえ僕が話を聞きに行っている時間はない。
何故なら―
「右方向から魔獣と魔物が多数攻めてきています!」
「第六砲から第九砲を運べ!第五から六は冷却しろ死ぬぞ!」
大量の魔獣と魔物が攻めてきている真っ最中なのだから。
予想はできていたがまさかここまでとは思わなかった。制止役であったフェルがいなくなった今岡浦美鈴が我慢できるとは思えないが、本当に我慢できなかったようだ。一日とは違いバカみたいに大量の魔獣と魔物を投入してきやがる。
「東門突破されそうです!」
「僕が行く!」
そしてフェルが抜けているのが辛い。正直総攻撃があったとして移動距離も考えて三日目ぐらいになるのかと思っていたがどうも岡浦はフェルがいなくなったその日に軍を動かしていたらしく今朝の昼頃からこの血みどろの争いは続いている。とはいえ魔獣は魔物に付き従っているだけなので魔物を倒せば魔獣は統率を無くしすぐにいなくなるのだが。
指揮官的な存在は普通後方に置くものだが…なんで前線に投入してんだよ。
「魔物が上から来てるよ!」
「勇也ぁ!」
おかげで大忙しだよ!
「というかさすがに数が多すぎない!?全勢力を投じてきている気がするんだけど!」
「というかこれでまだ敵が残ってたら泣くぞ!」
タマモとディスベルの切羽詰った声が聞こえる。
こちらにも甚大な被害が出ている。結界も一部破損しかけているし街にも被害が出始めている。
まずい…よな。うん。
「べリアまだか!?」
『もう少しだよ!』
かねてから準備していた装置の最終段階に入ったことをべリアがつい二時間ほど前に伝えてくれた。それにあいつももう着いた頃だろう。
「しっかり働けよ!ルース!」
水晶の向こうではルースが涙目だった。
燈義いわくの貧弱兵士、ルースという青年が俺の目の前にいる。俺が燈義に課せられた仕事は何があってもルースを守り抜くことだ。
とはいえ、自分でもわかっているが俺は結構思い悩んでいる顔をしているらしい。べリアちゃんに加えて美月と悠子にも心配されたし、燈義にも心配されているのだろう。
気にしてはいけないのが分かってるんだけど…はぁ…
「あ、あの…」
「…?どうしたんですか?」
「敬語とかいいです!それより…大丈夫ですか?思い悩んでいるようですけど…」
「やっぱりそう見えますか…」
「は、はい……あの、何を悩んでいるのか知らないですし分からないですけど、この戦争は、あなたたちが中心なんですよね…」
「うん…そうなんだよね…」
「だったら…その…頑張るしかないと思うんです!」
「頑張る…か。頑張った結果が間違った方向ならどうする?」
俺がそう言うとルースさんはにっこりと笑った。
「自分も、前に反乱に加わったことがありまして…でもフォン様は何も言わずに許してくれたんです。あなたたちが抱えている問題とは比べ物にならないくらい小さなものかもしれないですけど…でも道を間違えても元に戻ることができるし、それにやり直すことだってできると思うんです!」
ルースさんの言葉に俺は少しうつむき、頷いた。
そうだ。悩んでいられない。美鈴を取り戻すんだ。間違ったほうに行ったら絶対に、戻すんだ。
「ありがとうございます。ルースさん」
「い、いえいえ!そこまで大したことは!」
「いえ…ありがとう、ございました」
「…はい」
『ユウヤ!準備終わったよ!』
水晶の向こうからべリアちゃんの声が聞こえた。俺たちは弾かれたように動き所定の位置に着く。そしてルースさんはスキルを発動させる。
ルースさんのスキルで魔物の姿を映し出し、そしてそれを改造した魔力伝達回路に流す。
燈義に聞いたのだが、スキルというのは個人が持っている魔法のようなものらしい。だから魔法を伝達するこの装置を少し改造すればスキルを伝達させることができる。そして伝達したルースさんのスキルで魔物の姿を映し出した。
そしてそれにつられた魔獣がドンドン離れていく。作戦は成功か…
「うまくいったみたいですね…」
「大丈夫ですか!?これだけ魔物を出さなくてもいいのに」
「いえ…少しでもお役に立ちたいので…」
ある程度離れた場所に魔獣を追いやり、そして作戦は第二段階へ。
「燈義!」
『分かってる!魔力伝達回路を切り替えろ!』
僕は東門のほうを片付け城の上に行く。そして魔法陣を展開した。
さーてと…一回目以来使わなかったあれを使うか。まぁ魔力魂なのだけど。
「転送魔法陣展開…行くぞ」
魔力魂を一斉に転送する。そして魔力伝達によって流された魔力によって魔力魂は大爆発を起こし魔獣は消え去った。
しかし、異変はそこで起こった。
昇天するはずの魂がその場にとどまっている。そして黒く染まる。
その黒い魂はやがて地面に流れ込み、そして地面から出てきた巨大な蛇に食われた。
「ヤマタノオロチ…!」
第一の絶望が、そこで舌を見せていた。