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魔導書製造者  作者: 樹
再会から戦争へ
162/258

意義

遅れてすみません。

全力で土下座。

 ガガガガガガガガガガガガガ!!!と二人の瓜二つの少女がぶつかり合っているのを見てその場にいる全員が息をのむ。屋根の上で戦っている二人は互いに退くことなくぶつかり合っている。

 血が舞い、壊れた武器の破片が落ちてくる。街は壊れ何人かの兵士が巻き込まれた。


 周りを気にしている余裕はないか…まぁこの戦いに手を出すわけにはいかない。それにこれは好機なのだ。偽装のスキルが機能していない今なら軍もうかつに進行してこないはず。だったら今のうちにHPの回復とかしてもらうことが沢山ある。


「全員警戒しつつ負傷兵の手当てをしろ!あいつらの戦いは興味本位でも見に行くな巻き込まれるぞ!」


 フォンやディスベルも軍に指示を出している。


 勝てよ。



 皮膚が削れる、血が飛び散る、剣はもう何本折れただろう。その度に削り出し敵を斬り斬られる。HPがなくなりかけるギリギリまで粘り何とか隙を見つけて回復する。

 倒せない相手ではない。でも倒されないという自信は全くない。


「っあぁぁ…!」


 致命傷は避けたものの肩の肉が削られ小さな悲鳴を上げる。しかし教皇は攻撃の手を緩めることなく追撃してくる。私はそれを防御しつつ反撃する。

 何十回、何百回かの斬撃をしのいだところで私たちは地面に落ちた。しかしすぐに立ち上がりぶつかり合う。


「何故、倒れないんですか…」


 敵が私に問いかける私は構うことなく近くの家の骨組みを壊し倒壊させた。家の下敷きになった教皇はそれでも怯むことなく向かってくる。そして鍔迫り合いになり互いの顔が接近する。


「何故、倒れないんですか…」

「戦闘中に質問とは……余裕ですね…」

「余裕は…ありません…でも聞いておかなければいけないんです……」


 必死のその質問に私は考えを巡らせるものの、倒れない理由は分からない。だって私はトーギさんとミツキさんに助けられ、そして役に立ちたくて生きているのだから。この教皇と戦っているのだってトーギさんとミツキさんのためだけなのだから。


「もし…トーギさんとミツキさんのためだけに戦っているのなら……あなたは私に敵わないんですよ…」

「敵わない…何故ですか…!」

「それは、私が聞いているのですよ!!」


 ガッ!と気合に押されて怯んだすきに敵は私の腹を蹴り私は倒れた。教皇は私にのしかかり剣を突き付けるが私は何とか剣で受ける。

 しかし上から押さえているほうが当然ながら有利なのでだんだん押され始めた。


 仕方がないか……!


「はぁ!!」


 教皇の顔が一瞬こわばる。それもそのはずだろう。この至近距離でスキルを使ったのだから。そして教皇は私の予想通りスキルをスキルで相殺した。しかしその衝撃で私はより地面に叩きつけられ教皇は吹き飛んだ。


「捨て身…過ぎでしょう…!」

「死ぬ気でやっても……勝てるかどうか分からないですからね…!」


 ボキリという嫌な音がして手を見てみると左手が変な方向に折れていた。痛みをこらえて教皇と向き合う。

 教皇もかなり参っている……とはいえこっちもギリギリですね……

 でも、死ねないんですよ…!負けられないんですよ……!!


「我が身を犠牲にして戦うくらいのことは……いくらだってしましたよ…!」


 教皇は私を非難するように叫んだ。


「でも助けられなかったんですよ…!どうしてあなたに託さなければいけないんですか!どうして私はあなたのようにトーギさんとミツキさんのそばにいられないんですか!どうして私は……あなたに敵わないんですか!」


 教皇―――フェルは剣を構える。悲壮な顔をして、ボロボロの体を引きずって剣を構える。

 私は、そんな姿を見てもう一度フェルの質問を考える。


 私は、一体なぜこの人に抗うのだろうか。この人に任せればいいのではないだろうか。きっとトーギさんなら、あの世界のイレギュラーなら何とかできるだろう。

 思想も姿かたちも全く同じ、むしろ彼女のほうが戦いに有利だろう。


 しかし、なぜこんなに嫌なのだろうか。


「答えてくださいよ…!あなたの存在意義は、なんですか!」

「私の存在意義は……」

「答えろ!」


 再び鍔迫り合いになる。私は右手の剣で受け止めたものの勢いに負けて無様に吹き飛んだ。とっさに左手をかばうように転がるがそれが間違いだった。しかし右手が使えなくない私にフェルはすぐに距離を詰め剣を振りかざす。そして振り下ろされた剣は私の胸を貫いた。


「グ……ガァ……」

「…この程度ですか…」

「な…」


「あなたと主との約束はこの程度ですか!」


 敵なのに激励してどうするんですか……と私は苦笑いをこぼす。


 私の存在意義。フェルが私に託そうとしているもの。


 私がすべきこと。


「私はぁ…!」


 がしり、とフェルを掴む。胸から血が噴き出すが気にしてはいられない。


「私はぁ……あなたたちと違って、世界を否定しない…!」

「いえ、あなたは否定します…!世界を、絶望の未来を!」

「否定できませんよ……!今まで生きてきたこの世界を!トーギさんとミツキさんと出会えたこの世界を否定できませんよ……!!」

「だったら、どうするんですか」

「どうもしませんよ……私は生きて…二人を助けます…あの二人は…いろいろと危ないんですよ…!」


 だから安心してください。と私は笑いかけ、そして自分の体の下から剣を削りだした。掴んだことで少しずらしたフェルの体に地面から突き出た剣が私もろとも教皇に突き刺さる。

 剣は見事にフェルの体を貫きフェルは私の上に倒れた。


 ……ギリギリHPは残りましたか……でもこの先の戦いにはしばらく参加できません……ね……


 遠くで誰かの叫び声が聞こえた。そしてわずかに残ったHPが少しずつ回復していく。

 フェル…ありがとうございました…!


『世界はコインの表と裏。だから世界は滅びる』


 そんな声が聞こえた。薄れゆく意識の中トーギさんが魔導書を開いているのが見えた。

 そしてフェルは満足そうに消えかける。


『ありがとう。……また向こうでな』


 そんな声とともに、フェルは世界から消えた。

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