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魔導書製造者  作者: 樹
再会から戦争へ
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団結

 最終戦争前最後の夜、獣人族の国ルグルスの城の天守閣に全国の代表が集まっていた。

 魔族代表ディスベル=デクシー、獣人族代表タマモ、電脳種代表キトル=キトリ、小妖精代表ニュース=べリア、エルフ代表フェルイ=フォン、人間代表ユウヤ=ナギカワ、トーギ=アザガミ。アトランティスは不在。

 勝手に人間代表を名乗っていいものかどうか迷ったが人間側は他の国からの再三にわたる警告を全く聞き入れず結局参加しなかった。なので召喚された勇者である凪川と巻き込まれた僕を代表として立てることにした。


「今夜集まってくれたこと、獣人族代表として感謝します。今朝方、こんなものが届きました」


 タマモが見せたのは手紙。文面はただ一文。


『覚悟はできたか?』


 いい度胸だ。とフォンは笑った。

 それと同時にヒュガスでも動きがあったらしい。各地方に身を潜めていた破壊の勇者の配下の奴らが集まり始めたのだ。


「戦争になるね」


 べリアの言葉に全員が身を引き締める。忘れてはいけない。破壊の勇者はヒュガスを、一国家をたった一晩で占領した軍団なのだ。

 血みどろの戦いになる。今までで類を見ないほどの戦争になる。


「で、各国はどのような対策を?魔族としては資源の供給くらいしかないが」


 ディスベルが質問を投げかける。


「エルフは王都の結界の一部を各国にはらせてもらった。ここ一年なぜかラーが例年以上にエネルギーを供給しているから各国にも相当強固な結界をはらせてもらった」

「電脳種としては非戦闘員、女性や子供のできるだけの避難。かき集められるだけの船を集めて非戦闘員とともに安全地帯に待機中。まぁ空中戦艦とかかなりの数を集めたけど」

「ヒュガスは生き残った小妖精を集めて武器と魔導具の製作と改良に努めたわ。戦闘では役に立たないかもしれないけどその分裏方を死ぬ気でやる」

「人間としては、というか僕たちとしてはこの戦争の勝利条件を満たすことに全力を注ぎました。アサガミくんの知識などを利用して神々と交渉、いくつかの神々を味方につけることができました」


 凪川の発表に全員がどよめく。


「神々、な。にわかには信じがたい。証拠を見せてもらっていいか?」


 ディスベルがじっと僕を見る。僕は無言で冥府の書を取り出した。


 アンチキングダム。


「ッ!?」


 僕が発動したスキルにディスベルが構える。僕の背後には黒い鎧を着て真っ赤なランスを持った騎士が二体出現した。


「アンチキングダム。死体から生命を創りだすスキルだ」

「死者か…嫌なもの思い出させる…」


 そう言えば魔族は死者との戦争をしていたらしい。でも構うことはない。そもそも魔族が戦っていた神とは違うのだから。

 魔族が戦っていたのがギリシア神話のハデス。僕に協力しているのは北欧神話のヘルだ。冥府の神が何人もいるのはどうかと思うがいるのだから仕方がない。


 ちなみに人間などの死体でなくても微生物の死体をかき集めることで騎士を創れるという便利なスキルである。


「分かった信じよう。よくやってくれた」

「それはどうも」


 全員が僕たちにねぎらいの言葉をかけてくれる。


「ま、神々の力とはいえ使うのは僕という人間。限界はあるから万能ってわけにはいかないけど」

「万能なのは神様だけよ」


 タマモはそう言って草薙の剣を抜いた。それを見てキトルは銃を、ディスベルは拳を、フォンは大剣を、べリアは金槌を、凪川はエクスカリバーとデュランダルを、僕は五つの魔導書をそれぞれ自らの目の前に置く。


「ユウヤ、トーギ、頼む」


 キトルが僕たちに言った。僕たちは顔を見合わせることなく言葉を発する。


「僕たちは弱い」

「だから団結できる」

「僕たちは臆病だ」

「だから恐怖に打ち勝つために戦う」


「「絶対勝つぞ!!」」


「「「おおおおおおおおおお!!!」」」」


 それぞれの武器を天井に向かって突き上げる。


 そうして戦争最後の夜は更けていった。



 天守閣の決意から二時間後。全く眠れずにいる僕の隣に凪川来た。


「眠れないのか?」

「まぁ、ね。眠れないよ」

「あいつらみたいに酒でも飲めば眠れるんじゃないか?」

「俺はお酒苦手だし」

「飲んだことあるのかよ」

「昔親戚に飲まされたんだよ」


 そう言って凪川は笑った。しかしすぐに顔を引き締めて真顔になる。


「ねぇ、浅守」

「なんだ凪川」

「この世界に来てよかったと思う?」


 その質問に僕は即答できなかった。いろいろな感情が入り混じって言葉にできない。


「俺はこの世界で死ぬつもりでいるんだ」

「永住するのか」

「うん。家族とか友達とか大切な人は沢山いるけど、でもこの世界にいたいって気持ちのほうが優ってる。浅守は?」

「僕は……」


 僕は少し考え、言った。


「僕もこの世界に残る。向こうに僕を受け入れてくれる幸せがあっても僕はこの世界で幸せになる」


 だから僕の幸せは同じ僕に譲ることにしよう。


「ねぇ浅守」

「なんだ」

「美月ちゃんのこと、好き?」

「好きだ」


 僕の即答に凪川は満足したようにうなずいた。


「さーてと、もう寝るよ」

「お休み」

「お互い生き残ろうな――――燈義」

「当たり前だ。―――――勇也」


 僕たちはこつんと拳を合わせ、自分たちの部屋へと帰った。

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