一年
スレイク王国。国王が僕たちに襲撃されてから勇者もいなくなり、権威が失墜したせいで混乱状態にある。貴族は兵士を買占め自分たちだけを守るために閉じこもった。その結果、ただでさえ犯罪が多かった平民の街はもう殺人や強盗が日常的に行われていた。
で、そんな場所に僕たちが、と。
「何で集合場所がスレイクなんだよ…」
「仕方がないよ。ここは始まりなんだから」
僕と美月とフェルはそんな街を歩いていた。
「早く来すぎたんじゃないか?約束は正午だろ」
「いいじゃん。早く会いたいもん」
奏は目的地である遺跡、あの壁画があった遺跡へと足を進める。現在午前十時。遺跡までは大体三十分くらいだ。
ここで一時間半も潰す場所なんてないぞ。
「ここの食物は味が薄いですね」
露店で買った焼き芋を食べつつフェルが呟いた。代金の割にイモが小さい。ぼったくりもいいところだと思ったが何を思ったのかフェルは迷わず購入した。
「何で買ったんだよそれ」
「イモを食べる機会はそうありませんでしたから」
「確かになかったがな」
最後にイモを食ったのはトーレイの時だろうか。随分と長いこと食べていない。
まぁこのイモなら食べようとも思わないけど。
「で、どうする?森でも行くか?」
「何しに?」
「まだ試してない魔法の組み合わせとかあるしな」
「でも森に行って実験やってる時間はないよ?試してないのって大型魔法でしょ?」
「あー…それもそうか」
じゃぁどうする?観光できる場所なんてないぞ。
「トーギさん」
「ん?どうしたフェル」
「いえ、後方の彼らは」
「気にしなくていい。どうせ強盗とかだろ」
フェルが言った通り背後から六人くらいの男性が迫っている。だが正直どうでもいい。
あいつらに使う魔力も勿体ないしな。
「取りあえず遺跡に行こうよ。結局遺跡って壁画見ただけで詳しく調べてないんでしょ?」
「他に調べる場所もなさそうだがな…まぁいいや。行くか」
「そうですね」
後ろから来ている六人には目もくれず僕たちは遺跡へと足を進めた。
遺跡は一年前のままだ。あの最悪の未来を描いた壁画も、一年前のままだった。ただ変わっていたのは入口の時計の針が進んでいたくらいだろうか。
世界終末時計。世界の終わりを刻む時計。
「そんな忙しいときにこれだ…」
僕たちはニヤニヤした男たち、あの六人の男たちに囲まれていた。強盗団らしい…勢いよく名乗っていたが特に聞いていなかった。
「どうする?」
「面倒だ。美月よろしく」
「はいはい…」
美月が両手を上げる。そして小さく呪文を唱えると六人の強盗団は苦しそうにうめき始めた。
美月の新道魔術『情報操作』。解析した情報を操作する能力。六人の周りの酸素を操作して窒息させた。
すぐに六人は倒れ、適当に外に放っておいて遺跡の中を歩き回る。
「しかし、何もないなここ」
「そうだねー、あの時計と壁画以外なにもないね」
「どうします?」
「遺跡を壊すわけにもいかないからな。どうしようか…」
何とかして暇を潰せないか考えていると外から爆発音が聞こえた。ついでに男女混じった叫び声も。
「何が起きたの!?」
「大体予想はつくがな」
一応外を見に行くと、予想通りの光景があった。
「何してんだよお前ら」
「浅守!美月!」
「三人とも!久しぶり!」
外には勇者と子供、凪川と谷川とべリアがいた。
とりあえず遺跡の中で一服着くことにした。
お互い連絡を取ったことがなく今どういう状態になっているのか全く分からないが、とりあえず目を引いたのは谷川の右手だった。
「右手、大丈夫なの…?」
「うん。もう片手にも慣れた」
美月が心配そうに聞いている。しかし谷川は笑って「大丈夫」だと言っていた。
「で、凪川。大道魔法ってなんだ?」
「あれ?なんで知ってるの?」
「聞いたんだよ。百年前からの案内人からな。……そう言えばナイト=フォールってまだいるのか?」
「フォールのことも知ってるの!?」
「まぁ一年前に会ったからな」
「フォール……自由に動いてくれてたなぁ…」
「くれてた、ってことは」
「うん。もういないよ。まぁそこも含めて話していこうか。この一年のことをさ」
そうして無事再会を果たした僕たちは報告会を始めた。
報告会は二時間に及び、それでもまだ詳しくは聞けていないが一旦場所を移動することにした。
「アーキアってやつの存在は聞いたことあるけど、こんなに大きいんだね」
「まぁな」
森の中に着地させた船に乗って上空に浮いているアーキア救済に移動した。凪川たちは救済に乗ると珍しそうに見回す。
「大きーい…」
「でしょ?」
べリアが感心した声を上げ美月が自慢げに胸を張る。
「さてと…行くか」
「どこに?」
「この船の艦長、到来機関の長の家だ」
僕たちはキトルの家に移動した。救済の中でも凪川は相変わらず人気で、男性からは嫉妬の目線が向けられている。
そんな視線の中キトルの家に着き、ドアを開けた。
「キトル、三人を連れてきたぞ」
「いらっしゃーい」
中からキトルが挨拶をする。以前とは違い優しそうな四十代の男性の姿をしている。その後ろで資料を片付けているルーがいる。
「初めまして勇者くん。お話はかねがね聞いているよ。僕はキトル。よろしくね」
「凪川勇也です」
「谷川悠子です」
「ニュース=べリアです」
「よろしくね」
キトルは人の好さそうな笑みを浮かべて三人を迎え入れた。
僕は話をしている三人を見つつ遥か眼下のスレイク王国を見る。
明日で戦争が始まる。それ相応の準備はした。
だからこの戦争、必ず僕たちが勝つ。
「どうしたの燈義くん」
「なんでもない」
僕は美月に返事を返し、部屋の中に入って行った。
トーギ=アサカミ
男 17歳 Lv 129
HP 5100/5100
〈スキル〉
魔導書館
天蛇の書『スキルロード』
太陽の書『生命流動』
大地の書『アースエフェクト』
冥府の書『アンチキングダム』
深海の書『存在回帰』
ミツキ=ツチヤ
女 17歳 Lv 125
HP 4900/4900
〈スキル〉
ラプラスの魔
情報操作
ユウヤ=ナギカワ
男 17歳 Lv 189
HP 7000/7000
〈スキル〉
勇者 剣
デュランダル
闇核
大道魔法―許容
ユウコ=タニカワ
女 16歳 Lv 185
HP 6700/6700
〈スキル〉
勇者 杖
大道魔法―抱擁