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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
157/258

救済

 到来の中を走りつつありとあらゆる情報を集める。どこにヒントが転がっているのか分からない今とにかく情報が必要だ。

 そして、何より必要なのは…


「戦力なんだけど…!」


 何人か到来に直接攻撃を仕掛けている。ヘルヴェチカの攻撃は射程外なのか到来に届いていないもののもう何度も到来が強く揺れている。


「ルーさん!」


 廊下に座り込んでいるルーさんに声をかけても返事どころか目すら開いていない。小さく泣き声が聞こえるし、肩も少し震えている。


「ルーさん!手伝ってくれないとみんなが!」

「もういいんだ…」

「よくないですよ!キトルさんを生きながらえらせる方法はあります!そうすれば!」

「だって…あいつは…生きたくないって言ったんだぞ…無理に生かすことが正しいことなのか?」

「……知りませんよそんなこと!」


 私は叫んでいた。そしてルーさんを置いて先に進む。


「悪いですけど、私はそこまで特異な存在ではないんです!生かしていいのかとか、そんなこと教えられないんですよ!そこまで悩むんならいっそ心中でもしたらどうですか!?」

「心中って…」

「その方は事態が進展します!まぁキトルさんだけでも生き返らせますがね!」

「意味ないじゃない!」

「だったら一緒に生きればいいじゃないですか!私達はこれから世界全土を巻き込んだ戦争をしなくちゃいけないんですよ!他人の事情とか知ったことではないんですよ!生きる意味がない。とか言われてもキトルさんにはいてもらわなくちゃいけないんですよ!」


 それだけ言うと私はルーさんを無視して歩き出した。するとルーさんが何かを呟いて立ち上がった。


「どうしたんですか」

「別に……落ち込んでるのがばからしくなっただけ」

「それで、どうするんですか?」

「さぁ…なるようになれ、だね」


 ルーさんは行ってしまった。私はルーさんとは逆方向へと足を進める。



 ……どうしよう、これはまずい。


「見つからない…」


 到来中を走り回り、情報をかき集めたものの全くと言っていいほど手がかりがない。こういう場合はどうしたら…


「ヒント…ヒント……」


 何かあるはずだ。キトルさんが何の勝算もないままこの戦争を仕掛けさせるとは思えないし、勝算と言ったら救済しかない。だからそのヒントもどこかに隠されて…


 今までのパターンで言ったら、最初から答えは提示されていた。とか言う感じなんだけど…


「う~ん…」


 分かっているのは救済と言う名前と圧倒的な質量と火力、実弾兵器、そして巨大な船だってこと。でも船っていたら…この船と、敵艦と、時計と……そうだ、最初に到来が襲ったあの船……確かハンモックていう…


「確か船は格納庫にあるはず…!」


 しかし格納庫に行くには外にでなければいけない。銃弾が飛び交い魔法が炸裂する戦場を駆け抜けられる性能は私には…


「どうしよう…」

「お困り?」


 不意に背後から声が聞こえた。振り返ると汗をかいたルーさんがいた。


「ルーさん…って、なんですかそれ!」

「あぁ、キトルだよ」

「や、やぁ…」


 縛られて引きずられているキトルさんが力なく笑う。


「なんでこんなことに!?」

「仕方がないだろ。こいつに生きる意味とか与えるためにはこうするしかないんだ」

「何するつもりだったんですか」

「ま、それは後でいいだろ?どうしたんだ。格納庫とか言ってたけど」

「あ…そうですルーさん!格納庫に行きたいんです!私を守ってくれませんか!?」

「格納庫…」


 ルーさんはちらりとキトルさんを見る。キトルさんはどこか安心したように小さく笑みを漏らしていた。


「オーケー分かった行こう」

「へ?僕このまま?」

「安心しろ。絶対守ってやるから」


 ルーさんは力強い笑みを浮かべる。キトルさんは「あ…よろしくお願いします」と言って黙った。


「それじゃ行くよ!」


 そして私たちは格納庫へと走った。



 そして、格納庫。


「死ぬかと思った…」


 キトルさんが涙目だった。


「死にたいんじゃなかったのか?」

「安らかに死を迎えたいんだよ……それで、救済はどこにあると思う?」


 キトルさんが私に問いかける。私は巨大な格納庫に入っているハンモックに乗り込んだ。私に続いて二人も乗り込んでくる。


「ねぇ、キトルさん。どしうしてハンモックを襲ったの?」

「資源確保のため」

「どうしてハンモックなの?ハンモックって、かなり大きな船だよね」


 そうして私たちはハンモックの中枢、管制室に着いた。


「やっぱり…ハンモックで塞いでる…」


 そう。キトルさんが欲しかったのはハンモックの資源じゃない。ハンモックそのものなんだ。


「この下に、あるんですね。カギ穴が」

「…見てみるといいよ」


 そう言ってキトルさんは拘束を自分でほどいて管制室のパネルをいじった。すぐにハンモックが揺れて管制室の中央に穴ができる。


「救済の使い方を間違えないでね」


 キトルさんは消えてしまった。ルーさんは驚きつつもここにいないことが分かるとすぐにハンモックを出て行ってしまった。


「…行こう」


 穴を下りるとそこは通路だった。その通路の先、扉があった。


「この鍵穴…」


 扉の中央の鍵穴にキトルさんからもらった鍵をさしこんだ。ガチャリと音がして鍵が開いた。

 扉を開ける。すると、そこには―――


「これは…」


 何もなかった。………いや――地面に何かあった。


「これが、起動の?」


 地面に描かれている幾何学的模様に触れると、声が聞こえた。


『汝、何を望む?』


 低く重い声。私は落ち着いた声で、あらかじめ考えていた答えを言った。


「救済―――みんなを助けたい!」


 救済の存在意義を叫ぶ。到来――救済は答えを聞き入れたようですぐに変貌を開始した。



 あれが、救済か…とフェル守られつつ僕は救済を見る。


「実弾兵器とか圧倒的な火力とか、そんなものはただの武器なんだよな…」


 実際、攻撃力はヘルヴェチカのほうが上だ。だったらどうする?絶望的な攻撃力には絶望的な防御力しかない。

 そして、絶望的な攻撃を利用するしかない。


「な、に、を」

「まぁ見てろよ…」


 フォーラスが疑問の声を上げる。僕が返事を返したまさにその時、救済から一隻の船が落ちた。

 ハンモック。大きな船だ。


「で、もあ、れでは」

「あぁ、アレはただの入れ物だ…フェル」

「部隊の退却は完了…行きましょう」


 僕は転移魔法を展開する。そして横目で攻撃され崩れ落ちるハンモックを見た。

 そして、ハンモックの中から出てきた光る、クリスタルのようなものも。


「ま、りょく、こ、ん?」

「正解……なぁフォーラス。起動中の爆弾をハンマーで殴るとどうなると思う?」

「それ、は、ばく――――」


 そこまで言ってフォーラスも気づいたようだ。


「まさ、か」

「そのまさかだ…!」


 魔力魂は純粋な魔力の塊。あのクリスタルのような容器に魔力が押し込められている。

 それが一気に壊されたらどうなる?


「バーン…」


 僕たちが転送された一秒後、ヘルヴェチカと敵艦と救済を包んで巨大な爆発が起こった。


 これにより、コーホジークの主戦力は壊滅……総攻撃開始から三時間。電脳種の明日をかけた戦いは終わった。

そして舞台は一年後へ―――

最終章、明日から始まります。 

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