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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
156/258

戴冠

 目を覚ますとまたしても病室のベッドの上だった。今回はキスしようとしているべリアちゃんはいない。

 体を起こしても特に痛みは感じられない。


「フォール…ギアトさん…」


 最後、どこか暗い場所で二人が幸せそうに笑っていたのが見えた気がする。もしあの姿が俺の中にいた二人なのだとしたら、笑っていた二人は幸せに逝けたのだろうか。

 だったらいいな…


「起きた?」

「あ…リュートさん!大丈夫なんですか!?」

「まぁ、な。傷は残ったが何とか生きているよ。ユウコのおかげだ」

「よかった…そういえば、アスルートさんは!?それにディスベルさんや悠子も!!」

「落ち着いて。三人とも無事。アスルートは昨日目覚めたし、ディスベル様やユウコは戦後の処理に追われているの」

「そう…勝ったんですよね。俺たち」

「君が勝ったんだよ」


 そう言ってリュートさんはにっこりと笑った。


「別に勝ったのは俺だけじゃ…」

「いや、ユウヤがいなければ間違いなく全滅していた。我々は無力過ぎた…占い屋も、死なせてしまったしな……」

「…セン…」

「後で墓参りにでも行ってやってくれ」


 そう言ってリュートさんは出て行ってしまった。俺はベッドから下りて病室を出る。外はざわついているものの走り回っている人たちのは戦前のような絶望感はなく、生気に満ちている。


「えっと…ディスベルさん達は…」

「ユウヤ…?」


 ディスベルさんたちを探そうと歩きだすと、背後から声が聞こえた。振り向くと目に一杯の涙を浮かべているべリアちゃんがいた。べリアちゃんは走って来て俺の胸の中に飛び込む。


「よかった…もう起きないかと思ったぁ…」

「心配かけてゴメン…もう大丈夫だから」

「本当…?」

「勿論」


 そう言って笑うと安心したようで、こらえていた涙をこぼした。どう泣き止ませればいいかわからずおろおろしているとべリアちゃんの方から離れてくれた。

 濡れた俺の服を見つつべリアちゃんはにっこりと笑う。


「よかった」

「うん」


 俺はべリアちゃんに案内してもらいつつアスルートさんがいるという病室へ向かった。

 そこは頑丈な扉があり、兵士が二人立っている。


「お疲れ様です…」


 挨拶しても全く返してくれない。一点を見て動かない。

 これ、入ってもいいのかなぁ。


「入るよー」

「いいの?」

「いいのいいの。この人たちは…」


 そう言ってべリアちゃんが兵士の二人を見ると二人はピシッと背筋を正し、同時に剣を抜いた。

 ちょっ!?なに!?


「すみません!」

「は、はいっ!?」

「「サインを、いただけないでしょうか!?」」


 緊張した声で同時に叫び、そして剣を俺の前に差し出した。


「……あ、はい」


 全く状況についていけつつも剣にサイン……らしきものを彫って二人に渡すと二人は大事そうに剣をしまった。

 …緊張してたんだなー…


「失礼しまーす…」


 俺たちが病室に入ると病室にはディスベルさんと悠子がいた。


「起きたか…!」

「おはよう!」


 二人が俺に挨拶をする。俺も「ご心配をおかけしました!」と挨拶を返す


「ユウヤさん…」

「アスルートさん…!よかったです!」

「ご迷惑をおかけしました…とんだ災難を…」

「仕方がない…で、すまされませんよね。どうするんですか?」

「田舎に隠居しますよ……もうここには戻ってこれませんね」

「そんな……」

「いいんですよ。二度と会えないわけじゃありません」


 アスルートさんはにっこりと、悲しそうに笑った。

 やっぱり責任は取らなくてはいけない。兵士は死ぬ覚悟をして戦いに挑んだから死んでも、家族も文句は言わない。保証もしっかりとしている。それにこの城の中に、アスルートさんを恨んでいる人はいない。


 しかし闇魔法が俺のものになってしまい、そして闇魔法の核であった初代魔王が死んでしまった今、これ以上の問題は困る。そしてアスルートさんは……問題の塊だ。魔王が復活したら、とかいちゃもんつけられたら正直、本当にヤバい。


「兄さんが魔王になるって決めてくれたんです。邪魔するわけにはいかないじゃないですか」

「アスルートさん…」

「それよりユウヤさん、あなたも頑張らなくてはいけませんよ」

「分かっていますよ…もっと強くならなくてはいけないんです…」

「いえ、そういう事じゃなくて…あ」


 アスルートさんは「しまった」と言うように口を閉ざした。そして俺とべリアちゃんを見る。

 そんなアスルートさんを見て悠子は苦笑いになり、ディスベルさんは面倒くさそうにため息を漏らした。


「お前に、求婚の話が来てる。それも大量にな」

「……へ?求婚?」

「あぁ、政略結婚とかならまだいいんだが…どうも本気で惚れてるらしい。まぁ救国の英雄だからな。お前」

「………マジですか」

「マジだよ」


 マジですか。

 …べリアちゃん怒らないでー……



 そんな勇也の様子を遥か上空から見ている勇者はため息をついた。


「変わらないな…あいつは…」

「ようやく自覚したか色男」

「!?出てきていいか!?」

「いいんだよ。これは少しばかりヤバい」


 いきなり隣に現れた創造主はそう言って自分たちがいる場所からさらに遥か上空を指さした。


 そこには、穴があった。宇宙にぽっかりと、小さくともしっかりと開いてしまっている穴があった。


「そんな…何で!?」

「さぁな。もともとこの世界自体がイレギュラーな存在なんだ…何が起きてもおかしくないが…」

「でもこれは…!」

「あぁ…大丈夫だ。一年はもつ。問題はあいつらは答えに辿りつくかどうかだが…」


 創造主はその穴を睨む。


 その先には、あの懐かしき東京スカイツリーが見えていた。

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