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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
152/258

強欲

 目の前の魔王と斬りあう。光と闇がぶつかり合い、魔王が嬉しそうに笑っている。


「面白い、面白いぞ勇者ぁ!」

「俺は全く嬉しくないよ」


 嬉しくない。友達が目の前で殺されて泣いているディスベルさんを見るのが、苦しそうにしているリュートさんを見ることしかできないのが、治療に一生懸命で苦しそうに息を吐いている悠子を見ているのが…


 たまらなく、悲しい。


「あぁぁぁ!」


 エクスカリバーの光が一層強くなり、俺は全力で魔王に斬りかかった。それを受けた魔王は驚いたように目を見開き、そして苦しそうな声を上げる。


「ユウヤ…さん…」

「!?」


 一瞬だけ漏れたアスルートさんの声に驚いて力を緩めてしまう。その隙を突かれて魔王はにやりと笑い、そして俺の腹を思いっきり殴った。俺は後ろに吹き飛ぶ。


「欲張りすぎだぞ、勇者」


 魔王はそう言って嘲笑した。

 人は欲張りすぎたらだめになる。いつかそんな言葉を聞いたことがある。この状況は、何もできない俺の状況は欲張りすぎたからなのだろうか。

 で、それを甘んじて受け入れるか?


「無理に決まっているだろう!」


 血を吐きながら立ち上がり、そしてデュランダルのスキルを解放した。


「断空!」


 デュランダルのスキルを付与したエクスカリバーを振り切る。すると嘲笑していた魔王の右足が斬れた。

 デュランダルのスキルは何でも切り裂く斬撃。完全解放されたデュランダルは空間すらも斬り、斬撃を飛ばすことができる。


「な、ん…?」


 驚いている魔王に向かって俺は叫ぶ。


「欲張りで何が悪い!その欲を満たせるほど強くなれば、賢くなればいいんだろ!?」


 人間には可能性がある。努力することができる。


 努力は成功を約束しない。しかし成長は約束してくれる。


「俺は諦めない!必ず俺の夢を実現させてみせる!だから―」


 エクスカリバーを足を再生させる魔王に向ける。


「俺はお前を倒して、アスルートさんを助ける!」

「ほざけ人間!」


 魔王は苛立ったように黒く輝く剣を二本だし、両手に持って俺に斬りかかってくる。俺はエクスカリバーをしまって新しい剣を抜刀した。

 黒剣黒々。俺が知る最強の魔王の武器が魔王の剣にぶつかった。


「!?バカな!?なぜ壊れない!」

「俺の魔術はは人の思いだ…!たった一人で戦うやつが、俺たちに敵うはずないだろう!」


 これが大道魔術だ!


 俺の剣に力負けして弾き飛ばされた魔王は忌々しそうに俺を見る。俺は待つことなく追撃をかける。


「何を企んでいるか知らないが…!この国の王は我だけだ!」

「もう死んだくせに未練たらしく子孫を苦しめるお前に、王は務まらない!」

「だったら誰が務めると!?」

「ディスベルさんに決まっている!」

「あんな腰抜けが王だと!?笑えない冗談だぞ!勇者ぁ!!」

「腰抜けじゃなくて優しさだ!笑えない冗談を言っているのはお前だ!魔王!」


 息つく暇もなく斬りあい、お互い傷つきまくるものの一歩も引こうとしない。そんな状況に苛立ったのか魔王は上級魔法の攻撃を繰り出そうとしてきた。とっさに防御しようとしたもののすぐに考え直す。


「ダークネスインパクト!」


 巨大な闇の塊が俺を襲う。俺は防御することなく、エクスカリバーを振った。その瞬間直撃したダークネスインパクトが地面を抉りつつ俺を飲み込む。


「所詮口だけだったようだなぁ勇者!」


 勝ち誇るように笑う魔王はすぐにその表情を驚きと苦悶に変える。

 魔王の胸から腹部にかけて切り傷が開き、そして血が噴き出した。


「ば…かな!なぜこんな…!?なぜ生きている……!?」


 直撃したはずの俺が生きていることと攻撃をくらったことに驚いている魔王だが、俺にとっては別段不思議なことではなかった。フォールとの修行の過程で巨大な岩に潰される修業は何度もして、痛みには耐えられるようになったし死なないようにエクスカリバーのスキルである程度は防御できた。そしてあれほどの魔法を放ったあとではすぐに動けるはずもないので断空を使って魔王を斬ったのだ。


 この世界はHPがなくならない限り死なない。


「いっ痛い…!」


 さっきから傷口がどんどん広がっていく。なんとか出血だけは魔法で押さえているけれどそれも限界になってきた。

 大道魔術を使うための魔力が切れかけている…これ以上の引き伸ばしは不可能だ。


「もういいですかね…ディスベルさん!」

「あぁ、もういい」


 そう言ってディスベルさんが俺の後ろから走り抜けてきた。その手に握っているのは、黒々とは違う黒い剣。

 闇核そのものの魔力の塊。


「はぁぁぁぁ!」

「来るな!」


 魔王がディスベルさんに攻撃を加えるもののディスベルさんは止まることなく走り続ける。


「バカな…!?なぜ止まらない!?なぜ傷つかない!」


 魔王が悲鳴にも近い声を上げる。すると俺の後ろで悠子が叫んだ。


「悪いけど!勇者は勇也くんだけやないんやよね!!」


 悠子の補助魔法で短時間とはいえダメージを受けないディスベルさんは止まることなくまっすぐ魔王に突っ込む。


 そして―


「や、やめろぉぉぉぉぉぉ!」

「消えろ魔王!」


 闇核の剣を魔王の胸に深々と突き刺した。

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