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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
150/258

契約

 目の前は、惨劇だった。血肉が飛び散り光が舞い上がる。怒号と悲鳴が四方八方から上がりオレの顔もすでに半分が血でぬれていた。


「クソが!」


 予告してくるとは随分と自信があるようだ。と思っていたが本当に強いじゃないか。こんな化け物ユウヤ抜きで戦うのは無理だろ。


「どこほっつき歩いてんだよあの勇者は!」


 こういうのを倒してこその勇者だろ!?と憤るもののよく考えればこれもホーメウスの問題、というかオレたち兄弟の問題なんだよな。よくここまで膨れ上がってくれたものだ。


「ユウコ…悪い。死ぬかもしれん」

「まぁ仕方ないやん。それに、死ぬと限ったことじゃないし」

「限ってるだろ。これはもう詰んでるだろ」

「そうかな、主人公は遅れてやって来るもんやよ」

「遅れ過ぎだ。あのバカ」


 遥か前方から残虐な笑みを受かべるアスルートが兵士たちを惨殺しながら突き進んでくる。戦いが始まって二時間で半分が壊滅かよ。おかしいだろ。


「傷を負った兵士たちも回復魔法が効かずに死んでってるんよ」

「そりゃ魔王のスキルだろ」


 惨滅。その名の通り殺戮特化した、殺戮のためのスキル。傷はどうやっても治らず、それどころかどんどん傷口が広がっていきやがて死に至る。スキルを治す方法はただ一つ。魔王を殺すことだ。


「つっても殺すのは無理だろ…」


 闇核があっても無理なような気がしてきた。イレギュラーにイレギュラーをぶつけるって発想はいいし、確変前世界とかいうやつも本当にあったらしい。それを考えると成功はするんだろうが…


 それまでの一体何百人が死ぬのだろうか。


「っ!」


 また目の前で兵士が一人、体が裂けて死んだ。血をまき散らし死んだ。

 いくらでも死体は見たが…これはさすがにきついな。オレもまだまだなのかもしれない。


「さてと…腹をくくるか」

「そうやね」


 残り百メートルくらい。このままじゃまず間違いなく死ぬだろう。くだらない人生だった。勘違いから始まって好きな奴ができて、戦争やって大切な人を失って弟の容姿をした魔王に殺されるのか。


 あーあ、巻き込むんじゃなかったなぁ。


「ユウコ…悪い」

「謝らんといて。これも人生やから」


 元々、争いから一番遠い場所にいたというユウコはそう言って笑った。

 この世界に来なければ死ぬこともなかっただろうに。


「それじゃ」

「うん」


 オレたちは刺し違えようと一歩を踏み出し、オレの目の前に魔王が迫る。


「…よぉ魔王、楽しそうだな」

「あぁ!楽しいとも!」


 そう言って魔王はオレを殺そうと手を首にかけようとしてユウコの魔王に阻まれた。


「ほう?これほどの防御とは凄まじい。貴様、勇者か」

「そうやよ」

「ふむ、面白い」


 そう言って魔王はユウコに手をかけようとするがそれも阻まれる。それを見て魔王がにやりと笑った。


 どうする?このままじゃ確実に刺しちがえられずに死ぬ。


「させるか!」


 そう言ってオレの後ろから飛び出してきたのは、リュートだった。リュートは思いっきり斬りかかるが当然のように片手であしらわれ、そして胸に穴が開いた。致命傷ではない。だが致命傷になる。


「ぐっ…!?」

「雑魚が」

「それはどうでしょう」


 そう言ってキトルの後ろに隠れていた占い屋が何かを投げつけた。


「ジューダス様特性、スキル保存弾」

「ほう、自らのスキルの能力を保存する弾か。面白いことを考えるものだな」


 だが、と魔王は両手を前に出し、そして弾は何かに当たったように落ちた。


「惜しいな」

「そんな…なんで…アンチマジックも施しておいたのに…!」

「空間断裂。空間の壁に当てて止めればどうということはない」


 占い屋の顔が驚愕に染まる。ユウコとオレはとっさに手を伸ばして占い屋をかばおうとするが、その前に占い屋の体ははじけ飛んだ。


「っあぁぁあぁぁあっぁぁぁああぁ!!!」


 オレは言葉にならない叫びをあげて魔王に殴りかかった、しかし魔王は体を避けてオレは無様に地面に転がった。


「いいことを思いついた」


 そう言って魔王はユウコの前に立つ。


「こいつの体をもらおう」

「なん…だと…!?」

「運命の人に殺されるというのは、なかなかロマンチックだろう?」


 そう言って魔王は難なくユウコのバリアを破り、そしてユウコの心臓めがけて右手を振り上げ―


 その右手は消え去った。


「……これは、やりすぎだね」


 普通の声量なのにその声はやけにその場に響いた。


 遅いんだよ…本当に…!


「セン…ごめん」


 占い屋に対して涙ぐんだ声で謝る。


「でも、きっと倒すから」


 エクスカリバーを両手に握り、憤怒の表情を浮かべた勇也がそこにいた。



 数分前、大道魔術を習得し、城に戻ってみると大騒動だった。なんでも俺がいない間に魔王に攻められたらしい。


「ユウヤ!」

「べリアちゃん!今どうなってるの!?」

「魔王が攻めてきて…それより、時間頂戴」

「そんな暇ないんだけど!」

「大切なことなの!」


 そう言ってべリアちゃんは俺の心臓に手を当てた。そしてそこからデュランダルを取り出す。そして、取り出したデュランダルを自分の胸にさした。


「ちょ!?」

「大丈夫、これは元々わたしだよ」


 そう言ってべリアちゃんは目を閉じた。


「覚悟決めるの、遅くなってゴメン。でもジューダスさんから受け取ったものを渡さないといけないから」

「ジューダスさんから?」


 デュランダルが少し光り、そしてべリアちゃんはデュランダルを俺に返した。


「これで大丈夫」

「何をしたの?」

「生命契約」

「生命契約?」


 何それ?


「今まではわたしの魔力を分け与えていたけど、これからはわたしの生命力を分け与えたの。それとジューダスさんの結果を組み合わせればきっと、最強の剣になる」

「生命力って!?それじゃ!」

「デュランダルが折れたらわたしも死ぬよ」


 そう言ってべリアちゃんは笑った。


「だから、わたしを守って。ギアトの約束を守って」


 べリアちゃんは笑ったまま、そこにいる。

 …いきなりすぎて分からないことだらけだけど、でもやることは一つだ。


 俺は戦場へと向かう。

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