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魔導書製造者  作者: 樹
エルフの戦争
15/258

父親

 集落の中央広場。そこで親子の決闘が行われようとしていた。


「んじゃ、とっとと始めるか」

「あぁ、頼む」

「ん。は、じ、めよ、う」

「じゃぁルール確認な。魔法禁止でどちらかが倒れて五秒たつか、気絶、もしくは降参で決着だ。いいな?」


 二人が頷く。

 審判である僕は右手を上げた。


「よーい」


 両者が剣を構える。


「スタート」


 僕の右手が下がりきる前に両者は走り出していた。お互いの剣がぶつかる。



 ネイスの家にある僕の寝室。そこには僕とおろおろしている土屋がいる。


「どうしよう!明日決闘だよ!」

「ずっとそれだな。落ち着けよ」

「落ち着けないよ!ていうかなんで本読んでるの!?」

「ここに本があるからだよ」

「そんな登山家っぽくいっても格好良くないよ!」


 格好いいだなんて思ってねぇよ。


「これはトーレイとネイスの問題だろ。僕たちがどうこう言う資格はねぇよ」

「でも親子で対決だよ!?武器ありだよ!?」


 本を閉じ、近くにあった薪で土屋の頭を軽く叩いた。土屋は頭を手でおさえて涙目で僕を見る。

 そんなに強く叩いてないけどな。


「ここは異世界であいつらはエルフだ。人間とは、異世界人の僕たちとは違うんだよ。それにあいつらの決定だ。あんまりとやかく言うと嫌われるぞ」

「うぅ……」


 土屋は何か言いたげだが僕は気にせず本を開いた。土屋も諦めたようで僕の隣に座る。


「何読んでるの?」

「エルフの民話」

「民話?なんで?」

「あの悪神について何か分かるかと思ってな」

「あぁ……」


 土屋は昼間の光景を思い出したのか身を震わせる。


「解析はできなかったんだな」

「うん……暗くて、黒いの。憎しみを詰め込んだ感じ……」

「ふぅん……」


 悪神の核は悪意だってことか。この民話にも生き物を苦しめ絶望に快楽を覚える神だって書いてあるし。肝心な正体は何も書いてないが……


「地球の神話になら当てはまるやつがいるんだけどな……」

「そうなの?」

「あぁ。まぁそいつかどうかは分かんないし、あんまりネイスに希望を持たせないほうがいい」

「そう、だよね……」


 土屋がうつむいた。こいつのことだろうから何とかしたいって思っているのだろうが、無理だと分かっているから何も言えないんだろう。


「もう寝るよ……今日は疲れちゃった」

「お休み」

「うん。お休み」


 土屋が部屋から出て行った。………僕ももう寝よう。



 翌日、昼。街の広場で戦っている二人を見て僕は両親のことを考えていた。

 僕の両親は僕を捨てた。だから僕は母親と買い物に行ったことも父親とけんかしたこともない。


「全く……妬けるな」


 本気のぶつかり合い。そんなことができるのは親子だけだろう。僕の両親じゃ、な。

 ……余計なことを思い出すべきじゃないか。


「安心しろよトーレイ。お前は十分父親だよ」


 僕のつぶやきは二人には聞こえていない。二人は自分の思いを乗せて剣をぶつかり合わせる。


「はあぁぁぁぁ!」

「い、け……!」


 決闘では魔法禁止なので二人とも汗だくになっている。


「ネイス!わたしはお前を育てると決めた!お前のために!わたしのために!お前の両親のためにもお前を危険に晒すわけにはいかない!」

「で、も!つよ、くな、った!しょ、うめ、い…す…る!」

 トーレイが剣を横凪に振るう。ネイスは身をかがめてそれを避けトーレイの懐に入り込む。


「お、わり!」

「甘い!」


 トーレイは身をかがめているネイスの顔面に掌底を叩き込んだ。ネイスは後ろに吹っ飛ぶ。


「甘いぞネイス!その程度で強くなったなどと言うか!」

「ま、だ!おわって、ない!」


 ネイスはふらふらと立ち上がり剣を構える。トーレイは容赦することなくネイスの鳩尾にパンチを放つ。


「ぐっ……!かっはぁ!」


 ネイスはその場に倒れこんだ。五秒以上立てなかったらこの決闘はトーレイの勝ちになる。


「いーち、にー、さーん、よー……」

「だい、じょ、うぶ……」


 ネイスは立ち上がった。痛々しいその姿に周りは何も言わない。


「わたしは、ネイスを倒す……今はそれしかないと思ている……」

「……ッ」

「だから、全力でいくぞ!」


 トーレイの猛攻は続く。しかしその目からはポロポロと涙をこぼしている。


「ネイス!わたしはそんなにダメか!?わたしはお前の父親になれないのか!?なんでこんなことしなくちゃいけないんだ!?」

「あ……」

「わたしは傷つけたくないんだ!」


 トーレイの叫びにネイスはうつむき、剣を落とした。トーレイも攻撃をやめた。


「こ、うさ、ん……」

「……わかった」


 僕は左手を上げる。つまり、トーレイの勝利だ。だが周りは何も言わない。何も言わず二人を見ている。


「ごめん……なさい……」


 ネイスはトーレイに抱き着いた。トーレイは涙をこぼしながらネイスを抱きしめる。


「ごめん……!父さん!」

「……!……あぁ!」


 ネイスは大声で泣いた。トーレイは優しく抱きしめる。

 その姿に惜しみない拍手が送られた。

いいですね父親。トーレイかっこいいですね。

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