新技
目が覚めたら白い天井、ではなくべリアちゃんの顔が目の前にあった。
「…なにしてるの?」
「……目覚めのキス?」
「それで起きるのは童話のお姫様だけだよ」
ゆっくりと顔を近づけていたべリアちゃんは愚痴を言いつつ顔を離す。俺は起き上がろうと体を起こそうとするが、全身に痛みを感じた挙句体に力が入らずぞのまま倒れた。
こ、これは…!?
「無理に起き上がろうとするな。体に障るぞ」
「ディスベルさん…すみません、こんな体勢で」
「気にするな。お前じゃなかったら死んでただろうしな」
フォールとの戦いでどうやら俺は気絶し、空から落下して悠子に受け止められここに運ばれ治療を受けたらしい。しかしHPが全く回復せず、とにかくダメージを与えないようにしておいてくれたらしい。
「フォールは、どうなった?」
「死にました…」
「そうか」
「でも闇核は俺の中に」
「―――――はぁ!?」
珍しくディスベルさんが驚きの声を上げる。
やっぱり驚くよね。うん。
「だ、大丈夫なのか!?」
「大丈夫ですよ。闇核と光核は対極に位置しているから融合して対消滅することはありません」
「いや…でも反発とかは」
「ないみたいですね」
「みたいですねって…お前、確証があって闇核を取り込んだのか?」
「まぁ、そうですね」
確証と言うほどではないが考えはあった。
「俺って、デュランダルに選ばれたし、エクスカリバーに選ばれたんですよ」
「それは勇者だからじゃないのか?」
「はい。だから闇核にも選ばれると思ったんです」
「………む、無茶苦茶な考え過ぎるだろ!??相手は闇核!魔王を魔王たらしめる代物だぞ!?」
「それは前世での話ですので。それに、これはジューダスさんが画策したことでもあるのでしょう?」
「…悠子から聞いたのか?」
「はい」
ジューダスさんがフォールに、と言うか闇核を利用してディスベルさんにアスルートさんを助けさせようとした。闇核の保持者は俺だけど闇核の能力を付与させることはできる。
「全部ジューダスさんの手の平の上ですよ」
「…敵わないなあ…」
ジューダスさんは天井を仰いだ。そしてため息を漏らす。
確かに敵わないよね…正直今でも信じられないよ。闇核にこんな使い方があっただなんて。
「イレギュラーだからこそでしること、か。確かに闇核にしかできないだろうが…」
「それを考えたジューダスさんって、本当にすごいですよね」
まぁ成功するかどうかは俺とディスベルさん次第だけど、きっと大丈夫だろう。ディスベルさんが決め、俺が手伝って、悠子やリュートさんが助けてくれる。みんなで戦えば勝てない戦いもないさ。
「一応ステータス見ておいたほうがいいんじゃない?ステータスになら異常状態が表示されるでしょ?」
「そうだね」
今まで黙っていたべリアちゃんが心配して声をかけてくれる。俺がいま置かれている状況を心配してくれたんだろう。
俺はべリアちゃんを安心させるためにステータスを開いた。
ユウヤ=ナギカワ
男 17歳 Lv 132
HP 950/3950
〈スキル〉
勇者 剣
……おかしいだろう!?なにこのレベル!?バグ!?バグなの!?
「どうした?」
「…レベルの表示にバグが…」
「バグって…ステータスにバグがあるわけないだろう。どうなってたんだ?
「………132レベル、だそうです」
「「 」」
誰かが口を開けて絶句した光景を久しぶりに見た。召喚された時の燈義くんの言葉を発した時の王様たちの反応のようだ。
まぁ確かに異常ではあるけど!でも反応してくれない!?
「………まぁ、元魔王の力を取り込んだらそうなるか」
「なるんですか!?これバグじゃないですよね!?闇核を取り込んだからバグったわけじゃないんですよね!?」
「…イレギュラーだからな。そういう事もありうるかもしれないが…」
それはとても困るんですけど!?
ディスベルさんにどうしようか聞こうと思った瞬間、俺は知らない場所にいた。そこは暗く、何もない空間。
「こ、ここは…」
「俺たちの居場所だよ」
そう言って俺の目の前に立っているのは、百年前の勇者、凪川勇也だった。
「な!?」
「落ち着いて。戦うつもりはないから」
勇者は両手を上げて不戦のポーズをとった。
それにしても…どうしてこんな場所に…いや予想はつくけど。
「とりあえず魔王打倒おもでとう。俺たちが思っていた結末とは違ったけど」
「そりゃフォールなら君たちの運命に抗うことぐらいするだろうね」
「あぁ、予想外だよ。まさか闇核が残るなんて。あれはどうやってでも破壊しなくちゃいけなかったのに」
「それじゃ俺ごと破壊する?」
「それができないから困ってるんだ。…ここに呼んだのはこれからについてだよ」
これから?
「レベルのことはどうでもいいんだ。どちらにせよ俺に届いてもらわなくちゃいけないんだから」
「レベル200までですか…」
「そうだ。まぁそこは君がどうにかするとして、闇核と光核についてだ」
「やっぱり危ないですか?」
「危ない。かなり危険」
勇者はため息をついた。
よくため息をつくな。
「闇核と光核は対極だ。だから反発する」
「あ、やっぱり?」
「あぁ、そうだ。だから新しい魔法を覚えてもらうことにした。これは君の固有魔法、俺ではなく君にしか使えない魔法だ」
俺にしか使えない魔法…?
「大道魔法。正当に呼ばれたお前にしか使えない魔法だ」