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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
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跡継

 ぼくの体が光に包まれる。


 あぁ、そうか。ぼくは押し負けたのか。あの光に、闇は負けたんだ。当たり前と言えば当たり前の展開に思わずほおが緩む。

 これで終われる。ようやくぼくの人生が、闇に包まれて操られていたぼくの人生が終わる。この光とともに、この幸福で暖かい光に包まれて終わる。


「あぁ…贅沢過ぎる…」


 思わず声をもらし、ぼくの体がなくなっていくのを自覚しつつ体の中からそれが出てきたのを確認する。

 闇核。ぼくの呪い。魔王を魔王たらしめる絶対要素。


 振り回されたなぁ。


「あーあ、やっぱり壊れなかったか」


 ぼくの目的は死ぬことで間違っていないけれど、創造主の目的は違う。創造主はぼくというイレギュラーに役割を与えた。完全消滅と言う役割を。どうも百年前の勇者たちはぼくという存在を許せないらしい。まぁそういう事をしてきたのだから当たり前だけど。


「さてと、闇核を壊せなくてどうするつもりなんだろうねぇ」


 ぼくはほくそ笑み、ため息を漏らす。

 これだけの力でも壊せないって、どんだけ頑丈なんだよ。引くわ。


「ま、ぼくには関係ないか」


 消える運命にあるのならそんなこと関係ないだろう。でも、もしぼくの目論んだ通りなら、彼がまだ貪欲に力を望むのならきっと手にするはずだ。

 ぼくの生きた証を、ぼくの最後のみっともない悪あがきの成果を。


「ハデス…」


 ぼくはハデスの最後の力を発動させ、消えた。



 もう一歩も動けず、俺は崩れゆく魔王城の床に倒れる。

 最後の一撃で全ての魔力、生存本能が残す魔力さえ使い果たした俺はその場に突っ伏したまま動けない。


「フォール…」


 最悪の罪人であり百年前の魔王、そして俺の師匠の名前を呟く。


 彼は死にたがっていて、そしてようやく死ねた。それはフォールの目論みどおりだろう。

 だが、俺はまだもう一つやることがある。フォールが目論んでいることを成し遂げなければいけない。


 俺は空気中から魔力を集め何とか立ち上がり、何度も倒れつつそれの傍に、黒く輝く闇核の傍にたどり着き、闇核を握りしめた。その瞬間に魔王城は崩れ去り、黒い球体すらもなくなって俺は空中に放り出された。いつの間にか雲の上まで上がっていた場所から俺は雲を突っ切って自由落下し、その間闇核を握り続けた。


 闇核の神髄である吸収、闇核の真骨頂である征服。そして闇核の存在意義である『破壊』


 俺の光核の神髄が放出、真骨頂が収束。そして存在意義は『創造』。


「やってみるしか、ないんだよね」


 小さくつぶやき「行きます」と切り替えのための言葉を言って俺は闇核を体の中に押し込んだ。


 その瞬間、ありえないほどの呪いが俺の体を蝕む。人々の悲嘆怠惰傲慢憤怒嫉妬恨み呪い、人の負の感情全てが俺の体を蝕む。


「あぁぁぁぁぁ!!!」


 よく声が出るな。というほど声をだし、俺は無理やり光核を起動させた。光核は闇核に対抗するように俺の体の中で対立する。

 これやばい死ぬ辛い逃げたいやり直したい休憩したいやめたい取り出したい!!!


「なんて、言ってられないんだよ!!!」


 自分の中の感情を大声で抑え込み、俺は荒い息のままさらに意識を集中させる。


「なんでお前が「憎い「苦しい「死にたくな「死ね死ね死ね「消えろ「助け「一人だ「みんないなくなれば「こんな世界なん「くだらない「生きている意味なんか「復讐を「絶望「逃げた「もう信じられ「人間は非力「どうして自分がこんな目に合わなければいけないんだ!!!」


「あぁ!本当にそう思うよ!」


 流れ込んでくる声に、俺は全力で同意した。


 いきなり呼ばれたと思ったら勇者になってしかも心配していた友人たちに再会した瞬間に否定され仲間も二人が闇落ちして二人も師匠を亡くした。


 どうして俺がこんなことをしなくちゃいけないかと、何度思ったことか。


「でも…それでも…!」


 俺の意識は薄れ、精神世界とでもいえる場所に飛ばされた。そこには闇核の核、黒く暗い塊がいた。そこから絶えず聞こえる呪怨に俺は叫ぶ。


「甘ったれるな!これが世界だろ!!」


 自分に言い聞かせるように叫ぶ。いや、言い聞かせているから叫ぶ。


「思い通りに行くことなんてなくて、理不尽で不条理で明確なルールもなければ正攻法もない!勝っていると思ったら負けていることなんて当たり前で仲間ができればいきなり一人になるし今までやってきたこと全部否定される!それが世界だろう!!?」


 呪怨の声に負けないように叫ぶ。

 心の限り、叫べ。同情して、理解しろ。


 否定だけは絶対にするな。これも俺と同じ、人間だ!!


「同情するよ一緒に嘆いてやるよ愚痴だって聞いてやるよ!だから前を向いてくれ!俺に前を向かせてくれ!」


 なんの変哲もない、ただ勇者と言う肩書を背負うと決めた俺だから、頭を下げてでも縋ろう。


「俺に、力を貸してくれ!」


 その瞬間、精神世界が爆発した。精神世界でも薄れゆく意識の中、俺はそれを見た。


「勇者よ、死んでしまうとは情けない」

「…フォール…」

「やぁユウヤくん。君なら真正面から受け止めてくれると信じていたよ」


 半透明のフォールが俺に笑いかける。


「ハデスの力を使った。君の魂はもうじき目を覚ますだろう」

「フォールは…」

「死んだよ。ナイト=フォールは死んだ」


 でも、とフォールは続ける。


「魔王は勇者となって生き続ける。不出来で面倒な肩書だけど、まぁ頑張ってね」

「あぁ、頑張るよ」


 涙が頬を伝う。フォールは消え、俺は生き返った。

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