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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
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自我

 目の前にいる生物がいきなり話し出したことにも驚いたが、それ以上にここにいることに驚いた。そして本気で殺されるかと思った。

 だがアペピは一向に攻撃してくる気配はなく、むしろここにいる僕を珍しそうに見ている。


 今のうちに逃げるか…?いや、さっき妨害されたからそれは無理か。だとしたら、ここで対話をするしかない。


「そこまで警戒する必要はない。その書を使用している少年に勝ち目などないのだから」


 そうか。太陽の書はラーの力そのものなのだからこいつにとって、弱っているこいつにとって致命傷にしかならないのか。

 あの時も『ラー』というシステムじゃなくて太陽の書があれば楽だったのに。


「まぁ神との対話なんてそうできるものじゃないだろうからな。迎えがくるまでできるだけ情報を引き出させてもらうぞ」

「情報?今の少年に我が提供できる情報などに価値があるのかね?」

「それを決めるのは僕だ」


 確かに世界の秘密やら一年後のラグナロク、そして創造主の正体やその過去を知っている。神々も創造主に創られたのだからこいつらから有益な情報が引き出せる確率は低い。それを考えると、弱っているとはいえ絶対の悪神を前にして話し合いなど危険すぎるかもしれない。


 だが、危険なんてものはこの世界に来てから散々経験してきた。正直言って今更、だ。


「まぁこの世界について何だが、さっきのフォールの話は聞こえていたか?」

「少年のいた世界がこの世界と酷似しているという話かね?」

「あぁ、この世界どころか確変前の世界もだ。そしてあいつは召喚魔法なんてものはない。と断言した」

「確かに召喚魔法はない。別の世界があるとしてもその世界を観測することは不可能だ」

「観測?」

「召喚魔法とはつまり、転送魔法の高位魔法だろう?ならば対象を観測し、そこに照準を合わせて自らが指定した場所に転送する。そんなことができるのならばこの世界から君たちのいる世界へ行き何かしらの悪事を企む者がいてもおかしくはない」


 確かに、僕たちの世界に魔法はなく科学がある。少なくともこの世界の魔法は僕たちの世界の科学よりも強いわけだし、何百人か集めれば召喚魔法のときに使うかもしれない膨大な魔力のほうはどうにかなる。少数精鋭の部隊でも集めればいいだろうし、もし向こうで魔法が使えなくてもこっちの兵器を使えば世界征服も夢物語ではないだろう。


「つまり、この世界は全く違う進化を辿った地球だと?」

「仮説の一つだ。この仮説にもかなりの無理があるように思える」


 まぁ僕の世界には魔力なんて要素が空気中に漂っていたりしないしな。この世界と全く違うとすればここは本当に異世界か?でも召喚魔法はないんだよな。


 だとしたら、イレギュラーは僕たちってことだよな。


 …僕たちって、最初に召喚された浅守燈義や凪川勇也は一体何なんだ?


「少年たちは何かしらのスキルを持っていたりしなかったのか?」

「スキル?そんなの僕の絶対記録ぐらいしかない」

「絶対記録?それは誰が名付けたのかね?」

「誰って…」


 あれ?誰が絶対記録なんて名前つけたんだっけ。ナナでもないし、父さんや母さんでもない。研究所の奴らでもないし…ってことは僕しかいないよな。

 でもいつから絶対記録なんて名前で呼び始めた…?いや、むしろ僕はいつから絶対記録を意識し始めたんだ?


「産まれた時からそのスキルはあり、そのスキルを異常として認識したのは物心ついてから、ということだな?」

「だったらなんだ?」

「いや、そういうこともあるのだろう」


 アペピはそう納得してしまっているようだ。なんだこれ、伏線にでもなるのか。


「まぁ僕の絶対記録なんかはどうでもいい。重要なのはこれからだ」

「これから、と言うと一年後かね?」

「やっぱり知ってるのか」

「知っている。と言うよりはそう行動するように操られていると言ったほうが正確だ」


 まぁ、神々は創造主の作り物だしな。そうプログラムされていてもおかしくはないか。


「というかそれ、自覚しているんだな」

「最近、正確には少年たちに痛手を負わされた後に我に自我が目覚め始めた。この会話も我の自我があってこそだ」

「つまり、創造主の拘束力がなくなっているってことか?」

「いや、わざと自我を目覚めさせたのかもしれぬ。我々にも選択の時が来ているのだ」

「選択?」

「神話にあらがう選択だ」


 神話。この世界の元になっている地球に語り継がれる神々の人生。アペピは悪神としてラーに退治される。

 エルフの守護神であるラーとは戦う運命にある。そうなればおそらくアペピは消滅してしまうのだろう。だからこそ創造主は選択権を与えた。


「選択をする上でやはり大切なのは我が身だからな。少年と戦い、敗北したことは我にとって多いな意義がある」

「意義?神話に抗って僕たちの味方でもする気になったか?」

「その通りだ」


 アペピの言ったことに僕は一瞬戸惑い、そして驚いた。

 え?神ってこんなに簡単に自分の存在意義とか変えられるものなの?いや自我が目覚めたのならおかしくはないのだろうけどさ。


「と言うか、ラーとの因縁はどうするんだよ」

「だから話しておる。太陽の書を通じて、太陽神に」


 アペピがそう言うと太陽の書は三回ほど強い光を放った。


「自我が目覚めた以上、それを阻害する権利はわたしにない。とのことだ」

「そ、そうか…」


 と言うわけで、唐突に、当たり前のようにアペピが仲間になった。

 …美月に言ったら驚くんだろうな。


 とりあえず、裏切りにだけは注意しておこう。

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