久遭
天碌山に入り、解析のスキルを使ってモンスターとエンカウントしないように道なき道を進んでいる。山には何度も登ったことはあるが、本気で遭難を心配したのは初めてだ。とは言っても解析のスキルのおかげで迷うことはないのだが。
むしろ燈義くんを見つけられるかどうかのほうが心配…
「もう登ってるのか降りてるのか分からないよぉ」
「だんだんと日の光もなくなってきましたね」
「そうだよねぇ…モンスターに出遭わないように心掛けてはいるけど、どうも心配だなぁ」
燈義くんたちが遭遇したというキリキリマイと言う魔獣はもっと奥で出現する魔獣だそうで、フェルちゃんによれば奥のほうで何か、もっと強力なモンスターが住み着いているのかもしれない、と。
それって魔物じゃないよね?と本気で不安になる。どうしよう、燈義くんのいる場所に魔物が立ちはだかっていたりしたら。
「それでミツキさん、どうですか?」
「ここらへんにモンスターはいないみたいだけど…」
「おかしいですね」
「おかしい?何が?」
「この山は魔獣が大量に生息しており、故に豊富な資源があっても誰も近づかない場所です。そんな場所なのに魔物どころか魔獣すらいないなんて」
確かに、ここにはレベル30前後の魔獣が沢山いて、だから悪神の時にここに来られなかったんだ。そんな危険な場所なのに全く魔獣がいないのはおかしいかもしれない。
「この山で異変が起きてる、ってこと?」
「分かりません。偶然と言う可能性も捨てきれませんが、準備はしておいたほうがいいでしょう」
何の準備かは、聞くまでもない。もしかしたら大規模な戦闘になるのかもしれない。
こういう時に燈義くんがいると頼もしいんだけど…私じゃ出遭わないように針路をそれることしかできないからなぁ。
「お悩みですか?」
「ううん。そんなことないよ」
燈義くんやフェルちゃんをうらやましく思っても仕方がない。私は私にしかできないと事をすればいいんだから。
「とはいっても、あれだけの部隊が姿を消すなんて…何があったんだろうね」
「考えられるのはやはりリマスターですね」
「でもキトルさんは味方だよ?それに、この鍵」
キトルさんから受け取った鍵を取り出す。
「何の鍵かなぁ」
全く何の説明もされないまま渡された鍵を見て私はため息をつく。何か重要なものではあるんだろうけど、何の鍵かわからないんじゃ使いようがない。
「これ自体に何か仕掛けがあるとかじゃないし…」
鍵は一通り調べ終えた。そして本当に仕掛けも何もなく、普通の鍵だった。
「やっぱり燈義くんを頼るしかないのかなぁ」
「頼るためにも、早く見つけなくてはいけませんね」
「うん」
そして私はフェルちゃんと一緒に道なき道を進んでいく。
それにしても、あの時の燈義くん、優しかったなぁ。
崖の下からは上の様子が分からない。美月がどれだけで僕を見つけてくれるのかも想像すらつかない。
フォールと話し終えた僕は、とりあえず脱出手段がないか探ってみることにした。ここはなぜか魔法が使えない。崖を登っていくのも無理そうだ。そして階段らしき物もない。
唯一あるのは、あの世界へと繋がっていた扉のみ。
「これ開くのかなぁ…」
試しにもう一度扉を押してみると、開いた。しかしその先の光景は前回同様ではなく、同じような空間が広がっていた。どうやらこの扉、壁を貫通してつながっているらしい。僕はその先へと行ってみた。
「つーか、暗いなここ」
さっきも太陽がほぼ届かない場所だったが、なんとか周りを確認できるくらいの光はあった。でもこの空間はほとんど先が見えない。まるで闇に覆われているようだ。
「何があるんだ?」
心なしか、空気重く感じられる。警戒しつつ進んでいると、急に頭が割れるかと思うくらいの不快な音が聞こえてきた。
う、うるさい…!脳が揺れる…!
ふらふらとしていると、その音はやみ静かになった。
「なんだったんだ…」
一旦落ち着こう。
こみあげてくる吐き気を何とか抑えつつ荒い息を整え、先に進む。ここに何かいるのは間違いない。
「一寸先は闇みたいな状況をさまよい歩くのは危険か…?」
一応、扉に目印をつけておいた。だから警戒していれば迷うことはないんだろうけど…
「って」
何かにつまずいてこけた。何かと光を当ててみると、巨大な鱗だった。しかも蠢いている。
…冗談だろ?
僕は急いでその鱗の先、自分の上空に光を当てる。
そこには―――
「あ…!」
絶望が、そこにいた。
「アペピ!?」
急いで逃げようとするもアペピの体によって阻まれてしまう。何とか脱出しようと太陽の書やら天蛇の書を取り出して、一縷の望みをかけて魔法を唱え―――
「少年、か」
ようとしたところで、アペピに話しかけられた。
…どういう状況だこれは、話が通じるのか!?
「アペピ、だよな」
「いかにも、エルフの悪神である」
アペピは尊大に、威厳のある声でそう言った。