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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
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存在

 翌朝、やけに嬉しそうなフォールと特訓しつつ俺は別のことを試そうとしていた。それは、光核による地殻変動。光核はこの世界を形成する魔力の一部を体内に取り込むことができ、それによって俺の魔力が無限になる。それを行うには光核からこの世界の大地に魔力を流し、俺と世界をつなぐ道を創らなくてはいけないのだが、その過程でこの世界の魔力を操作できないかと考えている。

 そうすれば特定の場所の地形を変えることも可能なはずだ。


「雑念が入ってるよ」

「そう言うフォールは楽しそうだね」

「まぁね」


 フォールは上機嫌で黒々を振るう。時には鼻歌を歌いながら黒々を振るっているので俺がどれだけ未熟か思い知らされる。


「ッ!」

「お?」


 一瞬だけ、フォールの足元を揺らすことができた。しかしフォールの足止めをすることはできず、むしろ俺の体が悲鳴を上げ始めた。


「あぁ!」


 抑えきれなくなり、全力で魔力を放出する。特大のホーリーバーストがフォールを飲み込み、ついでに地面をかなり削って消えた。幸い攻撃方向には誰もおらず、街もないので植えてあった木々をなぎ倒す程度で済んだ。


「フォール…?」

「こ、これは…」


 フォールは相変わらずそこに立っていたものの額には冷や汗をかき黒々は無くなっている。そして所々煙を立てて回復を始めている。

 そして一番変わっているのは、地面に染み込んでいる大量の血液。


「最初の地震は意図してやったことみたいだけど…今のは副作用ってところか」

「フォール…大丈夫?」

「大丈夫…と言いたいけどこれは結構やばいね。光魔法の弱点が闇魔法であるように闇魔法の弱点は光魔法だ。最終的には力の差になるんだけど…今回はぼくの回復力がカバーしきれなかったみたい」

「えっと…つまり?」

「そろそろ頃合いだね」


 そう言ってフォールはにやりと笑った。

 あ、まずい。フォールのこういう笑顔は本当に不味い。


「さてと…それじゃぁ始めるとしよう」

「始めるって…」

「ぼくは魔王となる」


 フォールの言っていることは分からなかったがこの笑顔の時は、この無邪気な笑顔の時は本気で危ないと俺の本能が告げる。無理やり体を動かし全魔力を修通して攻撃する。しかしその攻撃はあっさりと撃ち落とされた。


「第三勢力、旧魔王、冥府の王。今のぼくを現すとしたらこんな感じかな?」

「今、聞き流しちゃいけない肩書があったんだけど」

「君がハデスを斬ったとき、ハデスの一部をぼくの中に吸収した」


 みるみる内にフォールの髪の毛が白くなり、右目の白目の部分は黒く、黒目の部分は赤くなる。両手に呪文のようなものが浮かびフォールは口を愉快そうに歪めた。


「闇核の神髄は吸収、しかし真骨頂は征服。ぼくに操れない力はこの世に一つ以外ない」


 そう宣言したフォールは俺を指さした。


「勇者。ぼくの敵。ぼくの対極。ようやくここまで来てくれた。ようやく主人公としてふさわしくなった」

「何を言って…」


「この世界の救世主は魔導書製造者なんてイレギュラーじゃなくて、勇者という王道なんだよ」


 つまり…


「ぼくを倒して世界を救え。それが勇者の役目だろう?」

「あぁその通りだよ!」


 俺は叫び、いつか来るであろう現実を直視する。悠子が考察したように、ディスベルさんが注視していたように、そして百年前の俺たちが警告した通りにフォールは再び俺たちの前に立ちはだかった。


「早く来なよ?面白いことしてあげたから」

「余計なお世話だよ」


 フォールは消え、俺はため息をついた。

 不味いなぁ…あれは本気だよ。ハデスの力を取り込んで、行使して、俺を全力で倒しに来る気だよあの魔王。


「面倒なことになってもうたね」

「…悠子、動いて大丈夫?」

「人の心配してる場合?これ、かなりヤバいんやないの?」


 悠子はそう言って空を指さす。空にはホーメウスを覆うほどの巨大な魔法陣が出現した。

 あれは見覚えがある。ハデスの時の魔法陣だ。あれで何をするつもりなのか…想像に難くない。


「それで、どうするん?あからさまに誘ってるんやけど」

「乗るしかないでしょ?」

「分かっとると思うけど、今のフォールと闘うってことは―」

「フォールを殺すことになる。分かってるよ」


 と言うか、散々引っ張っておいて結局フォールの狙いはこれなのだ。創造主に一矢報いるために俺に殺されようとしている。

 つまり、今の俺ならフォールに勝てると判断されたのか…嬉しいことはうれしいけど…複雑な気持ちだなぁ。


「この事態を創造主が放っておくと思う?」

「手出しをするならもっと早い段階でしてるはずだよ。でもフォールがこんなことを起こしているんだから、多分介入はしないはず」


 もしかしたらもう戦っていたのかもしれない。あの黒い球体の中で、百年前に劣らない激闘を繰り広げていたのかもしれない。


「ま、俺は勇者だからね。勇者らしく戦い抜くよ」

「は~、かっこいいね」

「悠子やディスベルさんにばかりかっこいいところ取られているわけにはいかないからね」


 そう言って俺は笑い、上空に浮かぶ黒い球体を見る。

 迷いはない。こうなることは予想していた。だから、全部ぶつけよう。


 きっとそれが、フォールの救いになるのだから。

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