真偽
敵の数が増えている。土でできたゴーレムらしき新種族は私達めがけて進撃を始めている。
しっかりスキルまで使ってくるし!魔法だけでも面倒なのに!いくら飛んでくるほうが分かっても対処しきれないよ!
「フェルちゃん!大丈夫!?」
「少し…いえ、かなり危ないですね…」
フェルちゃんの息が上がっている。もう三十分くらい休まずに戦い続けている。さすがに体力的にも魔力的にも限界だし…というか、太陽が暑い!
「ミツキさん!」
「あ―ッ」
この世界に来て幾度となく思った死の直感。しかし、その度に彼が、現れてくれることを知っている。
だから、今回も―
「燈義くーーーーん!」
「うるせーーー!」
あの時のような、あの空間で叫んだ時と同じ返事が空から降ってきた。
私が上空を見上げると同時に目の前のゴーレムが崩れ去った。
「毎度毎度うるさいんだよお前」
「だってぇ…」
「泣くな」
燈義くんが無造作に私の頭をなでる。涙をこぼしつつ私は燈義くんが本物であるかと確かめる。
「ベタベタ触るな」
「本物!」
「当たり前だ」
そう言って燈義くんは私から手を離し、目の前の敵と向き合う。しかし砂のゴーレムはどんどんと崩れ去った。今まで圧倒的な数に苦戦していたのに今はもう十数体ほどしかいない。
「ま、元が砂ならこんなもんだろ」
「これ、どうやったの?」
「新しい魔導書の力を使った。実験もできて丁度良かった」
そう言って燈義くんは新しい魔導書、太陽の書を取り出した。
そう言えばさっきから妙に暑いと思ってたけど、これのせいか。
「砂なら干上がらせればまとまっていられなくなるからな。新種族って言っても初期のころは所詮、この程度だな」
「そ、そうなんだ…」
「まぁ結局は相性の問題だがな…美月。敵は今どこにいる?」
「えっと…ここの周辺にはいないみたい」
そうか。と燈義くんは呟いて太陽の書をしまった。
そして私とフェルちゃんのほうを向いて言った。
「悪い。これは残滓なんだ。だからこれで消えるけど…早く見つけてくれるとありがたい」
「うん。分かった」
私はしっかりと返事を返し、燈義くんの残滓は風に乗って消えた。
「フェルちゃん、燈義くんには私が必要なんだよね」
「そのようですね…行きましょうか」
「うん!」
そうして私が一歩を踏み出そうとすると、目の前にキトルさんがいた。
まさか…邪魔をするつもりじゃ…!
「ま、とりあえずお疲れ様。予想以上に粘ったね」
「…何かご用でしょうか?」
「うん。ミツキちゃんとフェルちゃんはトーギくんを探しに行くんだよね」
「そうです」
「あぁ、止めはしないよ。渡したいものがあるだけ」
そう言ってキトルさんが渡したのは一本の鍵だ。金色の輝くその鍵を受け取るとキトルさんはいなくなっていた。
「重要なものなんだよね…」
私は鍵を無くさないようにしまい、天碌山に入った。
目を開けると目の前に大きな扉があり、それを開けるとあの落ちた場所に出た。
戻ってこられたみたいだな。
「さてと…ミツキならここを見つけるだろうし。それまでどうしようか」
「じゃぁ、話に付き合ってよ」
そう言って現れたのはニヤニヤと笑う少年だった。
「誰だ」
「ぼくはナイト=フォール。この世界のイレギュラー。今はユウヤくんの師匠かな?」
「凪川の…何しに来た」
「同じくイレギュラーな君とお話をしに来たんだよ。確変前からイレギュラーな君とね。確変前は話す間もなく殺されちゃったから」
「…お前、前の世界の…」
「いきなり殺しにかからないなんてさすがだね。ユウヤくんは思いっきり殺しに来たけど」
「ま、あいつなら殺しにかかるだろうが…」
その光景が目に浮かぶ。そして返り討ちにでもあったか。
「それで、僕が前の世界のイレギュラーなら、そのイレギュラーが起きた理由もお前は知っているのか?」
「勿論…と言いたいところだけど実は全く知らないんだよねぇ。というか召喚魔法自体、あの世界にはなかったはずなんだけど」
「召喚魔法がなかった…?でもここは異世界だろ?」
「君のいる世界とは違うみたいだけどここには君が生きられるだけの環境があって、君の食べられる食料がある。そして君と同じ種族がいる。これだけの条件がそろっている世界を異世界ファンタジーだけで片付けるのかい?」
異世界ファンタジーって…いや間違っているわけじゃないんだろうけどこいつの言い方、なんか引っかかるな。
「つまり、ここは地球だとでも言いたいのか?」
「そんなわけないじゃん。地球には魔法があるのかい?」
ないよな。
しかし、フォールのこの態度…何か知っているようだが…今はまだわからない。というかヒントは充分にあるが僕の思考が追いつけないだけか。
「地球、だっけ?君のいた世界。あの世界はかなり不味いことになってるみたいだよ?」
「どういうことだ…」
「さぁ?どういう事だろうねぇ」
フォールは面白そうににやにやと笑っている。
こいつの言う事を信じる根拠はないが…それでも気になってしまうのは否定できるだけの材料がないからだ。実際、あの本で僕は召喚魔法の恐ろしさを知っている。そのためのラグナロクだと思っていた。
まさか、もう予兆が始まっているのか?
「信じるか信じないかはあなたしだーい」
そう言ってフォールは消えた。
…見事に引っ掻き回されたな。面倒なことになりそうだ。