問題
いきなりあの空間に引きずり込まれ、美月に叫び返したところで空間からはじき出された。
ナナと美月か…僕はどうすればいいんだろうか。
「あの声の子、燈義くんの恋人?」
「まぁ、な」
「そっか」
そう言って、ナナは笑った。
「だったら、絶対帰らなくちゃね」
「…そう、だな…」
僕は小さな声で、遅まきに返事をした。
結局僕は決めかねている。きっと事件を解決したら美月とナナが消えることはなく、そして僕があの世界に行くこともなくなるのだろう。そして僕はこの世界で、生きる。
僕はきっとナナを好きになり、博文と静乃のいる『家族』というものにも慣れるんだろう。
そして僕だけが満たされる。
…かっこ悪いな僕は。多分、凪川ならこので間違いなくあの世界に戻ると宣言し、実行するだろう。…いや、凪川だけじゃなく美月も谷川も帰るというだろう。
ま、そうやって言えない僕だからこの状況に巻き込まれているのだろうが。
「はぁ…」
「どうしたの?」
「なんつーか…情けないんだよ」
「情けない?燈義くんが?」
「あぁ…守ろうって思ったのに、迷ってやがるからな。僕は」
やはり、そうなのだ。偉そうなことを言っておいて僕自身があの世界に馴染めていなかった。というか、馴染めないようになっていた。
殺し合いの世界よりも何もない地球のほうがいい。
「あはは、燈義くんも悩むんだね」
「そりゃ、人間だからな」
人間は誰でも悩むし、考える。なにせ創造主だってそうなのだ。
悩んで生きる。
「燈義くん、かっこ悪ーい」
「…うるさい」
「でも、それも仕方ないことだと思うよ?」
ナナはそう言って笑った。
敵わないよなぁ…やっぱり。
「なぁ、ナナ」
「ん?」
「お前は僕と会えてうれしかったか?」
「嬉しいよ。……ねぇ」
「…なんだ?」
なぜだか僕にはナナの言えることが分かる気がした。
「好きです。って言ったら、付き合ってくれる?」
「……まぁ、無理だろうな」
たっぷり時間を空けて、真剣に返事を返した。
無理。と言うのが僕の答えで、僕の悩んでいる過程で出た結果だった。
美月という存在がいる限り、ナナとは付き合えない。今は、まだ。
「…ストーカーの問題、解決しに行くぞ」
「へ…?で、でも…」
「大丈夫だ。今度は見捨てない」
そう言って僕たちはナナの悩みの原因に向き合うことにした。
人は悩みを抱えて生きる。そしてその悩みを取り除けるのは友達や家族や、恋人だけ。
つまるところ、僕は人間関係初心者なのだ。ここは積極的に人間関係を強化していくしかない。
そして、僕たちはナナの家に帰ってきていた。家はどこも壊れておらず、あの部屋の扉も直っていた。それを確認して僕はリビングで待っていた。
さてと、元凶を潰そうか。
ガチャリと玄関が開く音がして誰かが帰ってきた。誰か、と言っても一人しかいないだろう。そいつはリビングに来て、僕を確認すると、明確な憎しみの目線を僕に向けた。
「久しぶりだな。三谷幸子」
「浅守、燈義ぃ…!」
三谷幸子。僕のせいで人生を狂わされたらしい人間だった。
三谷幸子の豪遊は調べただけでもかなり出てきた。それは研究所の手当てがあったからで、ナナが追い出されて手当てもなくなり、今は研究所から払われた最後の手当てを頼りに生きているらしい。つまり、僕が知っている静乃のような人だ。
「どうしてお前がここにいるの!」
「こいつに呼ばれてな。どうも面倒なことに巻き込まれているらしい」
僕がそう言うと幸子はナナを睨む。ナナは僕の後ろに隠れて僕の服を握っている。
「そこまで金が欲しいかよ」
「何のことかしら?」
なるべく平静を装って幸子が答える。僕はため息をついて「演技が下手だな」と言った。
もっとちゃんとした演技をしろ。
「ナナが被害を受けているストーカーの正体、それは研究所の奴らだな」
僕がそう言うと幸子は舌打ちをし、ナナは驚きの表情をする。
研究所と言うのはまだ存在しており、今でも人々に知られることなく研究を進めている。
幸子はまた、ナナを研究所に渡そうとしたのだ。
「呆れたものだな。自分の子供を売るなんて」
「売るなんて…あなたが一番よく知っているでしょう?あそこは合法的に研究を進めているわ」
幸子の言った通り、研究所は合法的に運営されている。万が一世間にばれても犯罪に引っかかることだけはない。
親の同意を受けて研究所に入れられる。いわば全寮制の学校のようなものだ。
「子供のことを考えろ、なんて言ったって無駄だろうな。お前みたいな屑には」
「屑?それはあなたでしょう!あなたのせいで何人が不幸になったか!」
「何人も不幸になってない。お前くらいだ」
不幸になる人間は子供のことを考えず豪遊におぼれた人間だけだ。ほとんどの奴は休日に子供と遊ぶために金を使っていた。
休日でも研究所に残っていたのは僕とナナだけだ。
「そしてストレス発散でナナを監禁か…救いようがないな」
「黙りなさい。その子は研究所に入れられる。これは決定事項よ。来週には迎えがくるの」
「来ないよ」
僕はそう言った。幸子は目を見開いて僕を見る。
さっきも言った通り、研究所は合法的な場所だ。親の同意と、勿論本人の同意も必要だ。そしてそれが脅迫されて同意をしたのなら、研究所は受け入れない。
「研究所には連絡済だ。ナナじゃなくて、お前が失せろ」
僕がそう言うと、外に警察が到着した。研究所の奴らの計らいだろう。あいつらの力を借りるのは癪だが仕方がない。
さて、ナナの問題は終わった。次は僕の問題だ。