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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
134/258

裏裏

 穴がなくなり、ついでに部屋の血も消えていた。俺は荒い息を吐きつつ膝をつく。顔を上げて様子を確認しようとしても目の焦点が合わない。


「ぁ、ぁぁ…」

「ぅぅぅ…」


 二人の苦しそうな声が聞こえる。立ち上がろうと足に力を入れようとしてもどうしてもうまくいかずその場に倒れてしまう。


「無茶しちゃダメだよ」


 フォールの声が聞こえ、光が見えた。その光の中心にいる悠子とディスベルさんだ。光がなくなったとき、うめき声は聞こえなくなっていた。どうやらフォールが治療をしてくれたらしい。

 なら俺は自分のことに集中しよう。


 俺の場合は外傷ではなく魔力不足と体力不足が同時に起きている。体力は魔法で何とか回復できるから魔力の回復を…


 俺は何とか残った魔力で空気中に霧散した魔力を集め体の中に溜め込み、体力を回復させる。

 な、なんとか立ち上がれるくらいには回復した…


「悠子…!ディスベルさん!」

「おや、自力で回復したんだ。偉いね」

「二人は!?」

「無事…だと思うよ?」


 そう言ってフォールは倒れている二人を見る。俺は二人に近づいて、絶句した。


「こ、これ…!」

「死んでないよ。そして止血も完璧」


 どやぁ!とフォールが胸を張る。しかし俺はフォールを気にすることなく二人の名前を呼ぶ。


「悠子!ディスベルさん!」

「う、うるせぇ…耳元で叫ぶな…」


 ディスベルさんが薄らと目を開けて俺に文句を言う。しかし息は荒く、自分の体の異常を確認して苦笑いをこぼす。


「この程度で済んだのか…さすがだな…」

「この程度って…!」

「いいんだよ…十中八九死ぬ予定だったんだ…オレたちは前線で戦うわけじゃないからな…支障はねぇよ…」


 ディスベルさんは強がっているものの息は途切れ途切れで汗もすごい。早く医務室に運ばないと!


「医務室よりこいつ起こすほうがいいぞ」


 そう言ってフォールは闇核で悠子の体を突き刺した。悠子は少し体をはねさせて「か、はぁ」と久しぶりに息をしたように呼吸をした。そして目を開けて自分の体の異常を確認し、顔をゆがめる。オレは何か言葉をかけようと思ったが悠子はそれよりも先に杖を取り、上級広域回復魔法『オールリフレイン』を発動させる。

 そして俺たちの体力は完全に回復し、ようやく一息ついた。とはいえ俺はまだ焦ったままで二人を壁を背に座らせる。


「はは…さすがにこれは応えるなぁ」


 悠子が渇いた笑いをこぼす。ディスベルさんも「そうだな…」と小声で言った。やはり強がりだったのだろう。

 それに、誰だって応えるはずだ。


 自分の右腕が肩からなくなってしまっているのだから。


「大丈夫…なんだよね?」

「傷は塞がっているよ。というかあれだけの体験して片腕なら安いもんじゃない?」

「そうやね」


 悠子は無くなった右手を見てため息をつく。


「ま、それ以上のこともあったけど…やっぱりジューダスさんの言った通りやね」

「そうみたいだな」

「言った通り?一体どういう…」

「見てろ」


 そう言うとディスベルさんは自分の太ももを傷つけた。切り傷から血がにじむ。すると悠子のほうが少し声を上げた。


「これって…」


 悠子の太ももにも全く同じ傷ができている。そして悠子が傷を治すとディスベルさんの傷も消えた。


「この世界には魂があるんよ」


 悠子が説明を始める。


「この世界でも確変前の世界でも『魂』はあったし『死』もあったんよ。その構造だけはいじることができんかった。そして冥府と現世の境目は半分確変の影響を受けて半分は確変の影響を受けんかった。だから今の魂は狭間を漂い続けるんよ。そして今回現れた死者たちは半分現世におる、つまりこの世界で死んだ人たちなんよ」


 確かに、ギアトさんは俺のことを知っているようだったし、俺を救ってくれた。冥府から現世に来ることはできなくても狭間からなら可能なのか…


「そして、ハデスをこっちに引きずり出したことによって冥府と狭間を瞬間的に繋げた。今頃そとでは死者たちが冥府に帰ってるはずやよ」

「じゃぁ、今回はそのための?」

「まぁそれもあるんやけど……勇也、クリューくんは傀儡なんよ」

「傀儡…?」

「そう。そしてこの事件の本当の結末は「あ、来た」


 悠子の声にフォールの声がかぶさる。フォールは入口を見ている。俺もそこを見ていると、センが立っていた。

 センは一礼して部屋に入ってくる。


「報告します」


 そう言ってセンはディスベルさんの目をまっすぐ見て言った。


「死者の全消滅を確認。兵士たちの退却を開始。そして、ジューダス様の死亡を確認いたしました」


 …へ?


「そうか…アスルートは?」


 ディスベルさんが何かにすがるように、涙をこらえるように質問する。


「我々を反逆者と断じ、宣戦布告をして去りました」


 しかしセンの答えは残酷で、ありのままを伝えた。俺は理解できずにいるとディスベルは「そうか…」と言って立ち上がり、悠子も立ち上がった。片腕がなくなっているのでバランスが取れずお互いに支えあって歩き出す。俺も手を貸しつつ質問をする。


「なんでジューダスさんが!?」

「あいつ…オレたちを裏切ってなんてなかったんだよ」

「そ、それってどういう…」

「オレ達を裏切ったのは、オレ達にこの状況を敷いたのはジューダスでも、クリューでも、そしてアスルートでもない」


 ディスベルさんは恨めしそうに言った。


「初代魔王、百年前にこの国を創った人物、ギュルーズだ」


 しょ、初代魔王!?と声を上げたくなる。


「だからあいつはアスルートを連れ出したんだよクソッタレ!」


 ディスベルさんは叫び、その叫びは地下牢中に木霊した。

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