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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
133/258

泣言

 リマスターで戦闘の痕跡を消したキトルさんはどこかに行ってしまった。戦いの痕跡も、野次馬の記憶もなくなり恵梨香さんも美鈴ちゃんがいなくなったと同時にいなくなり、狐フェルちゃんもいなくなった。


 本当にイレギュラーだったんだなぁ…助かったけど。


「お疲れ、フェルちゃん」

「お疲れさまです。ミツキさん」


 フェルちゃんと私は互いに互いを褒めあい、そこに腰を下ろす。スキルを使いすぎて辛い。フェルちゃんも結構疲れているようだ。

 手も足も出なかったってわけじゃないけど…勝てはしなかったよね。


「強く、なってたね」

「そうですね…今のままでは勝てませんね」

「フェルちゃんはきっと強くなるよ。でも私は、どうやって強くなればいいか分からないよ」


 攻撃タイプのスキルじゃないから工夫の範囲も結構狭い。見て、聞いて、嗅いで、触れてそれを解析するだけのスキル。たったそれだけで、初心の書が扱えるけど、やっぱり初心者なんだよねぇ…


「ねぇフェルちゃん、私はたまたま燈義くんと相性がいいスキルだったんだけどさ、でも燈義くん、私がいなくても強くなっていたんだと思うんだ。きっと」


 私の言葉にフェルちゃんは何も答えない。そんなフェルちゃんの態度に安心しつつ私は胸の内を暴露した。


「結局、私って必要なのかなぁ…」

「必要ですよ。今だってミツキさんがいなければ死んでいました」

「ううん。死んでないよ。あれはイレギュラー。実際フェルちゃんはあの人たちじゃなかったら気づいてたでしょ?」

「そんなこと……ありますね」


 フェルちゃんは少し考えたものの認めてくれた。

 よかった。今ので「ない」って言われたら余計へこむところだったなぁ。やっぱりフェルちゃんは主思いなんだね。


「燈義くんは…どんどん強くなって…でも私は…全然で…!」


 私の目から涙がこぼれる。自分の情けなさが恨めしい。

 今だってキトルさんと狐フェルちゃんがいなかったら死んでたし、他の人でもフェルちゃんが闘って、勝っていたんだと思う。


「私……必要かなぁ……!」


 必要ないんじゃないか。という考えが頭を埋め尽くす。今だって燈義くんを助けに行けず、ずっと助けられてばかりなのに…!


「ミツキさんは、優しいですね」


 フェルちゃんが諭すように言った。

 よく言われるなぁ…


「助けられますよ。いえ、ミツキさんでしか助けられません」

「どういうこと…?」

「ミツキさんのスキルなら、トーギさんを見つけられますし、ミツキさんのスキルでしかトーギさんを助けられません」


 フェルちゃんはそう言って私の肩を掴んだ。


「サポートは任せてください。キトルの言っていた『同調』を利用すれば何とかなるはずです」

「同調…」


 そう呟いた瞬間、パン!と耳元で音がして景色が霧に包まれた。私とフェルちゃんは驚いて立ち上がり、私は立ち上がることに失敗して転んだ。


「って!」

「ミ、ミツキさん!」


 さすがに今回は隠しきれなかったらしい。前回は腕だったからよかったものの今回は右足。右足の太ももから先がなくなっている。痛みはない。まるで最初からなかったかのように、消えていた。


「あげないよ!」


 私は叫び、右足に意識を集中させる。すると右足が回復し、まだ半透明なものの何とか立ち上がった。

 そしてスキルを発動させ、辺りを見回す。


 …いた。やっぱり彼は事件のど真ん中にいるんだ。


「フェルちゃん、耳をふさいで」

「あ…はい」


 状況についていけず混乱していてもフェルちゃんは私の言葉にしてがって耳をふさいでくれた。私は初心の書の中にある魔法を発動させる。


「負けてたまるかーーー!!」


 私の宣言のような言葉が叫鳴によって強化され空間に響く。


「うるせーーー!」


 すると霧に包まれた向こう側から返事が返ってきた。その声は少し嬉しそうに聞えた。

 今は、弱気になるときじゃない!


 そうだよね、燈義くん!


 再びパン!と音がして景色が元に戻った。足もちゃんとある。

 しかし、眼前に広がっている景色は全て元通りというわけではなかった。


「…これは…」


 思わず絶句してしまう。

 こ、これはさすがにおかしいと思うんだけど…!?


「砂のゴーレム…いえ、新種族!?」


 フェルちゃんが自分で導き出した可能性を口にして絶句する。

 まるでキトルさんのスキルと同じ…だから死んだ土じゃダメだったんだ!


「リマスターと同じスキルだよ!フェルちゃん構えて!」

「はい!」


 全部で百体以上いるゴーレムを相手に私は冷や汗を流す。

 ま、負けてたまるかーー!



 キトルは創造主と一緒に新種族に囲まれているフェルとミツキを身を前に乗り出す。


「助けにいくなよ」

「……分かってるよ」

「優しすぎるんだよ。お前」


 創造主に言われてキトルは舌打ちをする。

 助けに行きたいなぁ!いきなり新種族と闘うとか鬼畜すぎない!?


「お前、本当に凪川と同じだな」

「ユウヤほどではないけど…」


 そうでもないだろ。と思いつつ創造主は美月とフェルを見る。

 勝てよ。お前のスキルこそが戦争の切り札になるんだから。

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