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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
132/258

収束

 俺が目を覚ますとあの血だらけの地下牢にいた。

 えっと…何が起きたの?今まで俺は戦場にいたはずなんだけど。


「よぉ、勇者様、気分はどうだ?」

「説明を要求するけど?」

「安心しろ。お前がやるべきは一つ、ハデスを斬れ」


 ディスベルさんの言っていることが分からなかった。斬るのはいいがどうやって呼び出すつもりだろう。それに斬っても意味ないんじゃないか?


「ま、斬るのはハデス自身じゃなくてハデスが繋いでいる契約だよ」

「契約?」

「そう。契約には穴が必要だ。現世と冥府をつなぐ穴。そしてその穴をつないでいる契約者の証。それを斬れば穴は塞がり連中は現世にいられなくなる。この茶番劇は終わる」

「そう…」


 俺は天井を仰ぐ。いやまぁ、茶番劇だとか言ってるフォールの言葉を否定するべきなんだろうけど、まぁこの際はどうでもいいか。この戦争が終わるのなら。


「ま、それは君たち次第だけどね」

「大丈夫…成功させる」


 俺は力ずよく宣言した。そうするとフォールはにっこりと、本当に嬉しそうに笑った。

 その向こうでは悠子とディスベルさんが何か話している。


「怖い?」

「怖い。つか今からでもやめたいんだけど」

「無理やよ。これしか方法はないんやから」

「分かってるよ…ま、ユウコと一緒ならそれもいいか」


 ?何を話しているのだろう。疑問に思っていると悠子が俺のほうに寄ってきた。


「勇也、先に謝っとくね。ゴメン」

「どうして謝るのさ。悠子が謝ることなんて一つも―」

「これからあるんよ」


 そう言って悠子はにっこりと、笑った。

 ……何だろう。この笑顔、どっかで見たことあるような…

 俺の中の何かが、多分直感が大音量でアラームを鳴らす。これはダメだ。ダメな笑顔だ。


「悠子…この作戦、うまくいくんだよね?」

「いくよ。最低限の犠牲で済む」

「最低限って…どういうことだよ!それじゃまるで!」

「オレとユウコは十中八九、死ぬ」


 俺の疑問にディスベルさんが答える。あまりに簡単に発したその言葉に俺は反応が遅れ、そして自分でも驚くほどの大声を出していた。


「バカか!!!」


 俺の声に悠子は少し驚いたものの「そうやよね」と答えた。

 いや、今欲しい言葉はそんな言葉じゃない。そんな言葉よりももっと泣いてすがってほしい。助けてくれとすがって、俺に勇者としても役割を果たさせてほしい。


「もう遅いんだよ。儀式は最終段階。覚悟を決めてもらうしかない」

「覚悟って…!嫌ですよ!悠子とディスベルさんを失うなんて覚悟できる訳ないじゃないですか!!」

「落ち着け。ただオレたちが死ぬだけならお前なんて呼ばねぇよ」


 ディスベルさんが俺の頭を殴り、俺は少し冷静になった。


「お前の力ならオレたちが冥府に連れていかれる前に穴をふさげる。それを見越したうえでの最小限だ」

「で、でもそれじゃ俺が失敗したら!」

「誰も、死なせへんのやろ?」


 そう言って悠子は笑った。

 いやそうは言ったけど…!あああああ!!もう!そうだよ言ったよ!


「頑張りますよ!絶対死なせません!それでもって死ぬほど説教します!」

「お手柔らかに」


 そして俺たちはそれぞれの位置に着く。正直、フォールを除いて全員が不安でいっぱいで、この後のことも分からない恐怖に襲われる。

 怖いなぁ…!


「それじゃ、いくよー!!」


 やけに楽しそうにフォールが叫び、闇核を部屋中に這わせる。闇核は部屋の血を飲み込み、部屋を満たした。そして魔法陣が部屋中に出現して、床に巨大な穴が開く。


 そして、そこから何かが見えた。


「――――ッ!!」


 そこから見えたものに全員が、あのフォールまでもが恐怖を感じているようだった。そこから見えたものはこの世のものとは思えない、いやこの世のものじゃないんだけど。


「はは…」


 フォールがようやく渇いた笑いをこぼす。「さすがにこれは…!」と呟いているのが聞える。しかし、無限に続く闇の中に一つ、赤く光っているものが見える。

 あれを斬るのか…嫌になるな。全く。


「さてと…やるか!」


 エクスカリバーを創り出し、悠子とディスベルさんに絡みついている何かの核を全力で振り下ろす。

 解放したデュランダル。最大出力のエクスカリバー。そして最大速度の過速。自分に出せる全てを全力で核にぶつける。しかし核にはとどいたものの全く斬れない。

 あ、ダメかも。と思った瞬間俺は後方にぶっ飛んだ。


「かっ!」


 肺の中の空気が一気に抜ける。意識が遠ざかる。このまま眠ってしまいたいほどの衝動に駆られる。

 あぁ、最初っからダメなんだ。俺に神を斬れるはずがない―――なんて、諦められるわけないだろうがクソッタレ!!


「――――――」


 何を叫んだのか分からない。多分、この現状に対する不満とかそういうものだろうが気にしてはいられない。

 あぁそうだよ諦められないよ追いすがるよクソッタレ!!


「勇也!」


 もう半分も飲み込まれたユウコが叫び、そしてディスベルさんが俺に手を伸ばす。そして二人の魔力が流れ込んできた。

 どうも、ありがとう!


「エクセレント!!」


 フォールが叫ぶ。その叫びを聞きつつ俺は再び全力で、斬りつけた。そして断末魔のような、耳をつんざくような音が響いた。

 そして、すべてが収束した。

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