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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
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急変

 夜中、警備を交代でしつつ全員がある程度休憩をとる。俺はテントの中で休みつつ今更だが十二時になればステータスが全回復するのはかなりありがたい。などと考えていた。

 おかげで体の疲れが全部とれた。

 それにしても、犠牲は最低限に抑えられたもののこのままではじり貧だ。いつか負けるだろう。


 人数の差と言うのはやはりどうにも覆せないものがあるのだ。


「ユウヤ。起きてるか」

「ディスベルさんこそ…眠らないんですか?」


 テントにディスベルさんが入ってくる。 


「寝られないんだよ。…話、聞いてくれ」


 俺は無言で頷き、ディスベルさんは俺の真正面に座った。


「今日な、色々と考えさせられることがあったんだ」


 ディスベルさんはため息をついてそう言った。俺はその『考えさせられること』の内容を聞こうと思ったがディスベルさんの中で答えが出ていないのなら聞くべきじゃないと思って俺は疑問を押し殺した。


「なぁ、お前はさ、敵だと思った奴が実はすっげぇいいやつだったらどうする?」

「そうですね…助けますよ。きっと」

「力があるからか?」

「それも勿論あるでしょうが…負けたくないんですよ」

「何に?」

「この世界に」


 ディスベルさんは目を丸くする。

 そう言えば、ディスベルさんにはこの世界の秘密、話してなかったな。


「俺って、異世界から来たんですよ」

「あぁ、知ってるよ」

「そこは、少なくとも俺の周りは平和で、戦争どころか殺人だって考えられないような場所なんです。そこから見てこの世界は真逆で、今だって殺さないと生きていけないんですよね」


 ディスベルさんは重々しく頷いた。

 今更だけど、この考え方は結構甘い。浅守に否定された。

 でも俺にはできない。ギアトさんのような漫画で描かれるようなかっこいい死に方も、ディスベルさんのような苦悩に満ちた人生も歩めない。俺以上に苦労している人たちから目を背けて俺が一番苦労していると思ってしまうだろう。


 でも、開き直るわけではないけれど、結局俺は地球の人間だから。


「俺は、自分の周りの人間を見殺しになんてしたくない。この世界に殺されるのは、ゴメンなんですよ」

「世界に殺される…か」


 ディスベルさんは立ち上がり「ありがとな」と呟いた。俺も礼を返してディスベルさんはテントから出ていく。

 ジューダスさん…何かするつもりなんだろうか…だとすれば止めに…

 そんなことを考えていると俺の瞼は重くなり、気が付くこともなく寝てしまっていた。



 翌朝、太陽が昇ると同時に俺は起こされ、戦場へ向かう。幸いまだ敵は出てきていない。

 あぁ、今日も始まるのか。あの戦争が。


 兵士たちの表情にも恐怖の色が現れ、正直俺も二日続けての戦争は初めてなので不安でいっぱいだ。


「…よし!」


 俺は自分の頬を叩いて弱気な部分を少しでも隠そうとする。隠しきれない部分もあるが、まぁ受け入れるしかないのだろう。戦争になればそんなこと考えている暇もなくなるのだから。


 …あれ?俺、この世界に染められてる?


「はは、まずいなぁ…」


 人間、慣れるものなのだろうか。と俺は小さく笑いをこぼす。


 でもまぁ、大切な人を死地に向かわせることなんて何があっても絶対にしないけど。


「おい!来たぞ!」


 兵士の一人が叫ぶ。俺はデュランダルとエクスカリバーを解放しつつ兵士が指さした方向を見る。

 朝日とは真逆の方向から迫ってくる死者たちを前にして、二日目が始まった。


「はぁぁぁ!」


 できるだけ本陣に近づかせないのは当たり前なので俺たちは積極的に攻める。俺の周りで死んだ人間はギアトさんだけなので正直、死者を斬ることに対して嫌悪感はない。むしろ俺にギアトさんを斬らせたクリューくんへの怒りでいっぱいだ。


 しかし強烈な違和感が俺を襲う。

 こ、これは…


「昨日より強くなってる…!」


 現世に戻ってきている時間が長い分強くなるのだろうか。昨日までただ俺たちを襲ってくるだけの死者に隊列のようなものが生まれつつある。

 まずい!早いうちに決着をつけないと!指揮に従うようになったら終わりだ!


 でも敵が多すぎる!


「クソ!」


 悪態をついて敵を切り刻む。しかし無限に続くのではないかという敵の数に俺は恐怖を隠せない。

 そんな恐怖が足を引っ張ったのか、死者に背後を取られた。


「しま―ッ!」


 とっさのことで避けることも考えられず、一撃もらうことを覚悟していると勝手に体が動いた。過速を使い窮地を脱する。


 い、今のは…


「ギアトさん…?」


 今のタイミング、俺じゃ無理だ。完璧にスキルを使いこなしている人じゃないと走りすぎてしまう。


 そっか、守ってくれているんだ。


「行きます」


 俺は静かに宣言し、エクスカリバーを構えなおした。



 戦況は不利になりつつある。オレは戦況を見極めて指示を出しつつ頭を抱える。

 問題が多すぎる!


「ディスベル様!」

「今度はなんだ!」

「戦場に、ジューダス様が!」


 …はぁ!?

 一瞬思考がフリーズしたものの無理やり再起動させオレは戦場の様子を見る。

 前線は膠着していた。生者と死者が二手にはっきりと分かれており、その分かれ目のところにはジューダスがいる。


 まさか、あいつ!


「誰か止めろ!早く!」


 オレが指示を出すものの誰も動かない。

 畜生!これがあいつの力か!


「運命なんて、ただの逃げ道」


 ジューダスはオレ達に説くように言った。その声は戦場のすべてに響く。


「諦めないでください。運命なんて言葉に逃げないでください。あなたたちは強いのだから」


 ジューダスは目に涙を浮かべる。オレは何か叫ぼうとして、やめた。

 ユウヤが昨晩言っていたことだ。あいつはこの世界に殺される。


 …あぁクソ!始まるのかよ!


「ユウコ!フォール!」

「準備できとるよ」

「こっちもね」


 オレは転移魔法で地下牢へ飛ぶ。今頃ユウヤも呼ばれているころだろう。


「さよなら、母さん」


 オレは小さくつぶやき、目の前の魔法陣に足を入れた。

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