悪神
翌朝、僕と土屋はネイスやトーレイとともに森の中にいた。だが昨日飛ばされたような奥のほうではなくすぐに集落へ逃げられるようになっているし、エルフの戦士もトーレイを合わせて五人いる。
「何もってんの?」
「これか?蝋でできた蛇だ」
トーレイをはじめエルフ全員が蝋でできた蛇を持っていた。
「何の意味がある」
「魔除けだ。持っておくといい」
僕と土屋も蝋でできた蛇を渡された。
結構精巧に出来でいてキモイ……そういえば蝋でできた蛇で追っ払うことができる悪神がいたな。エジプト神話の悪神だ。
「今日は森でレベル上げしつつ新しい戦闘方法を試す」
「分かった」
「はーい」
「りょ、う、かい」
森には昨日の蛇が大量発生しているらしい。大人たちは蛇の駆除と昨日僕が教えた弱点への攻撃を試すそうだ。とはいってもあの蛇の弱点なんて目をつくくらいのものだと思うが。
「来たぞ!一匹だ!」
見張りをしているエルフが叫んだ。全員が戦闘態勢に入る。
「土屋行くぞ」
「うん」
僕は昨日習得したセットウィンドとゴブリンの魔法であるオーバーパワーを使う。オーバーパワーは自分の筋力を上げる魔法だ。
「全員武器を構えろ!魔法で牽制して落とすぞ!」
「解析しろよ」
「あんまり酷使させないでね……」
土屋の目と耳に眼鏡とヘッドホンが出現する。
「シュルル……」
「撃てぇ!」
目の前の草の間から現れた蛇にシャドウが一斉にぶつかる。シャドウは影のように黒い弾だ。
蛇は少しひるんだもののすぐにエルフの一人に襲い掛かった。
「バカめ」
エルフは右によけ、蛇はエルフの後ろに作ってあった落とし穴に落ちた。とはいっても急ごしらえでそう深くないので出ようとすればすぐに出られてしまうだろう。だから出さないようにしなくてはいけない。
「今だ!槍を突き刺せ!」
トーレイの指示を受け五人のエルフが落とし穴に落ちた蛇に槍を突き刺す。
「本当に動けないのだな……」
「だから言ったろ」
蛇はなんとか抜け出そうともがいていたがだんだんと力が抜けていき、霧散した。そこには地面に突き刺さった槍と三十ルークが落ちている。
「よし!見張りに戻れ!」
トーレイの指示のおかげでエルフがテキパキと動き、作戦が結構うまく進んでいる。
いいぞ。このまま魔法を使ってくれれば僕の魔法も増える。そうすれば戦術の幅も広がる。
変化が起こったのは小一時間くらい経った頃だった。土屋の表情があからさまに変化した。
「なに……これ………」
「どうした?」
「おかしいよ……分かんない!」
土屋はスキルを消して僕にしがみついてきた。
「どうした!?」
「分かんないの!でも何か来てる!」
「何か?」
「大きな闇……真っ暗な、蛇?」
「ッ!」
土屋の言葉にエルフが動揺した。それぞれ蝋でできた蛇を取り出し、火をつける。
「何、してるんだ……?」
「いいからお前らも燃やせ!」
トーレイの怒鳴り声がかなりヤバいものだと語っている。僕は土屋の手を取り蝋の蛇に火をつけた。
「なんだ、あれ……?」
遥か上空、そこに黒い渦があった。まるで積乱雲が意志をもって動いているような…真っ黒な何かが移動していた。
「あ、くし、ん……!!」
ネイスが睨みながら叫ぶ。
「あくしん?」
「わる、いか、み!」
「わるいかみ……悪神か」
そうか。やっぱりそうなのか。エジプト神話の悪神。昼に現れれば嵐を呼び、夜に国に攻め入るという蛇。その名は―――
「アペピ……」
僕が愕然としている間に暗雲は消えたが大事をとって森からは帰ることにした。みんながうつむく中、ネイスが上空を睨んでいるのを僕は見逃さなかった。
にしても、アレには勝てそうにないがネイスを諦めさせるのは難しそうだ。でもやらなければいけない。
爆弾を手に入れるために。