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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
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不望

 泣き始めた三谷をなだめようとしていると、自分の後ろにあるあの部屋が鼓動した。何かの間違いかと思い振り返ると部屋の奥に黒い何かがいる。その何かを中心に部屋は心臓のように鼓動を始めた。


「へ…?なに?」


 三谷が涙を流しながらも驚きの声を上げる。黒い何かを見て、扉を閉めて魔法で固定した。

 一体なんだ、あれ。


「ど、どうしたの?」

「逃げるぞ」

「え…?」


 三谷が僕に説明を求めるような顔をしていると、部屋の扉が内側から激しく叩かれる。


「い、いやぁ!!」

「悪い」


 一言断り僕は三谷を抱えて階段を降りる。すぐにバン!バキィという音がして扉が吹き飛んだ。

 くそ!もう少し強く結界をはっておけばよかった!

 後悔しても遅い。幸い階段を降り切っており僕は三谷を下す。


「走るぞ」

「な、何が起きてるの!?ねぇ!」

「大丈夫だ。僕を信じろ」


 信じろ。なんて言葉が慰めになったのか三谷は何とか立ち上がり僕たちは家を出て広い場所へ向かう。敵は複数いた。あの数を相手するのなら広い場所がいいだろう。


『必要ありませんよ』

『メモリー…なんだこれは。いや、必要ないってどういうことだ』

『簡単です。この街を隔離しました』


 隔離という言葉どおり、またしても周りから音が消えていた。しかし前のように三谷の体は消えておらず、三谷自身も体に違和感がないようでむしろこの状況が理解できず不思議そうに僕を見ている。


『アレはなんだ。HPが見えたってことはあっちの世界の生き物だよな。いや、むしろこの世界自体があっちの世界の一部なのか?』

『違います。ここは間違いなく地球です』


 いや、本当に地球だとしたらどうやって戻したんだ?創造主なら可能なのか?


『これはイレギュラーです』

『イレギュラーはお前らで対応してくれよ』

『そうはいかないのです。願いの効果が及ぶ範囲はあちら側だけですので。ですからあなたをここに送ったのですよ』

『成程。僕に事件の処理をさせるわけか。それで、アレはなんだ』

『死人です。魔界で発生したものが流れ込んできたのです』


 魔界って、凪川のところか。あいつ面倒事を僕に押し付けないでほしい。とはいえこんな事態だ。対処しないわけにもいかないだろう。

 僕は立ち止まり魔導書を取り出す。後方からは結構な速さで死者どもが追いかけてきている。


「何してるの!?早く逃げないと!」

「いや、ここで迎え撃つ」


 焦ったように叫ぶ三谷の言葉に耳を貸さず「あとで説明する」と短くいって僕は魔法を発動させた。



 狐フェルちゃんが恵梨香さんのほうへ突っ込んでいく。狐フェルちゃんは恵梨香さんを殺すことは厳禁なので戦闘不能にして退かせようとしているようだ。その意見には大いに賛成なので私も頑張ってサポートをする。


「フェルちゃん!右方向から十本!特殊性なし!」

「はい」


 私が教えるとフェルちゃんが次々と矢を落としていく。

 と言うか恵梨香さん、こんなに矢を連射できたの!?向こうもかなり強くなってるみたいだけど…


「狐フェルちゃん!」

「問題ありません」


 狐フェルちゃんに数十本の矢が集中していたがそれを難なく消滅させる。

 じ、次元が違う…破壊じゃなくて消滅なんて…!


「でも攻めきれてないみたい…!」


 それもそうか。多分、狐フェルちゃんにとって恵梨香さんは格下の存在。それをできるだけ傷つけず退場させるなんてことは恵梨香さんが中途半端に強いせいで難しいのだろう。


「どうしますか?」

「どうするって言っても――」


 周りの状況を見ようとしたとき、ある人物が目に入った。それを見た瞬間私はフェルちゃんを抱えて右に跳んでいた。

 そして私がいたところに今度は亀裂が走り、そして船が削られた。


 う、ウソでしょ…?


「み、美鈴ちゃん!」

「久しぶりね。美月」


 岡浦美鈴、つまるところの破壊の勇者がそこにいた。


「なんでここに!?ていうか何これ!?」

「…ここに、勇也はいないのね」

「い、いないよ」

「そう。ならいいわ」


 そう言って美鈴ちゃんは立ち去ろうとする。


「ま、待って!」


 このままじゃまた会えなくなる。そう思った私は美鈴ちゃんを呼び止めていた。しかし美鈴ちゃんは振り向きざまにグングニルを振る。衝撃が私の頬をかすめ、HPが少し減って私の頬から血が流れた。


「殺すわよ」


 その言葉が真実でないことが容易に分かる。今の一撃、まともに当たっていたら即死だった。

 そのまま立ち去ろうとする美鈴ちゃんを止められずただ見ていると、不意に美鈴ちゃんが立ち止る。


「誰?」

「ぼく」


 そう言って美鈴ちゃんの前に下りてきたのは、キトルさんだった。


「全く想定外だよ。君はうまく抑えられているお思ったんだけど」

「どきなさい」

「そう言うわけにはいかない。ここを破壊されたつけは払ってもらうよ」


 その言葉をきき美鈴ちゃんはグングニルを振りかぶる。しかしその槍は届くことなく、美鈴ちゃんもまたその場に固まったように動けないでいた。


「リマスター。ここはぼくの領土だ」


 そう言ってキトルさんは美鈴ちゃんの右腕を、折った。表情まで固定されているらしく美鈴ちゃんは悲鳴を上げようとするが上げられない。


「弱いね」


 キトルさんはそう言って美鈴ちゃんを掴み、船外に放り投げた。船外に放り投げられたことによって支配から解除された美鈴ちゃんは「殺す!絶対殺す!」と声を張り上げ落ちていく。


 私はただその一連の動きを見ていることしかできなかった。


「これが戦争だよ」

「戦争…」

「そう。人を傷つける覚悟もなく生きていけないよ。この世界は」


 虚しそうにそう呟いて、キトルさんは姿を消した。

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