驚愕
夕食の買い出しを終え夕食の準備にかかった三谷を目の端にとらえつつ僕は魔導書を発動させる。熱探査。見えない場所からでも電波は届く。
本当に魔法って便利だよな。こっちに戻ってきてそれが実感できる。
…戻ってきて?
「あれ…?」
「どうしたの?」
「…なんでもない」
思わず疑問の声を上げてしまい、三谷が不思議そうに僕を見る。僕は適当に判事を返して今自分が言った言葉を思い出す。
戻っきて、と思ってしまっているということは僕がこの世界にとどまるべきだって思っているってことだよな。美月たちがいる世界じゃなくてこの三谷たちがいる世界に。
「あー…」
今度は三谷に聞こえないようにため息をつく。
そうか。こういう事か。ここは僕にとって贅沢過ぎる場所なんだ。優しい両親がいて、頼りにしてくれる友人がいて、世界の危機なんてものはなく、魔法なんて不可解な文化はない。命がけの戦いなんてしなくてもいい世界。
なんだそれ。最高じゃないか。
「ご飯、できたよ」
「あぁ」
僕は椅子について三谷が作ってくれた夕食を食べる。竜田揚げだった。
「おいしい?」
「あぁ」
「よかった。燈義くん、好きだっていってたから」
「そんなこと言ったか?」
「言ったよ…」
三谷は寂しそうに言う。
言った覚えはない。そして僕が覚えていないはずがない。考えられる可能性としては世界が用意した僕の代役がそう言った可能性がるけど…いや、でも初めて会ったときに「話しかけても反応してくれない」とか言ってたな。
だったらその情報、どこから手に入れた?いや嘘を言っている可能性はあるがそんなことをして何になる?
「ま、確かに好きだがな」
取りあえず話を合わせておいた。追及して気まずい雰囲気になっても困る。
「それで、両親はいつ帰ってくるんだ?」
「えーっと…今日は二人とも忙しいみたい」
「…で?」
「帰ってこないかなー…って」
………マジか。
僕はため息をつく。三谷は「部屋はあるから!」と泊まらせるつもり満々で言った。というか知り合ったばかりの男子を家に泊めるって、それはさすがにおかしいだろう。
「親に連絡してくる」
「あ、うん」
僕は席を立って廊下に出る。そして電話をするふりをして家の中を見て回る。
さすがに変だろ。両親が共働きで夜遅くなるのは分からないでもないがそれでも僕を泊めるなんて。今までもこういう事はあっただろうに。
「そういえば、あいつの部屋には入ってなかったな」
僕は静かに二階にあがり三谷の部屋を探す。二階の大半は物置でよくここまで物を集められたな。と感心してしまう。
ダイエット用品に遊具。ベビー用品に日用品。デパートかよ。
「ここは…」
木の扉の前で立ち止まり、魔法で鍵を開けて扉を開く。
そして絶句した。
「ッ!?」
思わず後ろに下がってしまう。そこは誰の部屋でもなく、いやむしろ誰の部屋でもあってほしくない場所だった。
部屋の中はコンクリートでできていて、壁中にマジックやらボールペン、鉛筆や果てには削ってまで文字が書かれていた。
そして書かれているのは、恨みと怨嗟の言葉。
「見たの…?」
声に反応して後ろを振り返ると三谷が立っていた。無機質な目で、表情もなく立っていた。
あ、まずい。と本能的に悟りどう逃げようかと考えていると三谷は涙を流し、僕に縋り付くように歩いてきた。
「…助けて…」
かすれた声で僕にそう言った。僕は驚きつつもとりあえず安心させるために頷く。
一体、何が起きていやがる。
捨てられた土の場所から移動し、私は詰まってしまった。
どうしよう…手がかりがもうないよ…
「うーん…どうしよっか」
「そうですね。まずは土からゴーレムを創る方法を「ごめん!」
私はフェルちゃんを抱きかかえ右に跳ぶ。すると私たちのいた場所が燃え上がった。そしてそこには二本の矢が刺さっている。
「走って!」
「はい!」
すぐに起き上がり被害が及ばないように無人の場所を選んで走る。スキルのおかげでどこから攻撃が来るのか分かるし、逃げた先に何があるのか、誰がいるのか分かるけど体力が尽きてしまえばどうしようもない。
「反撃しますか!?」
「無理!遠すぎる!」
そして逃げていると、上空から数十本の矢が降りかかってくる。
「これは…!」
ダメだ!と思い矢が降り注いできたところでその矢が全て、消え去った。
「へ…?」
間の抜けた声を上げて空を見る。そこにはふわふわと浮いている狐の仮面をかぶった誰かが居た。
「何故ここにいるのですか」
その人物に明らかな敵意を向けてフェルちゃんが声をかける。狐の人は私たちのほうを見て「命令だ」と答えた。
「あなたは基本、関わらないはずですよね。何かあったのですか?」
「フライングですよ」
二人の会話は進み、私は「あっ!」と驚いた声を上げる。
この声って、まさか!?
「フェルちゃん!?」
「はい」
そう言って仮面を外し、出てきた顔はやはりフェルちゃんだった。しかし表情どころか感情はなく、まるで機械のような感じだ。
なんだろう…怖い。
「今は味方です」
フェルちゃんはそう言って私のほうを見る。私は一つ頷いた。
例えどんなことになっていたとしてもフェルちゃんはフェルちゃんだ。信じられないはずがない。
「指示をお願いします」
「うん」
フェルちゃんは狐の仮面をつけ直す。
「敵は分かっているんですか?」
「うん」
隣にいるフェルちゃんの質問に私は頷く。
こんなことできるの、一人しかいないよ。
「恵梨香さん…!」
遥か上空にいる、元生徒会役員の先輩の名前を叫び、私は解析を開始した。