平行
三谷の話を聞くと、どうもストーカーが出現しているらしい。現れ始めたのは一週間前で、最初は下校途中に視線を感じる程度だったものの最近では家の前に現れることもしばしば。極めつけは無言電話。
親に相談しろ。と言ったもののどうやら三谷の両親は共働きらしく、二人とも帰ってくるのは夜九時以降らしい。そんな親に心配をかけたくないらしい。
こいつは本当に他人のことを優先して考えるな。自分のことを考えればいいのに。
「それで、どうして僕に頼んだんだ?」
「だって、頭いいんでしょ?頼りがいがあるっていうのが本音かな」
「ぶっちゃけたな」
「頼みを聞いてくれるんでしょ?だったら隠す理由はないよね」
「…本当にそれだけか?」
「へっ?どういうこと?」
何かもっと面倒な理由がある気がするが…まぁメモリーが何かしらの作用したかもしれないし、どっちにしろ手伝うのなら理由は後で聞けばいいか。
魔法を説明して混乱されても困る。まぁ十中八九信じないと思うが。
「それで、僕にどうしてほしいんだ?身辺警護?」
「うん」
そう言って三谷は照れたように笑った。
「私に家で、ね」
「…あぁ?」
思わず疑問の声を上げてしまう。
え?何言ってんのこいつ。
「さ、行こう」
「おい!」
三谷は歩き出し、何の説明もないまま僕も仕方がなくついていく。
僕がいくら鈍くても昨日知り合った男性を女性が自分の家に招く。という行為がそうそう行われないものだってことぐらい分かる。三谷は土屋と同じ思考の持ち主だからと言って僕とはそこまで交流がなかったはずだ。
こいつ、何のつもりだ?
「ここ、私の家」
「そうか…」
あれよあれよと僕は三谷の家に連れてこられた。そして三谷は家のカギを使って扉を開け家に入る。家の中は静かなもので靴も綺麗に整理されている。白い壁紙が家の雰囲気を明るくしている感じがする。
「ごめんね。何のお構いもできなくて」
「それは構わないが…なぁ、最近この家に家族以外の誰か入ったのか?」
「別にそんなことないけど」
僕はため息をつきつつ、こっそりと開いてた魔導書を閉じ、キッチンから椅子を持ってきて椅子の上に乗り天井を確認する。
やっぱり魔法は便利だな。
「どうかしたの?」
「これ」
「何それ?」
「盗聴器」
「と、盗聴っ!?」
僕は天井に張り付いていた盗聴器を三谷に見せる。三谷は自分の肩を抱いてぶるりと身を震わせた。
そりゃ怖いよな。自分の家の様子を聞かれているなんてことは。
「ピッキング対策とかしたほうがよさそうだな。いよいよ両親に話したほうがいいと思うが…」
「ダメ。それだけは、ダメ」
三谷が僕の言葉を強く否定する。これはもう他人を思いやっているとかじゃなくて、本当にいえない理由があるとしか思えない否定だ。
でも無理やり聞き出すこともできそうにない。
「ま、一応他の場所も調べておくか」
「そうだね…」
三谷は青白い顔をしたまま応じた。
私とフェルちゃんはストーカー事件を解決するために、とりあえず一番怪しい私たちを襲ってきたゴーレムを調べることにした。
何を隠そうこの私、解析のスキルを持ってるからこういう捜査は得意…だと思う!
「最近スキル使うこともありませんでしたよね」
「二人が優秀すぎるからね…でも今回は頑張るよ!」
さっそく私はスキルを使ってゴーレムを見る。
これは…血が混じってる!
「まさかもう被害者が!」
「ゴーレムは魔力にプラスして血を混入することで支配を強固にできますよ」
「…知ってたよ!」
もうダメかもしれない。というかフェルちゃん、相変わらず有能過ぎるよ…
私はもう一度ゴーレムを見てみる。すると、かすかに匂いを感じた。
「これは…肥料の匂いだ。畑の肥料」
「そんなもの匂いませんが」
「多分私がスキル使ってるからじゃないかな。ていうかこれ、畑の土でできてるよ」
「畑の…おかしいですね。ゴーレムは全て石でできていて土は混入されまいはずですが…」
「それにこれ、魔力を感じない」
「ゴーレムは魔力を込めて動くはずです。魔力が残っていないとなると…」
「これも、何らかのスキル?」
「そう考えるのが妥当でしょう」
スキルって…敵は複数ってこと?でもそんなことありうるの?複数のストーカーっていうのはさすがに…気持ち悪いを通り越してみてみたい。
でも、さすがに複数いたら分かると思うんだけど…
「ルーさんは気配がしたら追いかけていきそうだし…複数なんてことは考えにくいんじゃないかな」
「そうですね」
複数犯人がいたらいくらなんでも誰か捕まるだろう。本当はルーさんに聞くのが一番いいんだけど、ルーさん、燈義君と同じで帰ってきてないからなぁ。
そこら辺はキトルさんがちゃんと見てくれてると思うけど。
「さてと、畑行こうか」
「了解しました」
フェルちゃんと一緒に私も歩く。
「ミツキさん、どちらへ?」
「へ?畑だよ?」
「いえ、畑は逆方向です」
フェルちゃんが呆れ気味にそう言う。
あぁ、そう言えばしっかり言ってなかったんだ。
「こっちに匂いが通じてるから、調べたほうがいいかなって」
「匂い…まさか、スキルで調べたのですか?」
「そうだよ。そうでもしないと分かんないし」
そう言うとフェルちゃんは珍しく、驚いていた。しかしすぐに真顔に戻って考え始める。
「もう一時間も前で、しかも大勢いる公園で証拠を見つけるなんて…」
「どうしたの?」
「いえ、何でもありません」
フェルちゃんは自分で納得したみたいですぐに私についてきた。
…燈義くん、何してるのかなぁ。