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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
122/258

正体

 食料の備蓄はなくとも全員分の食料は確保できる。問題は魔王城の連中だ。結託したのは十人の大臣。もともとはアスルートさんについていた人たちだ。ジューダスさんが怪しくなり切り捨て、新しい魔王を立てた。問題はその新しい魔王候補、レルトという人だ。


 一言で言ってしまえば、典型的な屑。


「金を積んで人を動かす奴だ。あんなのが魔王になったら国民が食い殺される」


 と、ディスベルさんは言っていた。今でもレルトは豪遊三昧らしい。噂ではもう貴族たちに有利な法律を創ろうとしているとか。

 そんな状況を受け俺とディスベルさん、アスルートさんと悠子は連日話し合いをしている。


「ジューダスのやつ…これが狙いなのか?」

「どういうことですか?」

「アスルートもオレも不信にさせて新しい魔王候補を立てそいつを魔王にして国を衰退させるってことだよ」

「そんな、一体何年かかると」

「国はうまく運営しなければ十年もしないうちに潰れるさ」


 ディスベルさんはそう言って舌打ちをする。

 しかし思わぬ反論が出た。


「違うよ兄さん。あの人はそんなことしない」


 アスルートさんはディスベルさんの目をまっすぐ見て言った。予想外の反論を受けディスベルさんは驚いたもののすぐにアスルートさんを睨む。


「捨てられたんだぞ、お前」

「捨てられてないよ。母親が子供を捨てるはずがない」

「ジューダスはオレたちの母親じゃない」

「違う」


 お互い一歩も譲らずにらみ合う。俺がなだめようとすると悠子が割って入った。


「アスルートくん。どうしてジューダスさんが信じられるん?今までの話を聞いて、本人も行方不明やのにどうして?」

「…」


 悠子の質問にアスルートさんは答えない。そして十秒ほど沈黙が続き、アスルートさんは口を開いた。


「あの人は、ジューダスさんは裏切ってなんかいない。あの人は誰よりも契約者のことを知っていたから」

「何…?」


 ディスベルさんが驚きの声を上げる。しかし声を上げなかったものの驚いたのは俺も、そして悠子も同じようでアスルートさんの話を集中して聞く。


「あの人は魔王の妻として宝物庫に入ることを許されてた。そしてそこで知ったんだ。あの本の封印が解かれていることに」

「確かにオレはしばらくあの中を見ていなかったしいつ封印が解かれていたかなんて分からないが…」

「ジューダスさんの考えを全部わかってるわけじゃないし、今でも理解できないことがあるけど、ジューダスさんはこう言ってたんだ」


 そう言ってアスルートさんはディスベルさんをしっかりと真正面から見て、言った。


「契約者は最悪の結果で現れる。って」

「…どういうことだ…」


 最悪の結果…もしかして誰かが死ぬのかな…いや、そんなことはさせない。何のために強くなったと思ってるんだ。


 誰も死なせてやるもんか。それが自己満足だと罵られても諦めてなんてやらない。


「確かに、ジューダスさんはあの爆弾騒ぎの時に爆弾の場所を教えてくれたしなぁ」

「まぁあの時はジューダスらしくない失敗だと思ったが…」


 もしかしてジューダスさん、敵じゃない?だとしたら誰が敵なんだ?


「いや、まだジューダスを否定しきれたわけじゃない」

「兄さん!」

「悪いがこんな状況だ。一度疑った人間をそう簡単に信用できない」


 そう言ってディスベルさんは出て行った。そのあとに続いてアスルートさんも出ていく。

 俺はため息をついた。


「内部分裂しそう…」

「そうとも限らんよ」

「そう?」


 悠子はどこか余裕のある顔でそう言った。


「ねぇ」

「なに?」

「ディスベルさんと婚約した。って言ったら驚く?」

「…したの!?」


 驚いて聞き直すと悠子や「してないよ」と笑った。

 いやまぁ…ディスベルさんと悠子って今までどんな行動してたのか全く知らないから何かきっかけがあったのかと思ったけど。


 …ていうか婚約を意識してる時点で結構気があるんじゃ…


「驚くねみたいやね」

「それは、ね」

「じゃぁ勇也。もし誰かが死んだら、悲しい?」

「死なせないよ。誰も」


 悠子は「やっぱり」と言って笑った。なんなんだ今の質問。…まさか契約者について何か知ってるのか?


「十二時に、魔王城に行くよ」

「魔王城に?」

「うん。みんなで」

「皆でって…でもあそこは」

「大丈夫」


 そう言って悠子は出て行った。


 そして魔王城で反乱がおきたという報告が上がったのは、それから二時間後のことだった。



 反乱を起こしたのはリュートさんの部隊らしい。これも事前に仕込んでおいたことなのだろう。

 でもなんでこのタイミングで…いや帰れる場所があることはいいことなんだけどさ。


「さて、集まったな」


 そして俺たちは魔王城の大広間にいた。


「いや~、やっぱり夜はいいね」

「なんでフォールまで…」

「お師匠様に向かってその態度はないんじゃない?」


 フォールがおかしそうに笑っている。

 しかし、変だ。フォールも悠子もディスベルさんも、なんだか顔が怖い。まるでこれから戦いが始まるみたいだ。


「ここに集まってもらったのはほかでもない。契約者についてだ」

「契約者って、あのハデスの!?」

「そう」

「見つかったんですか!?」


 どうやらリュートさんもホトさんも知らなかったようで驚きの声を上げる。

 契約者が見つかったのはいいこと!…のはずなのにどうして悠子とディスベルさんはそんなに悲しそうなんだろう。


「それで、だれなんですか!?」


 リュートさんが真剣な目で見る。ディスベルさんはリュートさんとホトさんと俺をみて、ゆっくりと言った。


「クリュー。お前なんだよな」

「「「へ?」」」


 三人の間の抜けた声があがる。当然、リュートさんとホトさんと俺だ。

 えっと…何言ってるの?この人。


「ディスベルさん、それは―」


 反論しようとしたところで、魔王城が揺れた。


「あーあ、ばれちゃった」


 そんな声が頭上から降ってきて、俺たちは顔を上げる。

 そこにはあの優しそうな少年の面影は全くない、口の両端を釣り上げ笑う、クリューくんがいた。


 …嘘、でしょ?

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