表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
121/258

分断

 翌日、僕は駅の前で三谷と待ち合わせをしていた。集合時間は午前十時。そして現在は午前九時五十五分。五分前行動をしろと博文に家から追い出された僕は特に行く当てもないので本当に五分前に集合場所についてしまった。


「寒いな…」


 息は白く、僕のやる気をどんどん奪っていく。なんでこんなことになってるんだ本当に。


「ごめーん!まったー!?」

「待った」


 三分ほど遅れて三谷が来た。約束通りのセリフを言ったが僕は約束通りの返事を返さず「ごめんね~」と三谷は申し訳なさそうに言った。


「それで、どこに行くんだ?」

「商店街のほうにいくよ。買い物はあそこが一番」


 そう言って三谷は歩き出した。僕もそのあとに続いて歩く。

 商店街は歩いて十分くらいで着く。これから何があるかわからない。メモリーが何か仕掛けてくる可能性も十分あり得るので警戒しておかないと。


 と、思った矢先のことだった。


「ひ…」


 三谷が小さく悲鳴を上げた。三谷の目線の先には茶色いコートを着た男が立っている。しかし男はすぐに立ち去った。

 どうしたんだ?


「どうした?」

「何でもないよ。ちょっとびっくりしただけ」


 何でもないという様子じゃなかったな。後で魔法でも使って聞いてみるとするか。

 そんなことを思いつつ僕たちは商店街へと歩き出した。


 商店街に着き、人ごみの中を歩く。ここは近くに大型のデパートなどが土地の問題で建設されずいまだに商店街は賑わいを見せている。


「これ綺麗だよね!」

「まぁな」


 アクセサリーを持って嬉しそうに話す三谷を見つつ僕は適当に返事を返す。綺麗だろうがなんだろうがどうでもいい。


「これもいいかなぁ…」

「なんで髑髏を真剣に見てんだよ」


 次に三谷が手に取ったのは黒い髑髏のストラップだった。しかも大量に置かれているので禍々しくて誰も買おうとしない。

 意外なシュミしてるなこいつ。


「次はこっち!」

「引っ張るな」


 袖を引っ張られつつ僕は三谷についていく。

 というか、これはもう確定だな。


「おい三谷」

「なに?」

「お前、何を怖がってるんだ?」

「…何のことかな?」


 と、三谷は少し笑った。

 何度も見た顔だ。フォンはトーレイ、べリアにギアトにタマモ、そして百年前の土屋美月。誰もかれもが何かを背負って、それを隠そうと無理に笑っている顔だ。


 そして僕は、そう言う顔が一番気に入らない。


「話せ。どうして昨日知り合ったばかりの僕を遊びに誘った」

「…少し、いいかな」


 そう言って向かったのは人気のない路地裏だった。そして三谷は振り返りつつ、目にいっぱいの涙をためて言った。


「助けて…このままじゃ…殺されちゃう…」

「詳しく話せ」


 三谷は泣きながら僕に現状を語ってくれた。そうして語り終わった後、僕の携帯電話が振動する。僕は携帯電話を取り出し受信したメールを見た。

 知らないアドレスで件名もない。でも誰が送ったか十分わかるメール。


『三谷奈波を助けなさい』


 この状況を知っている奴なんて、メモリーくらいだ。

 僕は携帯電話をしまい、まだ泣いている三谷を落ち着かせる。


「大丈夫だ。僕が解決する」

「…ありがとう」


 そう言って三谷が笑った。



 燈義くんたちと連絡が取れなくなり、三時間が過ぎた。全くと言っていいほど進展はなく私はただ焦るばかり。

 一体どうしたんだろう…


「フェルちゃん!行こうよ!」

「準備はできています」

「私ももうすぐできるよ!」

「ダメだよ。君たちにはやってもらうことがあるんだから」


 自分の部屋で燈義くんを助けに行く準備をしていると、不意に後ろから声をかけられた。一切気配を感じなかったので驚いて振り向くと、キトルさんが立っていた。


「キトルさん!燈義くんは!?」

「無事だよ。今はちょっと会えないけど」

「どうしてですか!?」

「だって彼、意識がこの世界にいないから」


 …どういうこと?

 私が疑問に思っていると、フェルちゃんがキトルさんに飛びかかった。いつの間にか造った剣をキトルさんの首筋に押し付ける。キトルさんは澄ました顔をしたままフェルちゃんではなく私を見ている。


「君たちはこの船から出ることができない。この船で起きる事件を解決しないかぎりね」

「勝手に話を進めないでください。トーギさんに何をしたんですか」

「その事件は彼の世界で起きる事件と同調する。だからその事件を解けば彼への扉が開かれるよ」

「話を―」

「少し黙ってね」


 剣を強く首に押し付けたフェルちゃんはキトルさんの一言で動かなくなった。


「これがリマスターだ」

「でも…それは電脳種にした効果ないんじゃ…」

「違うよ。リマスターは僕の領土にいる生物を操る能力。僕の個人財産である電脳種はもちろん、その電脳種が創ったものも僕の領土になる」

「…フェルちゃんは、戻るんですよね」

「もちろん。僕は君たちの味方だからね」


 そう言ってキトルさんはにっこりと笑った。その笑顔はいつも通りなのになぜか怖い。

 この人、本当に百年前に生きた人なんだ。だからこんな…


「事件って、なんですか?」

「ストーカーだよ」

「ス、ストーカー…?」


 思わず気の抜けた声を上げてしまう。

 それってあの、ルーさんのことだよね…


「そこからしっかり発展していくんだよ」

「発展って…」


 そこからどう発展していくんだろう。まぁ確かにストーカー殺人事件なんて物騒な事件はあったけど。

 ていうかどうして事件が同調しているの?


「…ゴメン。これも世界のためなんだ」


 そう言ってキトルさんは消えた。

 世界のためって…どういうこと?でもまぁ、事件を解決しなくちゃいけないんなら私がやらなくちゃ!


「フェルちゃん!私、頑張るよ!」

「お供します」


 いつの間にか起き上がったフェルちゃんと一緒に私は気合を入れた!

 待っててね燈義くん!私達だけでも解決してみせるから!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ