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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
120/258

多難

 目の前で粒子となって消えていく魔獣たちを見つつため息をつく。

 行けども行けども出るのは魔獣ばかり。こんなところにいるのかな。


「随分と深く来ちゃったけど、大丈夫かな」


 ここはもう木々の木洩れ日すらほとんどない真っ暗な場所。松明を持っているから問題ないけどこれじゃほとんど洞窟と変わらない。


「いったん帰ろう」


 俺はとりあえず城に引き返すことにした。森の中に残した目印を頼りに森を出て街に戻る。

 あの森に隠れるのは不可能だと思うんだけど…


 とにかくディスベルさんの指示を聞こう。


 もう思って森を抜けると、目の前が赤く染まっていた。


「…なんだこれ」


 判断が少し遅れたものの俺は素早くデュランダルとエクスカリバーを抜く。

 これは、血だよね。死体はないけど…魔獣の血だといいな。


「な、わけないよね」


 転がっているのはいくつもの鎧や剣。死体が消えても衣服は消えないので残る。だからここで死んだのは魔獣でも魔物でもなく、兵士だ。しかもリュートさんの。


 ざっと八人は殺されてるみたいだ…でもリュートさんの部隊の人たちが八人も殺されるなんて、ただ事じゃないよね。


「殺気はないから、犯人はもう逃げたのかな」


 それでも油断は禁物だ。せめて街に着くまでは油断できない。そう思って一歩を踏み出すと、地面が崩れた。


「な―!?」


 とっさにデュランダルを崖に刺しそれに捕まる。地に濡れた地面は地面の下へと落ちて行った。

 あ、危なかった…このままじゃ死ぬところだった…


「よっと」


 俺は崖から出て辺りを見回す。あの時追撃してこなかったのは犯人が近くにいないからか…と別の出口を探そうと森に戻ろうと一歩を踏み出すと、地面から剣が生えてきた。とっさにそれを避けると森のほうからバキバキと嫌な音がして、岩が飛んできた。


「岩に潰されるのは、もうごめんなんだよね」


 岩を斬って下に落とし、ため息をつく。

 ここはトラップゾーンか。


「地雷原にいる気分だ…」


 俺は慎重に石を拾い、空中に投げた。すると右のほうから石に向かって五本ほどの矢が飛んできて石を砕いた。

 ホーミング魔法と強化魔法がかけられた矢って…逃げ場がない…


「しかもこの調子じゃ…」


 俺は試しにウィンドスピアをそこらへんに発射してみると、撃墜された。

 魔法探査つきか…八方塞がりだけど…


「ま、この程度は問題ないか」


 夢の中でフォールに教わったときはもっとえげつないトラップしかけられたし。

 俺はエクスカリバーを解放して足場を創った。そしてその上を歩きつつ飛んでくる矢などを落としていく。


「まさかこんなに早くフォールの特訓が役に立つとは…」


 フォールの特訓の中にはトラップゾーンに入ってしまった時の対応策まであり、地面に着かずに五十メートルは楽に歩けるようになった。


「でも誰がこんなこと…」


 森に入ったところで地面に下り、安全を確認してから歩き出す。

 はぁ…ドキドキした。


「しかし…目印がなくなっちゃた」

「そこに登場、何でも役立つ占い屋さんです」

「うわ!?」


 いきなり隣に現れたセンに驚く。

 ってなんでここにいるの!?


「遅いから迎えに行けって、ディスベルが」

「よく来れたね…」

「べリアの糸が見えたから」


 あぁ、それもそうか。俺とべリアちゃんはデュランダルの運命に選ばれているわけだし。糸があってもおかしくはないか。


「ありがとう。遭難しかけてたんだ」

「そうなんだ」

「そうなんだよ」


 あはは。と笑う俺とは違いセンは「くくく…」と声を殺して笑っている。

 なんだろう。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない」


 まだ少し笑いつつもセンは俺を案内してくれて無事、森の中から出ることができた。

 この森、何かあるのかな…


「遅いぞユウヤ」

「ディスベルさん!どうしてここに!?」

「城をおわれた」

「……は!?」

「いわゆる第三勢力というやつだ。オレもアスルートも信用できないって大臣たちが新しい魔王候補を立ててきやがった」

「そんな!悠子は!?」

「連れてきてないわけないだろ」


 よかった…でもこれからどうしよう…


「行くぞ。新しい拠点だ」

「あ、はい」


 俺はディスベルさんの後について新しい拠点へと向かった。

 それにしても第三勢力って…そういえば浅守もそんなことを経験してたって言ってたな。どうしたか詳しく聞いておけばよかった。



 新しい拠点は廃城だった。所々床が抜けているものの住めないことはない。むしろ追われている身としては十分すぎるほどの拠点だろう。

 廃城の中にはアスルートさんやべリアちゃん、悠子もいた。


「リュートやホトは見張りに行ってもらってる」


 ディスベルさんと俺とセンはみんなと合流した。


「よかったユウヤ!」

「べリアちゃんたちも無事でよかった!でも大変なことになったね」

「確かに大変だが、こんな時こそ協力しなければいけない。ユウコの無実を証明するためにもジューダスを捕まえなければな」

「そうだね!頑張ろう!」


 俺たちが互いを励ましあっていると廊下の奥からクリューくんが走ってきた。


「在庫の確認、終わりました」

「ご苦労様」


 そう言ってディスベルさんはクリューくんをなでる。


「在庫?」

「あぁ。こうなることは予想していたからある程度の備蓄をここに運んでおいたんだ」


 さすがディスベルさん!これで飢えることは当分なくなった!


「それが、その…」

「どうした?」

「食料、なかったんですけど」

「…なに?」

「武器とかはあったんですけど、食料がないんです」


 俺たちは絶句する。確認しなくてはいけないが、多分クリューくんの言っていることは本当だ。


 ………前途多難すぎる!

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