両親
私は急に襲い掛かってきた人に驚いたもののすぐに冷静になり初心の書を開いてウィンドスピアを発動し相手にぶつける。相手は粉々になり崩れ去った。
って、えええええ!?崩れたぁ!?
「ど、どうしようフェルちゃん私人殺しに!!」
「落ち着いてください。あれはゴーレムです」
フェルちゃんに言われて崩れ去った相手をよく見ると確かにゴーレムだった。光になって消え去ってもいない。
よかった…
「でもどうしてゴーレムが襲ってきたんだろう」
「それは分かりませんが、この船の中にも敵がいるようですね」
「前途多難だね…」
燈義くん、大丈夫かなぁ…
山の中を進み、フォンと話しつつ僕は周りを注視している。霧は晴れてきたもののまだ残っていて敵が襲ってくる可能性も高い。さっきから奇妙な鳥の鳴き声が絶えず聞こえている。
「で、まだなのかその魔力魂がある場所は」
「そろそろあるはずなんだけど」
そう言ってもう二時間以上歩いている。体力的には問題ないのだが緊張感など精神的な疲れが目立ってきた。
まだ休めそうな場所がないな…
「キトル!何か飲むか!?」
「まだいいよ。それよりルーさんは大丈夫?」
「も、勿論大丈夫だ!」
あっちはあっちで空振りしているし…全く面倒なことになったものだ。フォンが来てから妙にルーが積極的になってるんだよな。
そして、問題のフォンは…
「キトル、少し話に付き合ってくれないか?」
「いいですよ」
キトルと政治やら集団行動について話し合っていたりする。確かにキトルは集団をまとめ上げたり政治についてもかなりの手練れだ。だから相談するのはいい。
だが、そのせいでルーがだんだん苛立っている。
「トンネルが見えたよ」
「本当だ…あの先に魔力魂があるのか?」
「地図によればね」
ようやくゴールにたどり着けたらしい。僕は魔力魂を見たくて、他の奴らはこのぎすぎすした空間から離れたくてトンネルの中に入る。そして、
全員巨大な穴に落ちた。
「ちっ」
僕は舌打ちをしつつ天蛇の書を出そうとするも出ない。
魔法どころかスキルさえも禁止されているのか…これは落ちるしかないみたいだが…
全員の叫びを聞きつつ僕は地面のほうに目を向ける。どうやら今回は現実らしい。
地面に激突しかけたところで僕の体は空中でいったん止まり、そして静かに地面に落ちた。痛みはなく背中に着いた土を払いながら辺りを見回す。
ここにいるのは僕だけか…全員バラバラになったみたいだ。
「で、ここはどこなんだ…」
辺りを見回しても岩の壁があるだけだ。ため息をつきつつとりあえず周りを探してみると地面に扉があった。
ここに入れってことなんだよな。多分。
「よいしょ」
扉は簡単に開き、黄土色の地面も見える。僕は扉の下に降りて周りを見回すと暗い洞窟のような場所だった。
また洞窟か…今回はなんだ?
「進むか…」
どちらが後ろか前かわからないがとりあえず進むことにした。進んでいくと先のほうに光が見え始める。
出口か?案外早く着いたものだな。
光は大きくなっていきやがて…僕はよく見知った場所に着いた…
「……うそ…だろ…?」
思わず絶句してしまうほどの衝撃を受け僕は立ち尽くす。急いで後ろを振り返っても洞窟などはなく、ただ玄関の扉があるだけだった。
おいおいおいこれは何の冗談だ!?これは何の間違いだ!?どうしてここにいる!?
「どうしたの?」
不意に、目の前から久しく聞いていない、懐かしくも聞きたくない声が聞こえてきた。顔を上げると一人の女性が僕のほうを見ている。
冗談にしても、笑えないだろう…!
「浅守、静乃…!」
僕の母親がそこにいた。
いくら僕が小さなころから研究施設で育ったからといってもちろん両親がいないわけではない。むしろ五歳で才能が認められるまで僕は両親のもとで普通に暮らしていた。父親である浅守博文は企業勤めのサラリーマン。優しく、僕にとても優しくしてくれた。
そして僕の母親、浅守静乃は僕が出会った人間の中では最低だった。財産目的で父と結婚し、僕の才能が認められて研究所から誘われると反対する父と離婚して多額の金と引き換えに僕を研究所に預けた。しかも父の不倫をでっち上げ財産を絞りつくして後で。そして父は自殺した。
母が会いに来ることはなくなり、僕も浅守静乃のことは忘れようとしても忘れられない記憶として長く苦しめられていた。
僕が人間不信になった最大の原因である。
だが、浅守静乃はもうこの世に存在しないはずだ。僕が復讐し、恨みのうちに死んだはずだ。
「……これはさすがにナシだろ…」
「どうしたの?そんな顔して。早く着替えなさい」
静乃はそれだけ言ってさっさと家の中に入って行ってしまった。僕は自分の服装を確認すると、僕が通っていた高校の制服を着ていた。
ステータス画面は…開けるな。つまりここはあの世界の一部ってことか…
「幻想にしてもやりすぎだろ…」
取りあえず靴を脱いで玄関から自分の部屋に行った。自分の部屋には僕が買い集めた本が大量にあり、綺麗に整頓されている。研究所から出て一人暮らしを始めた時の自分の部屋そのものだ。
「何がどうなっている…」
外の景色を見ても僕が住んでいた地域の光景が見えるだけ。人もちゃんといてちゃんと動いている。
僕の記憶を基に再現された場所ってことか…どうも分からないな…
考えていると不意に、部屋の扉がノックされた。そして一人の男性が部屋に入ってくる。
「ただいま。燈義」
「……予想はしていたが…これは…」
やはり予測できても対処できないほどの事態は起きるものだと、実感させられた。
そこに立っている男性はやはり、浅守博文だった。
…一体何の目的でこんなことを仕込んだんだ…