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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
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捕縛

 フォールに言われたことが気になり、俺は悠子を探すことにした。今朝は訓練に参加しなかったから姿を見ていないだけだと思うけどそれでも気になる。

 悠子が裏切ってるなんて、そんなことありえない。これはその証明なんだ。


「って、どこにもいないし…」


 探し回ってみるものの全く見当たらない。今日は補助魔法の修業にも出てないらしく誰もその姿を見ていないらしい。

 何か見つける方法とかあればいいんだけど…


「あの」

「ん?」

「お困りですか?」


 突然声をかけられて振り向いてみると、そこに赤いローブを着た女の子がいた。上の空のような表情でボーっとしている印象を受ける子だ。


「えっと…」

「わたし占い屋です」

「占い屋…あぁ!ディスベルさんのお友達の!」


 ディスベルさんが悠子を見つける原因になった人…そうだ!この子ならきっと何とかなるはず!


「ねぇ!悠子のこと探してるんだけど分かる?」

「悠子って、ディスベル様の運命の人?」

「そう!分かる!」

「うん。分かるよ」


 そう言うと占い屋は目を閉じた。すると右目が宝石のように青く光りはじめた。そして右方向を指さす。


「あっちにいるの?」

「うん。そこで立ち止まってる。案内しようか?」

「本当!?ありがとう。そう言えば君、何て名前?」

「名前はないよ。占い屋かセンって呼んでる」


 占ってセンって読むもんね。

 センが歩き出し俺もその先についていく。糸を手繰るように進んでいくとそこは黒く禍々しい扉だった。


「ここって…」

「宝物庫。厳重な封印がされているはず」

「封印は悠子が解いたんだろうけど…なんでそんなこと…」


 まさか本当に…?いや、そんなことない!


「ここ開けられる?」

「無理」


 やっぱりディスベルさんじゃないと無理なのか!でもディスベルさんを呼びに行ってる暇もないし、これ以上負担をかけさせるわけにも…!


「どうかしたんですか?」


 悩んでいると不意に声をかけられた。顔を上げてみると、


「アスルートさん!?起きてもいいんですか!?」

「もう大丈夫ですよ。それよりどうかしたんですか?」

「それは…」

「ここを開けてほしいの。中に人がいるから」


 俺が迷っているとセンが言ってしまった。

 ちょ!?それは!


「中に!?誰が!?」

「それを確かめたいの。いい?」

「兄さんじゃないんだね…分かった!」


 そう言ってアスルートさんは扉の前に行き両手を扉に触れた。すると扉からガチャガチャと鍵が開いていくような音がして、最後にガチャンと音がし、扉が開いた。


 俺は真っ先に入る。宝物庫はドーム状になっていて、その中心には…


「悠子…」

「……見つかった」


 そう言って悠子はにっこりと笑った。目には少し涙が浮かんでいた。



 ディスベルさんやリュートさんを呼び、緊急会議が開かれた。もちろん会議の内容は悠子についてだ。


「それで、なんであんなところにいたんだ?」

「杖が導いた。って言うんかな」


 杖が?


「この杖、アスクレピオスはハデスと深いつながりがあるんよ」

「あぁ…それはアスクレピオスなのか…ただの杖じゃないと思ってたが成程…」


 悠子の説明で納得したらしいディスベルさんが呟く。

 さすが…これで納得したのか…


「えっと…ゴメン。俺、ついていけてないんだけど」

「右におなじです」


 俺とアスルートさんが説明を求める。悠子は俺たちのほうを向いて説明を始めた。


「燈義くんから聞いたんやけどね、アスクレピオスは医学の神で、その医術は人を生き返らせるほどやった。だから冥府の王であるハデスの恨みをかって殺されてしまうって話があるんよ」

「成程…この世界では神話が現実になってるから…」

「そう。この杖を通してハデスと対話ができるんよ」


 ハデスと対話…って、え?それって…


「つまりお前はハデスと話せるんだな」

「そうやね」

「…リュート、ユウコを地下牢に連れていけ」

「ちょ、ちょっと!」


 ディスベルさんの言葉に俺は驚愕し立ち上がる。

 そんな判断って!


「落ち着けユウヤ。これが最善だ」

「でも!もう少し調べて―「いいんよ」


 俺の言葉を悠子が遮る。

 いいって…そんなわけないじゃないか!こんなこといいはずがない!


「大丈夫。信じとるから」

「でも!」

「ユウヤ!」


 それでも文句を言おうとする俺をディスベルさんが制す。俺は文句を言おうとしたものの言葉が見つからない。

 そのうちにリュートさんが杖を取り上げ悠子に手錠をはめる。そして転送魔法を発動させて地下牢へ転送した。


「ディスベルさん!」


 悠子がいなくなってから俺はディスベルさんに向かって叫ぶ。しかしディスベルさんは小さくため息をつき、自分の頬を叩いた。


「落ち着けユウヤ。オレだってユウコが犯人だと思ってない」

「だったら!」

「だからこそだ」


 ディスベルさんは立ち上がり俺の前まで寄ってくる。


「今はこれでいいんだ。これで敵の動きを封じされる」

「どういう事ですか?」

「ユウコやオレたちの戦力だ。そいつを捕まえたんだぞ。わざわざ暴れて戦力を解放するはずがない」


 それって…


「勇者たちを疑ってるやつらがいる。そしてこの展開はそいつらにとって望んでいたものだ」

「つまり、悠子を捕まえることで悠子が無力化し、敵の行動を封じるってことですか!?」

「だからそう言っているだろう。ユウコを信じる。それができるのはこの場にいるオレたちだけだ」


 そんなこと…いや、多分悠子はこの展開を望んでいたんだ。

 でも、どうしてあの時涙を流していたんだろう。それにも意味があるような…いや、それも含めて悠子が無実だと証明できればいいんだ。


「オレはここにいる全員を信じている。ここにいる全員でユウコが無実だと証明する。…これは、命令だ」

「命令を出すってことは魔王様になるってことですか?」


 リュートさんが質問すると、ディスベルさんは鼻で笑って、言った。


「魔王なんて肩書が必要ならそうなってやるだけだ。オレはそう簡単にあきらめるほどできた奴じゃない」

「…それは俺たちも同じですよ」


 そうだ。俺たちはそう簡単に仲間を見捨てられるほどさっぱりした人格じゃないんだ。

 事件を解決して悠子を助ける!それで全部解決だ!

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