好嫌
僕が目を覚ますとまず飛び込んできたのはフォンの顔だった。僕はまだ少しボーっとする頭を起こして辺りを見回す。
ここは…最初の休憩地点か。僕はいつの間に眠って…
「大丈夫か?」
「フォン、僕はいつの間に眠っていたんだ?」
「分からない。こちらもさっき起きたところなのでな」
「こちら?」
「あぁ。キトルとルーだ」
そうか。あこそにいたメンバーは眠らされていたのか。
「トーギ、起きたんだね」
「キトルか…これもあいつの意思なのか?」
「…多分ね。課題は貰ったでしょ?」
あぁそうだ。あの本、ラーから渡された魔導書。
僕はステータスを見てみる。
トーギ=アザガミ
男 17歳 Lv 65
HP 3100/3100
〈スキル〉
魔導書館
太陽の書(封印)
増えていた。凪川のデュランダルのようなものか。
太陽の書か…これ自体一つのスキルになるんだな。でも封印状態じゃ使えないのだろう。
僕はため息をつきつつ立ち上がった。僕たちが眠っていたのは三十分ほどでその間、他の奴らは食事の支度やらをしていたらしい。
よく訓練されてるな。
「さてと、とりあえずこれからの方針を話しておくよ。到来機関としてはここで引くわけにはいかないから魔力魂を取りに行くよ」
「待て、フォンがいるんだぞ、ここに」
「その件なら問題はない。すでにルーから話は聞いている」
フォンはそう言った。
ルーと話っていつ…あぁ、そういえばフォンとルーだけまだ眠っていた時があったな。その時か。
そういえばあの時、キトルは偽物だったはずだ。だったら本物のキトルはどうしたんだ?寝ていたのか?
「お前たちが到来機関にいる理由が分かったよ」
「そうか。それでお前はどうするんだ?」
「同行させてもらう。話はついたが納得はしていない」
フォンは真実を知らなくてもついてきそうだけどな。
こうして僕が寝ている間に話はつき、僕は話においていかれないように話を聞きつつ昼食をとった。
山の中では色々とあったようだが何ともなく、私たちも子供の世話をしつつ昼食をとることにした。
「フェルちゃん、どうしたの?」
「いえ、あの時から警戒しているのです」
「あの時って…あぁ、ストーカーの時」
「はい。今のところ害はないとはいえ誰かを傷つけかねない異常者、警戒しなくてはいけません」
あー…ストーカーについてかなり危ない人だって教えちゃったから警戒してるのか。そんなに警戒しなくてもこんな白昼堂々犯罪を犯す人はいないと思うけど…それに狙いはルーさんみたいだし、そのルーさんは天碌山に行ってるし。
「フェルちゃんってさ、子供好き?」
「嫌いではありませんが、苦手ではあります」
「そうなんだ」
まぁフェルちゃんって子供っぽいことしてこなかったみたいだから子供心ってのが分からないのかも。そう言うの燈義くんも同じなのかもね。まぁ燈義くんの場合は子供と関わらうとすらしないと思うけど。
「ミツキさん、ひとつ聞いていいですか?」
「何?」
「あなたはこの世界のこと、どう思いますか?」
「どうって…そうだなぁ…」
私は少し考えてから言った。
「いい世界だと思うよ。月並みな感想だけどね」
「どうしていい世界なんですか?」
「どうしてって…」
「だってこの世界は、いくら創られた世界だとしても人には意思があります。そして人々は意思を持って行動しているからこそ愚かな選択をしてしまいます。決して創造主が介入していない事件もこの世界では多発しています。それを見てどうしていい世界だど思うのですか?」
フェルちゃんは心配そうにそう聞いた。私は少し考えてから笑った。
「私たちがいた世界でもそんなんだったから、ううん。私たちがいた世界は魔法なんてなくて、命が表示されることもなくて、神様なんて誰も見たことがなくて…そんな世界だったからきっと、この世界に憧れてるの」
「憧れ?」
「うん。魔法があればどんな難しい病気だって治せる。命が表示されてれば自分が後何をすべきなのかが分かる。神様がいるって分かるから敬って、崇拝して、頑張って生きることができる。そんなこと私たちの世界ではできないんだよ」
そう言って私は元いた世界、地球を思い浮かべる。
やっぱりこの世界とは決定的に違うよね。まぁ文明が違うんだから当たり前なんだけど。
「少なくとも私の周りではね、神様を本気で崇拝してる人なんていなかったし、本気で神頼みをする人もいなかった。奇跡なんて起きるはずないって思ってた。でも、ここは違う。奇跡を信じされる。神様に頼み込める。それだけでもこの世界は魅力的で、憧れちゃうんだよ」
まぁ結局は地球にないものに興奮してるだけかもしれないけど。
この世界でも理不尽なことはきっとある。でもこの世界は地球より救いが多い。
「それに、フェルちゃんや燈義くんに会えた世界だもん。いい世界だよ」
「トーギさんとは同じ学校だったのでは?」
「そうなんだけど…話しかけても答えてくれなかったんだよね。仲良くしようと頑張ったんだけどダメだったし。最初二人きりになったときは焦ったよ」
まぁ燈義くんのおかげであの時は助かったんだね。
あれから色々あったなぁ。
「ミツキさん」
「なに?」
「スキルを使っていただけますか?」
「どうしたの?」
「…今、殺気が」
殺気!?私は驚いてスキルを使うが隠れている人などは見当たらない。
隠れる必要がないってこと?じゃぁその殺気って…
ストーカー!?
「ッ!ミツキさん!」
「へ?」
フェルちゃんに言われてそっちを見てみると、刃物をもった男が私のほうに迫って来ていた。