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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
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失踪

 アスルートさんをベッドに寝かせ、リュートさんに見張りを任せて俺はディスベルさんの元に向かう。

 ディスベルさんは自分の部屋におりそこで本を読み漁っていた。ホトさんもディスベルさんが読み終わった本の整理をしている。


「…ユウヤか…」

「ディスベルさん、その…大丈夫ですか?」

「大丈夫だ…」


 アスルートさんがケガしたことはディスベルさんにとってかなり精神的に痛手になったようで今でも死者のスキルを使うスキルについて探している。確かにあれだけのスキルなら今までにも事件を起こしていてもおかしくはないけど。


「…ないな」

「ないんですか」

「あぁ、ない。どんな報告書にも複数のスキルを使う事件はなかった」


 つまりあの犯人は僕たちだけを狙っているんだ。でもどうして僕たちを…やっぱり考えられるのは次期魔王の座なんだろうけど、でもジューダスさんが仕掛けたのならアスルートさんを危険な目に合わせることは考えにくい。


「それで、どうするんですか?」

「アスルートに関しては魔王城で療養させる。ジューダスとも連絡が取れないしな」

「連絡が?こういう場合は真っ先に帰らせようとすると思うんですけど」

「オレもそう思ってた。一体何がしたいんだ…」


 本当にジューダスさんは何がしたいのだろう…アスルートさんを少しの間だとしても手放すことはないと思ていたのに。


「ジューダスの城には使者を向かわせている。報告次第だな」

「お休みになられますか?」


 本の整理がひと段落ついたホトさんがディスベルさんに話しかける。ディスベルさんは一つ頷いたので俺はディスベルさんの部屋から出て新しく用意してくれた部屋へと向かう。


 ジューダスさんの城へは三時間もあれば往復できる。報告は明日になりそうだ。

 …これで少しは進展してくれればいいんだけど。



 翌朝、俺はいつも起きるよりも少し遅い時間に起きた。そしてべリアちゃんをホトさんに預けて会議室に向かう。

 使者が帰ってきたらしい。会議の内容は報告と今後についてだ。


 会議室に入ると丁度ディスベルさんが資料をまとめ終わってメイドに配ってもらっているところだった。


「すみません。遅れてしまって」

「起きたのか…後で報告させるつもりだったんだが」

「大丈夫です。しっかり休みましたので」

「そうか…じゃぁ座ってくれ」


 円卓の周りの椅子で空いている所に座り会議が始まった。


「それじゃ会議を始めるが…とりあえず使者からの報告からしよう」


 そう言ってディスベルさんはため息をつき、言った。


「いなかったそうだ。そして今も行方は知れない」

「失踪したか、逃げたかってところでしょうか」

「いないことは確かだが失踪したか逃亡しかたの判断は難しい。今は向こうの城の兵と協力して捜索している」

「しかし向こうの兵が逃亡の手助けをしている可能性があります」

「大丈夫だ。この城の兵と二人一組にしてある。万が一のことが起きたら軍の

出撃も考えているしな」


 資料にまとめられたことについて臣下の人たちが質問し、ディスベルさんが質問に次々答えていく。

 すごい。もうこれだけのことに手を打ってるのか…


「それでここからが本題だ」

「と、いいますと?」

「死者のスキルを使うスキルについて分かったことがある」


 その場にいる全員が小さく驚きの声を上げる。まさかこんなに早く手がかりが見つかるなんて思ってもいなかった。

 そしてディスベルさんは一冊の本を取り出した。そして本を開きつつ説明を始める。


「『門』に関する本ですか…」


 リュートさんが呟く。

 門?それってなんのこと?


「門は冥界と現世の分かれ目。存在を確認したものはいないがその門を司る神がいる」

「神?」

「あぁ。冥府の神、ハデスだ」


 ハデスは浅守でなくても知ってる神の名前だ。確か冥府の神だった気がする。その程度しか知らないけれど多分これを知っていれば十分なんだろう。


「ハデスの刻印というものがある」

「刻印?」

「そう。ハデスと契約したものに与えられるものだ。ハデスの力の一部を受け継ぐことができる」

「そんなこと…」

「ちなみに契約する方法は分かってない。ただ」


 ディスベルさんは本を閉じた。


「これは魔王城の一番奥にしまってあった。厳重な封印の元な」

「それって…」

「……正直、オレはアスルートを疑ってる」


 絞り出すような声でそう言った。

 魔王城にはいくつか立ち入り禁止の場所がある。俺はもちろんリュートさんですら入ることが許されない場所もある。魔王が決まっていない今そこに入れるのは次期魔王候補であるディスベルさんとアスルートさんだけだ。


「ちなみにオレは潔白だ。なんなら全員がいる前で精密検査をうけてもいい」

「そんなこと誰も思ってませんよ」


 リュートさんの言葉に全員が頷いた。ディスベルさんがあの敵だとは思えないのは全員同じだったようだ。

 ディスベルさんは「ありがとう」と言った。


「それを知っていそうなやつが一人いるんだがな…」

「フォールのことですか…」


 フォールはまた空中にある黒い塊の中に引きこもってしまった。今でもあいつは俺たちの様子をみつつ画策しているのだろうか。

 そんなことを思っているとディスベルさんは立ち上がり「質問は?」と聞いた。しかし質問はなくその場で会議は終わった。


 俺は会議室から出て城の屋根の上に向かう。

 そこには予想どおり、フォールがいた。いや予想通りと言うか感じた通りというか。


「やぁ。面白いことになったね」

「どこが面白いんだ…憂鬱だよ」

「へぇ?力を試せるいい機会だと思うけど」


 フォールはそう言ってにやりと笑った。


「それで、何の用だ?」

「おいおい酷いなぁ。君に力を教えてあげたのはボクじゃないか」

「それも計画のうちなんでしょ?」

「まぁそれは置いといて、君のお仲間はどこにいるんだい?」


 お仲間って悠子のことか…そう言えば最近姿を見せないことがあるし、会議にも出てなかったな…絶対出ると思ったのに。


「ま、探してみたほうがいいんじゃなか?」

「どういうことだ…?」

「灯台下暗し。とでも言うんだろうね」


 そう言ってフォールは消えた。

 灯台下暗しって……まさかね?

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