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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
110/258

本体

 あの謎の襲撃者を今度こそ捕まえるため俺は夢の中でフォールとともに特訓をしているわけだが、あれからエクスカリバーの解放が一回もできていない。この夢はできるだけ現実に則して創られているからここで掴んだ感覚は現実に持っていけるんだけど…これで岩に潰されるのは三十回を超えただろうか。


「血だらけだねぇ~」

「楽しそうだね…」

「楽しそう、じゃなくて楽しいんだよ」


 さすがは魔王というところだろうか。いや全く関心できることじゃないけれど。


「やっぱり引き金は誰かを守りたいって心だったり?」

「そうなんでしょうけど…誰か呼んだら本気で斬りかかるよ?」

「斬りかかって勝てるならここにいないでしょ?」


 まぁそうなんだけどね。

 俺は立ち上がりエクスカリバーに意識を集中させる。思い出せ、あの時のこと、あの時の世界が輝いたような感覚を。


「アドバイスしてあげるよ」

「…何?」

「エクスカリバーに意識を集中させるんじゃない。君自身にも意識を集中させるんだ。正確には君の中にある魔力に意識を集中させるといい。君は一度覚醒しているんだからそれができるはずだよ」


 フォールにそう言われて俺は自分とエクスカリバーの両方に意識を集中させようとするがどうもうまくできない。というかどうやっていいかわからない。

 そもそも意識を二つに分かれさせるってどういう事なんだ…


「仕方がないなぁ」

「?」


 そう言ったかと思うとフォールは闇核をだし、それを俺に押し付けた。そして俺を襲う拒否反応。具体的に言うのなら自分を客観的に見れてしまうほどの痛み。


「選択、間違えるなよ」


 フォールの声が聞こえたかと思うと俺の意識は途切れた。

 …夢の中でも…寝られるんだ……



 ―――――目を開けると、俺は自分の部屋のベッドの上にいた。

 あれ?あれで終わり?なんかすごい痛みがあった気がするけど。


「……あれ?べリアちゃん?」


 隣にいるべリアちゃんがいない。というかこの城自体なんかおかしい気がする。

 俺は起き上がり部屋を出ようとして立ち止まった。廊下がない。俺は愕然とした。


 城が崩壊していた。


「なんだ…これ…」


 地面に下りて誰かいないかと探してみても誰もいない。まるで世界が死んだような感覚を受ける。俺はとにかく何が起きたのか探るため瓦解した城を出て崩壊した街中を探る。


「崩壊って…これは夢?フォールが何かしたのか?」


 全く誰もいない道を進んでいると先のほうで煙が上がっていた。しかも火事が起きているような大きな黒い煙だ。俺はその煙の元へと走る。


 そして、そこで目にしたのは―


「…嘘、でしょ?」


 まさに魔物と戦争をしている魔族の兵士たちだった。俺は何が何だかわからないものの見過ごせるはずもなく、エクスカリバーとデュランダルを手に斬りかかる。しかし俺は誰にも気づかれず、しかも俺の攻撃は魔物に当たらない。


「これは…!」


 夢、なのだろう。フォールが見せている夢で、俺が覚醒しないとこうなってしまうという暗示なのだろう。

 伝説の剣を二本も持って、それでも何もできずに立ち尽くすしかないという、僕が最も忌避する未来なのだろう。


 でもこんなもの、なんで見せたんだ…?


「世界は創りなおされ、君は召喚しなおされた」


 疑問に思っていると、世界が止まった。時間が止まり兵士も魔物も、噴き出している血すらも空中で止まっている。

 そして、俺の背後に気配がした。俺は驚いて振り向くとそこには光の塊があった。あのフォールの闇の塊と同じ、でも決定的に違う何かがあった。


「わたしは意思、世界の意思、君に力を与える者」


 そう言って光の塊は俺の体を包み込んだ。そこは暖かく、心地いい場所だった。


 そうか…この力があればいいのか…

 そんなことを思っていると不意に、浅守を思い出した。どうして彼はあんなに強いのだろう。


 そんなもの決まっている自分の力を信じているからだ。そしてあの時以来俺が大切な場面で負け続けているのは、自分が自分を信じていないからだ。


 だったら信じてみよう。自分を、エクスカリバーとデュランダルが選んでくれた自分を。


「君に、わたしを「それはいいです」


 多分これはあれだ。世界の意思とか、勇者補正の本体なんだ。


「世界の意思とか、力とか、そういうのは頼らないんで」

「この先の戦い、この力がなければ勝てないのかもしれませんよ?」

「勝ちますよ。そしてこんな未来は来ません」


 そう言って俺はエクスカリバーを構えた。

 そうだ。こんな世界にするわけにはいかない。俺はこうしないためにいるんだ。


「世界を守る。そう誓った!」


 そう言って俺はエクスカリバーを振り下ろした。



 気が付くと目の前の岩が真っ二つになっていた。



「獲物が変わっただけでこれか…いや恐れ入るね」

「なんであんな世界なんだ」

「だってさ、要するにそれは信頼されてなきゃ使えないんだよ?自分の力に頼らず世界に頼るなんてことする人には使えない」

「いやまぁそうなんだろうけど…」


 光る自分の体を見てため息をつく。

 最初っからできてたんだ。後は自分の力を信じられるか、というかエクスカリバーやデュランダルとともに戦えるかと言う話なのだろう。


 誰よりも強くなくていい。誰かに負けても自分を信じ続けることが大事なんだ。


「なーんか悟ったみたいだけど、君の目の前に立ちはだかっている敵は強大すぎるよ?世界を滅ぼすつもりでいかないと」

「…分かってますよ」


 それでもいい。俺一人で勝てないのなら皆を頼る。


「というか、俺は世界を滅ぼしたりしませんよ」

「へぇ?じゃぁどうするんだい?」

「決まってるじゃないですか」


 俺はフォールに宣言する。フォールが失笑しそうなことを堂々と言葉に出す。


「世界を救うんですよ」


 予想通り爆笑された。

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