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魔導書製造者  作者: 樹
それぞれの戦い
109/258

半々

 ルーとキトルを恋人同士にするため美月が画策している中、僕とフェルは戦力にならなさそうなのでまたアーキアの調査を開始する。もうすぐ天碌山にも着くし何とか解決の糸口を見つけたい。

 天碌山はエルフ領にあるんだが…国境問題とか大丈夫なのか。


「まぁ天碌山は高い山だからね。王都に何かしなければ攻めてくることはないよ」

「そうだといいがな」


 なにせ今の王はフォンだからな。一人で天碌山に登っていてもおかしくない気がする。


「まぁ万が一誰かいても君がいれば即攻撃なんてことはないだろう?」

「だといいがな」


 そうして到来は天碌山へと到着した。とはいえ着地する場所もないし着地したら魔獣が入ってくる可能性も高いし何より魔物が入ってきたら終わりだ。

 だから天碌山に下りるのは僕とキトルとルー、そして他十五名の精鋭部隊だ。

 天碌山は深い霧に覆われておりどこから魔獣が飛び出してくるかわからない。電脳種のレーダーがなければ絶対に入ろうとは思わない。

 まぁ平均レベル30なんだから今ならそうやられることはないだろう。


「それで、魔力魂はどこにあるんだ」

「頂上だよ」


 頂上って、結構あるな。そう簡単に手に入るとは思っていなかったが面倒だ。

 そういえば天碌山にはネコに似た何かがいるらしいがそれを調べてみるのもいいかもしれない。そんなことを思いつつ山を登っていると魔獣らしき声が聞こえたが、後方の誰かに倒されていた。

 魔獣のほうは問題なさそうだ。でも


「ルーさん大丈夫?」

「だ、大丈夫だ!」


 明らかに動揺しているルーのほうが心配だ。一体なにを教えられたんだあいつは。

 そんなルーを気遣いつつもルーの気持ちに気が付かないキトルは本当に凪川に似ている。つい最近まで恋愛そのものに気が付かなかった僕が言えることでもない。


 だが 気付いてやれよ。


「そういえばルーさん、悩みでもあるの?最近顔色が優れないみたいだけど」

「何でもないよ!?」

「なんで驚いてるのさ」


 「あはは」と能天気に笑うキトルにルーはけりを入れさっさと先に行ってしまう。キトルは蹴られた右足を押さえてうずくまっている。

 自業自得だな。


「あぶない!」


 そう言ったかと思うとキトルは駆け出し、霧の中から飛び出してきてルーを襲おうとするギルアトルというGを巨大化したような魔獣からかばいギルアトルを倒す。


「―ッ!」

「どうしたのルーさん!?顔が赤いよ!?」

「な、なんでもない!」


 キトルの腕に抱かれている状態になっているルーは顔を赤くしてキトルから離れた。

 まさか学校で何度も見た光景をこんなところで見ることになるとは。


「早くいくぞ」

「わ、分かってる!」


 キトルから真っ赤になって離れたルーを先頭に僕たちは山を登る。



 休憩をするため僕たちは開けた場所で休む。キトルは遠くのほうで到来に報告している。そしてルーはそんなキトルを見てため息をついた。


「お前さ、なんでキトルのこと好きになったんだ?」

「…アタシは獣人と人間のハーフでさ、見た目は獣人だけど力が弱い。辺境の村は結構生活が厳しくてね。アタシみたいなハーフはストレス発散の道具になってたわけだ」


 僕は黙ってルーの話を聞く。


「アタシが十歳の時に両親が逃げ出して、唯一の支えを無くしたアタシは村から逃げ出そうとして捕まって…それからしばらく監禁されてね」

「監禁か…」


 まぁ僕も小さいころから親と離れて研究所にいたからその気持ちは多少わかる。でも監禁なんてことは僕の孤独とは比べ物にならないほどつらいのだろう。


「そんな時、アタシを助けてくれたのがキトルなんだ」


 そう言ってルーは目を閉じた。その時のことを思い出しているのだろうか。


「まだ到来機関ができる前だったな…」

「それでキトルに惚れたのか」

「そうだ…」


 顔を赤くして俯くルーを見てため息をつく。

 面倒なことになりそうだ。

 そんなことを思っていると、誰かが敵襲を知らせる笛を吹いた。僕たちは立ち上がり周囲を見回す。


「敵か…」


 一体何が出てくるのか…レーダーでとらえたところ人型をした生命体で、まっすぐこっちに近づいてくるらしいが…


「来ます…」


 誰かが呟き指をさす。僕たちはそちらのほうに目を向けて―


「人!?」

「………フォン、何してるんだ」


 体中に葉や木の枝を付けたフォンがいた。


「トーギ!久しぶりだな!」

「トーギ知り合いか?」

「知り合いも何も、あいつこそエルフの女王だ」


 僕に質問したルーが驚いてフォンを見る。フォンは嬉しそうにこっちに駆け寄ってきた。


「よかった!息抜きに登山をしていたら霧が出てきて焦ったんだ!」

「また一人でか」

「一人じゃなきゃこんなとここれん」


 じゃぁ来るな。


「ところでそいつらはだれだ?」

「あー…電脳種のやつらだ」

「成程。そういえばトーギたちはコーホジークで世話になっているんだったな」


 こいつらはコーホジークじゃないがな。

 そんなことを話しているとキトルがフォンに挨拶を始めた。


「初めまして。キトル=キトリと申します」

「初めまして。エルフの女王であるフェルイ=フォンだ。よろしく」


 フォンとキトルはお互い握手を交わす。

 しかしこいつにばれると面倒じゃないか。


「そういえばトーギ、最近コーホジークには到来機関という賊が出るらしいな」

「あぁ」

「大丈夫か?聞いた話では奴隷を攫っては売りさばいているらしいが」

「そ、そんな―」


 反論しようとしたルーの口をキトルが押える。腹が立つのは分かるがそう簡単に暴露しないでほしい。どうもフォンは僕たちが到来機関にいることを知らないみたいだし、到来にもあまりいい印象を抱いていないようだ。ここで暴露したら「目を覚ましてやる!」とか言って攻撃してきそうだぞ。


「どうしたんだ?」


 疑問に思っているフォンに顔をよせ小声で話す。


「…あいつはキトルのことが好きなんだよ…」

「…そういう…」


 フォンはルーに優しい目を向けて僕のほうに目を向ける。


「どうしてお前はここにいるのだ?」

「色々とあってな。僕たちの世界の痕跡を探しに来た」

「そうなのか。まぁそこら辺はよく分からないからいいとして…」


 フォンはため息をつき僕に言った。


「迷ったから一緒に行ってもいいか?」


 …断れないよな。うん。

 こうして僕たちは爆弾を抱えて進むことになった。

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