覚醒
湖のほとりでネッシーと黒ずくめに襲撃に晒されている。しかもその黒ずくめは浅守から聞いたモンスターテイマーのスキルとギアトさんの過速のスキルを使っていた。
「一体何のスキルだ…!いやまずは周りの人の避難を!」
「もう終わってるみたい!」
確かに周りを見回すと誰もいなかった。
いやこれは逃げたというより元々誰もいないような…空間隔離の魔法か。一定の範囲を隔離する上級魔法か。悠子しか使ったところ見たことなかったんだけど…
「…どこだ…」
「どこにもいないよ」
「いやいるはずなんだけど…」
空間隔離なんて魔法をするくらいなら確実に襲撃してくるはずなんだけど…こんなことまでして何もしないのは…
「―ッ」
べリアちゃんを抱えて右に跳ぶ。そして俺たちがいたところには大きな穴が開いた。
やっぱりまだいたか…そうだよね。これだけして帰るのもおかしいよね。でもそう簡単にやられるわけにはいかないんだよね。
俺はデュランダルを融合し、攻撃に備える。
「…こないなら、あぶりだすよ」
中級魔法ハリケーンで周りを吹き飛ばす。するとハリケーンがかき消され、俺たちから十メートルほど前方にフードをかぶった誰かが居た。
隔離されたのは半径三十メートルってところかな。
「敵に容赦はしないよ」
ウィンドストライクで相手を狙うも同じウィンドストライクで相殺されてしまった。
…おかしいな。一応確認したほうがいいよね…
「グラビティアラウンド!」
重力魔法で相手を潰そうとするも躱されてしまう。
成程。やっぱりか。
グラビティグラウンドは重力系の中級魔法だ。しかしその威力は上級魔法であるファイナルグラウンドよりも上である。中級魔法である理由は魔法の発動時間が遅いこと、そして攻撃が予測しやすく外れても五秒くらい魔法が発動し続けその間は一切の行動が制限される。
今回はべリアちゃんがいたしデュランダルと融合してるから心配なかっただろうけど次からはやりたくない実験だ。でもこれで分かったことがある。
「回数制限か時間制限があるのか…」
どういうスキルなのかはわからないが連続して使えるものじゃないらしい。だって俺達を仕留めたいのなら今の五秒の間に過速を使って俺達を使えばいい。
「あはは、楽しそうなことしてるねぇ」
「フォール!?なんでここに!?」
「空間隔離の中に空間隔離をしてみました。しかもこれは上級とかそんなんじゃなくて闇魔法だからね。破られはしないよ」
「…いや取りあえず聞くけど、なにその格好」
「似合う?」
似合う似合わないの問題じゃない。
フォールはあのお菓子を買った店員の服を着ていた。というか俺にお菓子を進めてくれたのがフォールだった。…毒を盛られたんじゃないだろうか。
「いやそんなことはしないよ」
「心読まないでくれる?」
「そんなこと言ってる場合?」
まぁ確かにそんなこと言ってる場合じゃない。
「あいつ面白いね。君じゃ勝てない」
「じゃぁ逃げろと?」
「いや違う。こうするべきなんだ」
そう言ってフォールは右腕を振るい、俺の隣にいたべリアちゃんが消えた。
…は?
一瞬頭が真っ白になり、ハッとなって相手のほうを見てみると近くに気絶しているべリアちゃんが倒れていた。そして相手は腕を振り上げている。
「ほら、早くしないと死んじゃうよ?」
フォールの言葉が引き金となり、俺は何も考えず全力で相手に突っ込んだ。
―――――あれ?俺はどうしたんだっけ。
そう思って体を見てみると、光っていた。そして俺の手の中にはべリアちゃんがいた。どうやら気絶しているだけのようだ。
あぁ、こうか。こうやるんだ。エクスカリバーとの融合はこうすることでできるんだ。
「頑張れ勇者くん」
「言ってくれるね魔王様」
俺は立ち上がりフォールに言葉を返し相手と向き合う。そして俺の周りに漂っている魔力を構築し、二本のエクスカリバーを生み出した。
フォールの闇魔法が破壊ならば俺の光魔法は錬成。世界に満ちている魔力を集めて固め、なんでも作ることができる。
「…行くよ」
俺は静かに宣言し、地面を蹴った。そして両手に持ったエクスカリバーで相手に斬りかかる。相手はそれを防ごうとするが今の俺はデュランダルと融合している。デュランダルの切れ味とエクスカリバーの破壊力を前にしてどんな防御も無意味だ。
それを悟ったのか相手は過速を使って逃げる。俺は追おうとしたものの急に力が抜けてその場に倒れてしまった。
倒れる瞬間に、嬉しそうにこっちを見るフォールと向こうのほうから走ってくるリュートさんが見えた。
……目を覚ますと、魔王城にある自分の部屋にいた。隣にはべリアちゃんも寝ている。
あれ…どうやったんだっけ…
「起きたか」
「ディスベルさん…」
「全く、面倒なことをしてくれたな」
「いや俺の意思じゃないんですけど」
「だとしても面倒なことをしてくれたもんだ。せっかくユウコと二人きりだったのに」
まぁそれは悪いと思ってますけど…それにしてもあの敵、何者なんだろう。フォールかと思ったけどどうも違うみたいだし、もしかしたらジューダスさんの手先かもしれない。だとしたらあの状況で逃がすべきじゃなかったんだろうけど…燃料切れかな。もっと強くならなくちゃ。
「今度はこういうことないようにな」
「…はい」
まぁ、心配はしてくれてるみたいだね。
ディスベルさんが出ていき、俺はため息をつく。
「いるんでしょ。フォール」
「いるよ~」
そう言ってフォールが壁から出てきた。ホラー映画みたいなんだけど。
「フォール、あいつのスキルは何」
「どうしてぼくに聞くのかな」
「なんとなく」
そう言うとフォールはにやりと笑った。
「ぼくもこの世界についてはあんまり知らないんだけど、あいつのスキルは推理できたよ」
「…そう」
フォールが推理できるんなら俺にもできるはずだ。なにせ俺はフォールよりもいろいろな場所を見てきたのだから。
俺は目を閉じ、あの光景を思い出す。あの時の戦い、あの時の敵を思い出し―
「あ…」
そしてその答えにいき着いた。